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世界幸福度ランキング発表でステークホルダーの利益向上は日本人の幸福度を上げられるか

コラム&ニュース コラム
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1.世界幸福度ランキングが表す”幸せ”とは

世の中には様々なランキングがあるが、日本が下位に留まるもののひとつが「世界幸福度ランキング」だ。正式には「世界幸福度報告」という名称で、国際連合の持続可能開発ソリューションネットワークによる調査である。2012年にスタートした同調査は、150以上の国を対象として毎年報告がされている。

コロナ禍の2020年を経て発表された2021年の調査(https://happiness-report.s3.amazonaws.com/2021/WHR+21.pdf)では、1位がフィンランド、2位がデンマーク、3位がスイスという結果となった。なんとフィンランドは4年連続の1位である。上位には北欧諸国が並び、10位のうち9カ国は北欧とヨーロッパが占めた。

下位はアフガニスタン、ジンバブエ、ルワンダなど紛争や貧困が課題となっている国が並んだ。

日本は前年度の62位から順位を上げて、56位。アジア・オセアニア地域ではニュージーランドの9位がトップで、オーストラリア(11位)、台湾(24位)、シンガポール(32位)と続く。中国は84位、韓国は62位、香港は77位だった。

同調査では下記の6つの項目について、対象となる国の個人にアンケートを取り、幸福度を算出する。

  1. 人口あたりGDP(対数)
  2. 社会的支援(ソーシャルサポート、困ったときに頼ることができる親戚や友人がいるか)
  3. 健康寿命
  4. 人生の選択の自由度(人生で何をするかの選択の自由に満足しているか)
  5. 寛容さ(過去1か月の間にチャリティなどに寄付をしたことがあるか)
  6. 腐敗の認識(不満・悲しみ・怒りの少なさ、社会・政府に腐敗が蔓延していないか)

 

この幸福度の算出では、社会制度、文化、政治・経済の状況が影響するのである。上位に並ぶ北欧諸国は福祉国家と呼ばれる体制を築き、福祉制度や教育制度が充実している。また、欧米ではボランティアやチャリティに参加することが一般的であるから、寛容さの数値が高くなることも想像に難くない。

アジア勢上位の台湾がコロナ対策に成功し、感染者が非常に少ない状態を保っていることは興味深い。緊急事態への政府対応の的確さ、国民の協働意識が高いことが、幸福度にも何らかの影響を与えているのかもしれない。

 

2.仕事は生活のためと割り切れるとは限らない

経済面における幸福度を、国連の調査ではGDPを用いて算出している。ただしGDPを用いると、国内生産活動に限定される。より広義な幸福度を考える場合には、もっと多くの要因を考えなくてはいけない。

「経済が成熟段階に入った国においては、人々の幸福度を高める要因として何が重要なのであろうか。様々な回帰分析の結果によれば、個々人の所得・資産も確かに幸福度に影響を与えるものの、家族との関係(結婚しているか否か、離婚経験があるかなど)、仕事の有無と雇用の保障の程度、地域コミュニティでの活動や友人との関係、健康状態等が幸福度により大きな影響を与えることが報告されている(Layard.2005参照)。」とは、書籍『株主主権を超えて-ステークホルダー型企業の理論と実証』(広田真一著、東洋経済新報社)にある分析だ。

同書ではまた、「先進国においては、仕事は単なる所得の源泉ではない。仕事は人々が社会とのつながりを持つ場であり、それがあること自体が人々の幸福度を上昇させるのである。」と、幸福度を上げる要因を挙げている。

現代では、1日のうち多くの時間を仕事に費やす人が多い。いくら生活のためと割り切っても、仕事や職場環境への不満は心身の健康を左右する。また、企業誘致が地方創生につながることからわかるように、企業が地域経済やそこに住む人の生活に与える影響は大きい。

3.ステークホルダーを重視する企業が幸福度向上を後押しする

雇用の安定や保障の充実は従業員の生活基盤を支える。日々の暮らしはもちろん、病気や怪我のリスクが発生した時も、治療費を支払う余裕がなければ手厚い治療は受けられず、健康を害する。

雇用が不安定だと、その家庭の子どもの将来も左右しかねない。近年の日本では子どもの教育格差拡大が問題となっている。教育レベルが高い家庭では進学や就職の選択肢が広くなる傾向があり、それは収入の格差につながっていくだろう。

従業員というステークホルダーのために、安心して仕事を続けられる環境作りをすることは、とても広い意義を持つのである。ただし、会社が従業員を支えているというのはひとつの側面でしかない。

「少なくとも現代の先進国の企業においては人的資本が競争力の源泉として重要な役目を果たしている。従業員の技術的熟練、知識・ノウハウの蓄積、R&D、新製品・ブランドの開発、さらには組織内でのネットワークや企業文化の形成などが、それぞれの企業に特有の競争力を生み出していると思われる。」(『株主主権を超えて-ステークホルダー型企業の理論と実証』より)

組織力の強化や新しい価値創造は企業価値を高める。グローバル化や技術革新で目まぐるしく社会が変わる中、会社が生き残るためにも従業員の力が必要だ。

会社と従業員は互いを支え合うところが大きい。従業員というステークホルダーの利益を上げることは、社会全体の幸福度向上にもつながるはずだ。日本の幸福度を上げるためには、雇用の安定や福利厚生の充実、人的資本の保護・活用が求められるだろう。

<書籍情報>
『株主主権を超えて-ステークホルダー型企業の理論と実証』(広田真一著、東洋経済新報社)

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