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地方創生は人から 新潟で地域の未来を考える山本一輝さん

コラム&ニュース コラム
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山本一輝さん(撮影:安藤)

「地方創生」と一言で言っても、地域が抱える課題やそこへのアプローチ方法はそれぞれ違う。実際にその地域に入ったり、中の人の声を聴かなければその地方の課題は見えてこない。

今回は、地元である新潟や地域の未来を考え、活動している山本一輝さんに、地方創生への思いや新潟が抱える課題などについて伺った。

政府を挙げての地方創生への取り組みが始まったのは2014年、実はまだ始まってから10年も経っていない。この「地方創生」という言葉も最近になって広く浸透してきているように思う。数年前までは、その意識がある人は良く使うものの、特に意識をしていない人の多くは聞いたことがない、またはなじみのない言葉だったのではないだろうか。

皮肉なことに、コロナ禍がテレワークの普及などによって都市圏での生活を見つめなおす機会となり、地方に対して意識を向ける動きの一助となったこともあり、今やさまざまな場面で聞かれる言葉となっている。

ただ、地方創生のための取り組みをしている組織や個人は数多くあるものの、地域によってその規模や取り組みの切り口は異なり、その規模や主体となって動く団体の性質も違う。また、地域ごとに抱える課題も異なるため、それぞれの地方創生の形を模索しなければならない。こうした点が地方創生が一筋縄ではいかない一つの要因であり、さまざまなリソースや情報が分散してしまっていることにもつながっているのではないだろうか。

しかし、地方創生の取り組みの実態や課題、そこに関わる人の声を聞かなければ本当のところは分からない。実際に”現場”を知り、活動されている山本さんに、地方創生についてや現在の取り組み、また山本さん自身の思いを伺った。

山本一輝氏
Inquiry合同会社代表取締役/地域人事部アライアンスネットワーク発起人
新潟を拠点に各地で人材育成や教育、キャリア、組織開発、地域振興に関するプロジェクトに取り組んでいる。

地方創生の起点は”人”

ー山本さんにとっての地方創生の形とはどんなものでしょうか。

私の中では、人や組織の変化が大事なポイントだと考えています。その地域にいる人たちが自分たちで学び続け変化していくことが持続可能な地域となるうえで必要だと思うからです。

そこにいる人たちが世の中や時代の変化を、その変化に適応しながら学び続けること。それは座学だけではなく、世の中の変化を見て必要なものを学んだり、経験から学んだりすることです。学びは自分の人生を創造する行為です。ある調査では、日本の大人はアジア一学んでいないなんて不名誉な結果も出ていますが、個人的にはここがすべてのボトルネックになっていると感じます。

”地方”は単なるエリアの話なので、結局はそこにいる人が全てだと思うんです。なので私は地方創生の起点はだと考えています。

ー地方創生の取り組みそのものにはどんな課題があると思いますか?

地方創生を”社会の持続可能性”と置き換えて考えるとすればいくつかあります。1つ目は本業につながっていない単体の活動で終わってしまっていることです。例えばビーチクリーンや植林、子ども食堂などをすることですが、これ自体が自社の事業につながってないので、結局それをした企業が持続可能に繋がってないんですよね。取り組み自体はCSRですから素晴らしいことではありますが、前提に自社がサステナブルじゃないまま社会に貢献することはボランティアであり、余裕があるときに限られた人だけがやる活動になってしまいます。単に世の中がやってることに乗っかっているという表面的な活動(=ウォッシュ)だと思います。

2つ目は具体的な目標と計画がないことです。いつまでに何をどれくらい減らすのか、何の割合をどれくらい増やしていくのかが決まっておらず、その達成状況が把握されずに公表もされない。そのため取り組みが形骸化してしまう。そういった本質が理解されていないケースが多いです。もちろん理解して精力的に取り組んでいるところもありますが。地方の中小企業ではごく僅かだと思います。大手企業は死活問題なのでいろいろやっていますが、この辺りは中小企業とのギャップが大きいですね。

ー「地域や地方のために何かしたいけど、どうしたらいいかわからない」という人は少なくないと思うのですが、その人たちはどうしたら良いのでしょうか?

その人自身がなぜその地域に関わりたいと思ったのかを掘り下げるところから始めるといいと思います。とりあえず何かやれることっていっぱいあると思うんです。新潟だったら畑や田んぼを手伝うとか日雇いの仕事もいっぱいあるし、人手不足だから関係さえ作ればいろんなご縁はあるでしょう。でもその人たちが言っている「何かやりたい」は、自分視点で考えてしまっている場合があって、「なぜ自分は地域に関わりたいと思っているのか」を自身で掘り下げることが必要だと思います。

コロナウイルスの影響もあり、地域に関心ある人が増えたように思いますが、この動機の背景には、自己実現の先を地域に求めてる場合があるのではないでしょうか。特に大都市圏の人は出身ではない場合も多く、「東京のために何かしたい」といった意識は薄いですよね。日常が消費活動に終始し、日々のルーティンを回すことに精一杯で、その中で自分が何かを生み出すとか、誰かの役に立つかということを実感できなくて、もやもやしてるのではないかと思うんです。

このもやもやの元は「自己実現」に対する欲求であり、これを満たすには自分がやりたいことやワクワクするというその人特有の内的動機と、誰かを喜ばせたり助けたりできるという社会的価値を一致させる必要があります。「何かしたい」と思う方の一部は、自己実現の先を地方に求めているのかもしれない、というのが私の仮説です。

内的動機と社会的価値を一致させるためには、仕事などで社会的価値を提供しながら金銭に限らない報酬をもらうこと、自分がやりたいと思うことを社会に繋げることの両方を試行錯誤していく必要があります。そしてそのために「なぜやりたいのか」「なぜその地域で活動したいのか」というところに立ち戻って、改めて自分の内的動機と社会に何を提供したいか、できるのかに向き合う必要があるのではないかと思います。

トライアンドエラーしながら社会的に提供できているものと、やっていて楽しい、面白いと思えるものが近いと感じた時に、そこが自分にとっての自己実現できる場所かもしれません。これは本人にしかわからないし、繰り返しやらないと見つからないですね。

被災の体験が未来や他者のことを考えるきっかけに

ー山本さんは地方の未来について考えたり、発信したり、事業も含めいろいろな取り組みを続けていらっしゃいますが、そのきっかけや思いを教えてください。

きっかけになった体験のうちの1つで、社会人2年目の時に仙台で東日本大震災を被災したことが大きいです。当時は飲食店で社員として働いていたのですが、震災があって日常がストップしたときに、「自分がやっていることは本当にやりたい事なのか」という疑問が浮かんできたんです。前の店舗のスタッフさんや、周りの人のご家族など身近な方が亡くなることを目の当たりにして、頭では理解していたけれど「人はいつ死ぬかわからない」ということを実際に体験して感じました。自分は運良く生き残りましたが、果たしてやりたいことをやっているのか、後悔なく生きられているのだろうか、と自問自答したとき、YESではないなと思ってから自分の生き方やキャリアについての意識が強くなりました。

その後2012年にリクルートに転職して、そこで東北の復興や教育機関の支援の仕事をする傍ら、プライベートでNPO法人カタリバの「全国高校生マイプロジェクトアワード」を観覧しました。高校生たちの好き・やりたいという思い(Will)と社会課題や他者に必要とされること(Need)を繋ぎ、自分たちでできる(Can)アクションへと取り組むことを通じて学んでいくプロジェクトベースドラーニングの取り組みです。

その発表会で、被災して地元がめちゃくちゃになってしまった中で、自分たちの町を何とかしたい、助けてくれた人たちに何かできることをしたいという高校生の姿を見て衝撃を受けました。自分が高校生の時に社会や未来のこと、他者のことをこんなにも真剣に考えただろうかと。

若い子達が他者に理解されずともこんなに懸命に頑張っているんだから、少し早く生まれた自分だからこそできること、社会人の立場でできることがあるんじゃないか、という漠然とした問いをもらい、そこから次世代へ貢献する意識や自分にとっての誠実さや一貫性が芽生えてきました。会社員としての仕事にやりがいや面白い部分もありましたが、違和感を覚えることも出てきて、29歳の時に独立しました。そこからは、教育や若者支援、人が活躍する場づくりなど、人がもっと幸せになれるような企画やプロジェクトに関わりたいというところからスタートし、それがずっと続いています。目の前の課題を見ながら、共感してくれる仲間と一緒に試行錯誤してきて、今に至ります。

新潟が抱える課題と課題解決のモデルケース

ー新潟県の中だけで見た場合に、どんな課題があると思いますか?

新潟に戻ってきて率直に思ったのが、200万人超の人口がある県にしては、自分で何かを起こしたり、企画したりする人が極端に少ないのではないかということです。いろいろな地域を見てきましたが、例えば10万人規模のまちで新潟よりもずっと密度濃く人が繋がり、自ら行動している人が沢山いました。新潟は面積が広い分、人が分散しているのかもしれませんが、もう少しプレイヤーが居てもいいんじゃないかと思いますね。一方で、ちょっと手を上げるとみんな集まってきてくれる、フォロワーシップはあります。これはまちづくりでも、企業の中でもそうかもしれないですが、誰かがやったものに対して乗っかりたいという人は多いと思います。

また新潟市の話に限っていえば、まちづくりに対していろいろな主体と思惑が混在しているように見受けられます。たとえば「にいがた2km」のような中心市街地の活性化の話と同時に、逆方向で「鳥屋野潟(とやのがた)エリアを再開発して倉庫型の大型店舗を誘致する」といった動きも出たりしている。中心地を活性化させたいのか、ドーナツ化現象を進めたいたいのか、傍から見ていてまったく分かりません。その説明も現時点では行政から市民に充分なされていないですし、行政・民間の足並みがそろっておらず、一貫したビジョンがないのは長年の課題かもしれないですね。

にいがた2km
新潟駅前から古町というエリアにかけての都心軸周辺エリアが「にいがた2km」、新潟駅から車で10分ほど離れた、広い土地や自然、スポーツスタジアムなどの大型施設がある地域が「鳥屋野潟エリア」

ー逆に新潟を外から見た場合にはどんな課題があるでしょうか。

財政的に厳しい面のあるため仕方ないのかもしれませんが、相対的に人への投資が手薄に感じます。各地に足を運び、県外の先進的な取り組みや国の事業にも関わらせてもらって感じましたが、子育てや教育、人材育成など人への投資となるようなことにもっと意識的に長期的な視点を持ってやってもいいと思いました。予算がなくてもできることは沢山あります。

ーモデルケースになる地域はありますか?

一つ例を挙げると、私が長らく関わっている山形県の最上地域です。この最上地域には、県と8市町村全体で連携協働して取り組んでいる、新庄最上ジモト大学という活動があります。中学校まではふるさと教育で地域に関わりがあったりするのですが、高校になって学区という概念がなくなると同時にそういった接点がなくなってしまいます。その結果、地域の人から育ててもらった記憶や、地域で何か成し遂げたという成功体験がないまま、受験等をきっかけに地元を離れていきます。まちには遊び場がなく、当然愛着もないので、親の介護や東京の生活が合わないかも、といったネガティブで受動的な理由がないと地元に戻ろうという人が出てこない。これをなんとかしなければ、と始まった取り組みです。

行政や賛同する民間団体などのさまざまな人たちがプログラムを用意し、地元の高校生が必ずどれかに1回以上参加して大人と対話をしたり、地域資源や地域課題を理解をする機会を作ります。それによって、地元を離れる若者にいつか能動的に地元に帰ってきたいと思ってもらえるための活動を県と8自治体、民間団体が一致団結して7年間も継続しています。

ー新潟県ではまだやっていないのでしょうか。

新潟県ではまだ聞きません。この事例を真似することが正解という訳ではないので、自分たちなりにビジョンを描き、創意工夫し長期的な視点でアクションしていればよいのですが、必ずしもそうではないようです。自分たちが知らない場所に、実はまちを良くするヒントやアイディアがいっぱいあるのですが、知らないというのは勿体ないですね。

ーやはり民間と自治体とがうまく連携できている地域が強いのでしょうか。

行政にできること、民間にできること、やはりそれぞれにしかできないことがあります。それぞれの役割、領分を理解して、お互いに投資し合うというか、共同で開発して地域を良くしていくという意識を持っているところは少しずつ良くなっていくと思います。

ー最後に、新潟の好きなところを教えてください。

食の偏差値がすごく高いですね。全国各地を見てきても未だにそれは変わりません。あと新潟市においては適度な都会で、かつ自然との距離が近いのがいいですね。川や海が近くてすぐ自然にアクセスできるというのは戻ってきて本当に贅沢な環境だなと思いました。いろいろな地域の中でも、そのバランスがちょうど良くて豊かな地域だと思っています。

インタビューということでたくさんの課題を語ってしまいましたが、それも新潟が好きで、もっと良くなってほしいという思いがある故なのは、誤解しないでください(笑)

取材を終えて

安藤憧果

ライター

私は大学進学と同時に地元である新潟を離れ、その地元や地方のことを考えるようになった。東京にいながらも新潟のためにできることがあればとふるさと納税をしたり、クラウドファンディングに出資したりしたこともあったが、結局自分に何ができるのか、何をしたいのかはぼんやりしたままだ。

今回、山本さんの内的動機と社会的価値の話を聞いて、自分自身それを見つめ直す必要があることに気がついた。新潟は故郷であることを差し置いても魅力のある地域で、私はいつも「宝箱」と表現する。こう表現するに至った気づきこそが私の内的動機であり、地元愛の源泉である。

今後、自分自身の社会的価値を見つめ直し、磨き、内的動機と一致させることを一つの目標にして、私なりの地方創生を追求したい思いだ。そして、地元だけでなく日本各地にある魅力的な地域がこれからも在り続けるために、ひとつの地域を見る目と、広い地域を見る目の両方を持ちトライアンドエラーを積み重ねたい。

[参考]
地方創生をめぐる現状と課題 (平成29年7月 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局)

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ライター:

フリーライター。昔から感想文や小論文を書くのが好きで、今なお「書くこと」はどれだけしても苦にならない。人と話すのが好きなことから、取材記事の執筆が主軸となっている。新潟県で田んぼに囲まれて育った原体験から、田舎や地方への興味があり、目標は「全国各地で書く仕事をする」こと。

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