
飲食店「ごはんどき」を運営する株式会社マルハンダイニングが、北海道北広島市で100年以上米づくりを続けるタカシマファームと、複数年にわたる継続取引の契約を結んだ。
田植えと稲刈りの体験から始まった縁が、米価の下落に揺れる産地を支える取り組みへと発展した。
田植えと稲刈りから始まった縁
マルハンダイニングは今年から地域共創を掲げて活動を始めた。その第一弾に選んだテーマが米である。連携先となったのは、北広島市で100年以上にわたり米をつくり続けてきたタカシマファームだ。
両社は5月30日に田植え、9月19日に稲刈りの体験を行った。参加したのは同社の社員やグループの株式会社マルハンの従業員、そして地域の住民である。生産者がどんなこだわりを持ち、どのように品質を守っているのか。価格だけでは伝わりにくい米の価値を、土に触れながら知ってもらう狙いがあった。体験を通じて深まった関係が、複数年の継続取引へとつながっていった。
外食を営む企業が産地と直に結び付く例は、まだ多くない。多くの飲食店は市場を通じて米を仕入れ、作り手の顔は見えにくい。同社は体験と契約を重ねることで、生産から食卓までを一本の線で結ぼうとしている。
約4割下落した概算金という逆風
背景にあるのは、米をめぐる厳しい環境だ。北海道内の報道によると、2026年8月以降、玄米60キロあたりの概算金はゆめぴりかが3万円から1万8500円へ、ななつぼしが2万9000円から1万7000円へと下がった。いずれも前年からおよそ4割の下落である。同年9月9日付の共同通信は、全国の主産地を含む多くの地域で2割から4割の下落を伝えている。
農家は概算金が示される前に作付面積を決め、肥料などを買いそろえなければならない。生産にかかる費用は上がる一方で、国は生産量を抑える方針を示し、民間の在庫は積み上がり、米価は下落した。資材価格も重い。農林水産省の統計では、ウクライナ侵攻前の2021年と比べ、2026年7月時点の農業生産資材の価格は全体でおよそ25%上がった。肥料は約45%、燃料や電力などはおよそ30%の上昇である。支出は先に出ていくのに、収入は相場と概算金に左右される。設備投資や事業の継続、後継者の確保をどう判断するかは年々難しくなっている。
単年の相場に縛られない契約
両社が結んだのは、複数年の継続取引を前提とした契約だ。取引の条件を毎年の概算金だけで決めるのではなく、生産に必要な費用や経営の状況を双方で話し合い、あらかじめ定める。
売り先と条件が一定の期間見通せれば、生産者は作付けや設備への投資、人材の確保を前向きに考えられる。目先の相場に振り回されず、腰を据えて米づくりに向き合える環境をつくることが、この契約の狙いである。飲食店にとっても、質の確かな米を安定して仕入れられる利点がある。
複数年の相対取引は、相場任せだった米の流通に別の選択肢を示すものでもある。買い手が一定の責任を負うことで、作り手は将来を描きやすくなる。価格を一方的に押し付けるのではなく、必要な費用を分かち合う関係への転換が、そこにはある。
熟成堆肥と収穫祭、地域で米を支える
販売の見通しが立ったことを受け、タカシマファームは堆肥舎などへの大型の設備投資を決めた。独自の熟成クワトロ堆肥を使った地域循環型の農法に挑む。この堆肥は、北広島市内の乗馬クラブや養豚場、養鶏場、牧場から集めた4種類の原料を、2年から3年かけて完熟させたものだ。地域で出る資源を米づくりに生かし、土から品質を高めていく。
収穫した米は10月17日から、札幌市内と近郊のごはんどきの対象店舗で地域応援米として提供されている。同じ日には対象4店舗で収穫祭を開き、タカシマファームの米と増毛町の水産加工会社ぐるめ食品のたらこ・明太子を使ったおにぎりを、各店舗500個、合わせて2000個配った。対象は成人である。一杯の米飯の向こうに、産地と食卓を結び直そうとする試みがある。相場の波に左右されてきた米づくりを、長い目で支える関係へと変えられるか。北広島の田んぼから始まった挑戦が問うている。



