企業や個人は、どのようにして社会的責任を果たしていけば良いのでしょうか。持続可能な社会に貢献するために必要な心構えとは、どのようなものなのでしょうか。本稿では、現代のESG と江戸時代の石門心学に共通する価値観や行動原理についてご紹介します。
石田梅岩とはどんな人物か?商人出身の心学者として江戸の町人に道徳を説く
石田梅岩(1605 年 – 1687 年)は、江戸時代前期の思想家であり、石門心学の祖として知られています。彼はもともと商人でしたが、30 歳を過ぎてから心学を学び始め、自らも教えるようになりました。石田梅岩は江戸の町人に対して、素直な心に従って生きることや、勤勉・倹約・正直などの商人の道徳を説いています。自らもその教えに従って、質素な生活を送りました。多くの弟子を育て、その中には大石良雄や山本常朝などの有名な武士もいます。石田梅岩は83 歳で亡くなるまで、心学を広めることに尽力した人物です。
石門心学とは? 神道・儒教・仏教を融合した素直な心に従う道
石門心学は、石田梅岩が創始した思想体系です。神道・儒教・仏教などのさまざまな思想を取り入れて、自分なりの心学を作り上げました。「心即理(こころすなわちり)」という言葉で、心と理(宇宙の法則)が一致することを説いています。つまり、人間が持って生まれた心は本来善であり、理にかなっているということです。しかし、人間は欲や情に惑わされて、心が曇ってしまうことがあります。
そこで、石門心学では「無心」という状態を目指します。「無心」とは、欲や情に囚われずに、素直な心に従って行動することです。石門心学では、「無心」になるために、「観念」と「修行」の2 つの方法を提唱します。「観念」とは、自分の心を省みて、自分の欠点や誤りを正すこと。「修行」とは、日々の生活や仕事に励んで、自分の能力や責任を果たすことです。石門心学では、観念と修行をくり返すことで無心に近づき、「理」に合致した生き方ができると考えます。
ESGと石門心学の共通点
ESG は近年、世界的な潮流となっており、多くの企業や投資家が ESG に関する取り組みや情報開示を行っています。ESG は、単に社会的な責任を果たすためのものではなく、自分の利益にもつながるものだと考えられています。例えば、環境に配慮した製品やサービスを提供することで、顧客のニーズに応えることができます。社会に貢献したり、多様性を尊重したりすることは、人材の確保や育成にも役立ちます。また、ガバナンスを強化することで、リスク管理やコンプライアンスを向上させることもできます。これらのことは、最終的には企業や投資家の競争力や収益性にも影響するのです。
「相手の利益を考えることが自分の利益にもつながる」という考え方は、石門心学が説く商人の道徳と共通する点です。石田梅岩は、「勤勉」「倹約」「正直」の3 つを商人の道徳として挙げました。「勤勉」であれば仕事に精を出すことができ、「倹約」であれば無駄遣いをせずに貯蓄することができ、「正直」であれば信用を得て取引することができると述べています。
彼はまた、「相手の利益を考えることが自分の利益にもなる」という言葉で表したように、商売は相互利益であるべきだと主張しました。自分だけが得をするような商売は長続きしないということです。
ESGと石門心学から学ぶこと
石田梅岩は、自ら商人として働いた経験から、商人としての心得や商業の社会的役割などを説きました。その教えの中には、前述のとおり「勤勉」「倹約」「正直」という3 つの基盤があります。
「勤勉」は、人間は労働により食を得るように生まれており、その心をもって苦労して努めれば「心は安楽になる」という考え方。これは、環境に対する責任感や持続可能な資源利用を意味します。無駄な消費や汚染を避けて、自然と調和した生活を送ることが大切です。
「倹約」は、お金を貯めるという意味ではなく、物の効用を尽くすという意味です。石田梅岩は、「世界に3 つ要る物を2 つにて済むようにするを倹約という」と述べており、余分なものを作らず、ものを使い尽くすと説きました。これは、社会に対する貢献や公正な取引を意味します。利益だけを追求せず、社会的価値や公共の利益を考えることが大切です。
「正直」は、「先も立ち、我も立つ」という言葉を言っているように、まず相手のことを思い、そして自分のことを思うということです。自分のことばかり思っていては、物事はうまく成り立ちません。これは、ガバナンスに対する信頼や透明性を意味します。法令や規則を守り、誠実で公正な態度で行動することが大切です。
このように、ESG と石門心学は共通する価値観や行動原理を持っています。現代社会では多くの課題や変化に直面していますが、江戸時代から受け継がれた石門心学から学ぶことで、企業や個人が持続可能な社会に貢献するために必要な心構えを身に付けることができるでしょう。
出典・参考:
石門心学 – Wikipedia
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次回のコラムでは、「ESG の温故知新 土光敏夫編」について解説します。