日本製鉄は7日、アメリカのバイデン大統領によるUSスチール買収計画の中止命令を不服として、提訴した。橋本英二会長は同日朝の会見で、「米国の事業遂行を決して諦めることはない。諦める理由もない」と述べ、買収計画の正当性と大統領令の違法性を強く主張した。
大統領の政治的介入を批判
橋本会長は、バイデン大統領を名指しで批判し、「本当に安全保障上の問題があるのであれば、とっくの昔に承認しないと判断できたはずだ」と指摘。大統領令は政治的理由に基づくものであり、CFIUS(対米外国投資委員会)の審査手続きも適正に行われなかったと主張した。
また、日本製鉄は、大統領・労働組合と結託して買収計画を潰したとして、競合企業への損害賠償訴訟も起こしている。賠償訴訟で得た結託の証拠を、バイデン米大統領への攻撃材料に使う作戦と日経新聞は報じている。
CFIUSの審査の遅れは兼ねてから言われていた。当初日本製鉄とUSスチールは大統領選を見越して、発言の読めないトランプ大統領に政権が移る前に結果を出したかった、具体的には2024年夏には審査が通ると見越していた節がある。そこに対して、全米鉄鋼労働組合やクリーブランド・クリフスなど競合他社の横やりが入り、審査が先延ばしされたとみる識者は多い。
買収計画の意義と勝訴への自信
橋本会長は、買収計画がUSスチールおよびアメリカの鉄鋼業界にとって最適な案であることを強調。大統領令の判断が憲法や法令に違反していることを裁判で示せると自信を示し、「勝訴のチャンスはある」と述べた。
関係者の反応は賛否両分
ただ、全米鉄鋼労働組合のマッコール会長は、日本製鉄の提訴を「根拠のない申し立て」と批判し、争う姿勢を示した。同様に提訴されたクリーブランド・クリフスのゴンカルベスCEOも、日本製鉄を「恥知らず」と非難した。一方、ホワイトハウスのジャンピエール報道官は訴訟へのコメントを避けた。
トランプ次期大統領、USスチール買収問題に改めて反対表明
アメリカのドナルド・トランプ次期大統領も自身のSNSに投稿し、日本製鉄によるアメリカの鉄鋼メーカーUSスチールの買収計画に改めて反対する姿勢を示した。同計画はバイデン大統領によって一時禁止命令が出されているが、トランプ氏は投稿で「関税の導入によって、USスチールがより収益性の高い、価値ある企業になるのに、なぜ、彼ら(経営陣)はUSスチールを売却したいのか」と疑問を呈した。
そのうえで、「かつて世界で最も偉大な企業であったUSスチールに、再び偉大さを取り戻す役割をリードしてもらえたら素晴らしいと思わないか。すべてはあっという間に実現する」と述べ、米国内の鉄鋼産業再建への意欲を強調した。
SNS上でも様々な意見
SNS上では、日本製鉄の提訴を支持する意見や、提訴を批判する意見など、様々な反応が見られた。中には、全米鉄鋼労働組合の過去の行動を批判し、USスチールの経営悪化の責任を問う声もあった。
トランプ大統領はディールにのるのか? 勝算はあるのか
日本製鉄は、裁判を通じて大統領令の違法性を立証し、買収計画の実現を目指す構えだ。しかし、大統領による安全保障上の判断の根拠は非公開とされており、証拠の提示が課題となる。
何よりトランプ大統領が誕生した際に今回の日本製鉄の動きがどう映るのかという懸念もある。トランプ大統領はディール好きだから、交渉の余地ありという声がSNSには多いが、本件に関しては自身の考えを翻すことは、支持者たちの心情を想えばほぼないという見方が強い。かえって他の日本企業に悪影響がでないかという弱気な声も上場経営者からは聞こえてくる。
ただ、日本製鉄にとっては、USスチールとの合併は悲願であり、中国企業と伍していくためには必須の合併だったことは間違いなく、それだけに引くに引けない状況になっているのではないかという指摘もある。
日本の大企業による米大統領を相手取った前代未聞の裁判の行方と、米国の鉄鋼業界、そして日米関係への影響が注目される。心情としては日本製鉄に頑張ってもらいたいが、勝算はあるのだろうか?