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会社のロゴマークへの理解度は、社長の社員とお客様に対する理解度に比例する

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「名刺にかっこいいロゴがあると社員が喜ぶ」と信じる社長

「カッコいいロゴがいいですね。名刺にかっこいいロゴがあると社員も嬉しいじゃないですか」

就任4年目という老舗百貨店のテナントに入る中堅会社社長に、ホームページを刷新するとのことで呼ばれたワタシだったが、打ち合わせを始めると、「ついでに会社のロゴマークを刷新したい」と言い出した(自慢するわけではないが、ワタシは業務として時々こうした企業のロゴマークを含めたCI=コーポレートアイデンティティのコンサルっぽいことを依頼されたりする)。

「ほう…」

と明らかに面食らいながらも、ビジネスお年頃であるワタシは、まるで電通とか博報堂の部長クラスの懐の深げな対応を示してみた。

「で、コンセプトか何かすでにお決まりですか?」

「いや、つくるならカッコいいのがいいと思っただけです」と社長。

「ロゴマークを刷新するとなると、CIに基づいて行うことになりますが、御社ではCI委員会などでその方向性やコンセプトはもう出ているということでしょうか?」とワタシ。

「いや…何ですか、そういったCI委員会とか、つくるもんなんですか?」
明らかに社長は面食らって動揺している。

それ以上にワタシの方が面食らって動揺していた。

「はぁ、だいたいの会社様はつくります。失礼ながらCIというのはご存知でしょうか?」

「CIの意味は知っていますが、それがロゴマークのデザインと関係あるのでしょうか??」

ワタシはさらに動揺した。思わずのけぞりそうになったが、長年、この手の素っ頓狂な社長に接してきたオトナの編集者であるワタシは、鷹揚に受けた。

「あります。むしろそれが目的化されてしまっているのが問題ですが。ロゴマークはそのCI、すなわち会社のコーポレート・アイデンティティ、つまり自分たちが何を大切して日々仕事に取り組んでいるのか。会社はその社員とともにどこに向かおうとしているのか。いわゆるビジョンを描いて見せてですね、社員と社会に対して示すのが会社のロゴマーク、シンボルマークの役割ですね。通常、広告製作会社などでは、企業様から出された、あるいは一緒に考えたCIコンセプトに基づいて、ロゴマークやキャッチフレーズなどを考案していくことになります。

ただ日本におけるCIはかなり誤解があるようで、そういった目に見えるものをつくって終わり、言葉化して終わりの感があるのです。本来は10年後、20年後、50年後を想定してコンセプトを含めて管理し続けて、PDCAを回しながら社会環境の変化に合わせて見直していく、企業活動と捉えるのが本来的なあり方です」

ワタシは自分でも驚くほどに饒舌だった。そしてひとしきり語った後、こう付け加えた。

「だから、もし社員のみなさんの総意を受けたCI委員会の結論が、いまあるロゴマークで十分。ここに会社の未来と今が業種されていると思えるのであれば、変える必要はないと思います」

偉いぞワタシ。「クゥ〜〜〜!」

ソニーは5回。コカ・コーラは14回。

そうなのである。

ロゴマークはそこから社員がどんな価値を大切にし、ビジョンを共有しうると考えるのであれば、つくり変える必要はない。もちろん時代に合わせてデザイン的にリファインする必要はある。

あのソニーのロゴ「SONY」は、5回は変わっている。資生堂の花椿マークは4回変わっている。巨費をかけて。

見た目がそれほど変わらないのに、そこまでこだわるのは、ロゴマークが会社の大きな資産であり、価値の象徴だからだ。その価値の源泉はどこから来ているか―—。

そう社員である。その社員が接するお客様からである。もちろん創業以来ほとんど変わってないロゴマークもある。コカ・コーラがそうだ。

アップルやテスラにブランド価値総額で抜かれる前までずっとトップだった企業だ。

もちろん、変えようという議論は幾度となく起こってるはずだ。実際コカ・コーラのロゴは、派生も含め14回変わっているが、見た目では初期以外は全くと言って変わっていない。

ロゴマークを変えようとして「変えられなかった」のか、「変えなかった」のか――

有名企業のブランド担当者は、ベストセラー、ロングセラーの商品を担当すると商品ロゴやパッケージを変えたくなるらしい。だがすぐに無限ループに入っていく。

ロングセラーに手を変えて、売上が落ちたらどう責任を取ればいいのか。部内はおろか会社の社員全員を敵に回してしまうのではないか。家族に危害が及ぶのではないか。

引っ越しを考えないといけないのではないか。いやいや引っ越してもネット自警団に自宅をさらされ、ゆく先々で石つぶてを投げられたりするのではないか。

そんな命の危険を冒してまでロゴを変える必要はあるのだろうか。いやある。あ、でもないかも……と3カ月は悩む。結果、しない。家族と自己保身でビビったからだ。というのは半分正しい。

問題は変えようとして変え“られなかった”のか、変え“なかった”のか、だ。後者であれば、社員にもお客様にも不幸が起こると判断したと考えられる。健全な判断である。

ブランド論では、「ブランドはお客様と社員でつくられる」のが基本だ。ロングセラーはまさにその互いの長い信頼関係の共創で生み出された特別な価値。

単にモノとしての品質の良さだけでできているわけでなない。アメリカの著名な経営学者であるマイケル・ポーター先生のいうところのCSV=Creating Shared Valueである。

だからロングセラーとなった商品は社員のものであり、お客様のものでもある。

イマドキならステークホルダーのもの、と換言できる。そのロングセラーを生み出す会社というのは、社員とお客様が一緒に共創価値を生み出すプラットフォームなのである。

そのプラットフォームに込められた、ステークホルダーの思いを表象しているのがロゴマークなのである。

新ロゴ発表後、ファンから“瞬殺撤回”を余儀なくされたGAP、20億円が飛んだトロピカーナ

なので社長だから、会長だから、役員だから、筆頭株主だからと言って勝手に変えられないのだ。企業がロゴマークの姿を世間に公表した瞬間から、ロゴマークは会社だけのものではなくなる。

実際に、アパレルグローバルブランドの「GAP」は、創業20年の2010年に満を持して刷新した新ロゴをたった2日で撤回している。

瞬殺である。新ロゴ発表後、たちまちフェイスブックに2000件の批判が殺到、ツィッター(現X)ではニセアカウントが乱立し、フェイクニュースが横行する事態となったのだ。

わずか2日だから、ロゴが変わったことも知らない消費者のほうが圧倒的に多かったはずだ。いったいあの膨大な時間と予算と手間はなんだったのか、とワタシだったら1カ月は喪に服すだろう。

アメリカを代表する飲料ブランドの「トロピカーナ」も“やっちまった”。2009年に長年愛され続けたロゴとパッケージを全面的に刷新。

トロピカルな雰囲気が一転、粉末ジュースのようなパッケージになってしまい、たちまちSNS上に「元に戻せ」の大合唱が展開されたのである。

結局トロピカーナは元に戻り、ロゴとパッケージの新デザインに投じた20億円が吹っ飛んでしまった。

多分にSNS時代がゆえの事件だったとも言えるが、ロゴが会社のものではないということは、しっかり認識していただけたと思う。

だから努々「名刺にあったらかっこいい」程度でロゴマークをつくり変えてはいけないのだ。

ロゴマークの中小企業はもっとCIを学んだほうがいい。ロゴマークを大切にしたほうがいい。CIとロゴマークへの理解は、社員とお客様、ステークホルダーへの理解力に比例する。

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

ほかのコラムはこちらから読むことができます。

アセット 2

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ライター:

フリーランス歴30年。ビジネス雑誌、教育雑誌などを中心に取材執筆を重ねてる。小学生から90代の人生の大先輩まで取材者数約4,500人。企業トップは500人以上。最近はイラストも描いている。座右の銘「地の塩」。

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