政治の舞台はしばしば、表からは見えない舞台裏の物語が大きな波紋を呼ぶ。兵庫県知事・斎藤元彦氏をめぐる公職選挙法違反の疑惑――この問題は、斎藤氏とPR会社「merchu(メルチュ)」代表・折田楓氏の関係を中心に、選挙戦の透明性と公正性に一石を投じている。
11月27日、神戸市で開かれた記者会見で、斎藤知事の代理人弁護士が疑惑に対する反論を展開した。
「法に触れる行為はない」――代理人弁護士の真っ向否定
「依頼した内容は法の範囲内に収まるものである。」
斎藤氏の代理人である奥見司弁護士は、記者たちを前にそう語気を強めた。会見では、斎藤氏がmerchu社に依頼した具体的な活動として、「メーンビジュアル企画・制作」「チラシデザイン制作」「ポスターデザイン制作」「公約スライド制作」「選挙公報デザイン制作」の5つの項目が挙げられた。
いずれも選挙活動の事前準備として認められる範囲内であり、対価を支払うことに問題はないと主張している。
一方で、SNS戦略や動画制作といった追加提案があったことも認めたが、これらに関しては「依頼していない」と説明。さらに、折田氏がnoteに記した「広報全般を任されていた」という内容については、「事実とは異なる」と強調し、折田氏の記事内容には「盛られている部分がある」と疑義を呈した。
note記事の真偽――折田楓氏の語る「事実」との乖離
今回の疑惑の発端となったのは、折田氏が11月20日に公開したnote記事だった。記事では、斎藤知事の選挙活動において、merchu社が「SNS戦略を全面的に監修し、広報全般を担当していた」と明かし、その詳細な手法まで記されていた。この記述に、多くの読者や専門家が「公職選挙法違反の可能性」を指摘し、問題が拡大したのである。
折田氏は、打ち合わせの段階で提案した内容の一部については「ボランティアで行った活動」と説明。しかし、記者会見で奥見弁護士が繰り返し主張した内容とは大きな食い違いが生じている。特に、斎藤知事のSNSアカウント運営に関与したとされる点については、事実確認が大きな焦点となりそうだ。
SNSが映し出す世論の分断
この問題はインターネット上でも大きな議論を呼んだ。元アナウンサーの長谷川豊氏は、X(旧Twitter)で「選挙前の段階で、知事就任後の便宜を期待してボランティアを行うとは考えにくい」と、斎藤知事を擁護する意見を投稿。一方、SNS上には「折田氏のnote記事の内容が真実であれば、明らかな法律違反だ」という厳しい声も多く寄せられている。
さらに、折田氏がSNS上に投稿した画像が「知事本人しか閲覧できないはずの投稿に関するエンゲージメント情報を含んでいる」との指摘もあり、議論は一層過熱している。
疑惑の余波と今後の行方
meruchu社と兵庫県との関係性にも注目が集まる。同社の代表である折田氏は、斎藤知事の当選後、兵庫県の各種委員会に次々と就任している。これらの人事が疑惑の余波として取り沙汰されており、県政への信頼を大きく揺るがしている。
司法の判断が下されるまで、真相は明らかにならない。しかし、この問題が投げかける「政治と広報の透明性」という課題は、斎藤氏個人の問題にとどまらず、日本社会全体の課題として議論されるべきだろう。
真相解明の行方に注目
疑惑の中で揺れる齋藤知事は、これからどう舵を取るのか。現職の政治家としての責任をどう果たすのか。兵庫県民、さらには全国の有権者がこの問題を注視している。果たして、この疑惑が投げかける問いに、齋藤知事自身がどのような答えを示すのか――その結末を待つときである。