
参議院本会議の様子を伝える国会中継に、ある一瞬が映り込んだ。日本維新の会に所属する参議院議員の中条きよし氏が、同じ会派の松野明美氏に対し、手にした書類のようなもので臀部を叩いたように見える場面である。
公の場、しかも国権の最高機関である国会でのやりとりだけに、その動画がXで拡散されるとハラスメントではないかという指摘が相次ぎ、批判は瞬く間に広がった。当事者の松野氏自身がこの件に言及したことで、騒動はさらに注目を集めている。
国会中継に映った一瞬が火種に
発端となったのは、参議院本会議の国会中継を切り取った短い動画だった。10月5日ごろからXで拡散されたこの映像には、議場の出入り口付近で、中条きよし氏が前を歩く松野明美氏の背後から、手にした書類のようなもので松野氏の臀部のあたりを叩いたように見える動作が収められている。
投稿には「中条きよし氏が松野明美氏をスパーン」「めちゃ音響いている」といった説明が添えられ、音が響くほどの動作だったという受け止めとともに、驚きの声が広がった。動画の表示回数は1000万回を超えるものもあり、関心の高さがうかがえる。
映っていたのは、いずれも日本維新の会に所属する二人の参議院議員である。中条氏は歌手として長年活躍し、2022年の参院選に比例代表で出馬して初当選した。松野氏は元五輪マラソン選手で、熊本県議を経て国政に転じた経歴を持つ。会派を同じくする議員同士の、議場という場での身体的接触だったことが、事態を一層複雑にしている。
批判の声が拡大 「普通にセクハラ」「毅然とした対応を」
映像が広がると、Xには厳しい指摘が相次いだ。多くの投稿に共通していたのは、立場の上下や性別を背景にした行為ではないかという見方である。
労働相談を手がける労働組合の公式アカウントは、男性が自分より立場が低いと見ている女性を叩いているように見えると指摘し、セクハラでありパワハラであり暴力だと踏み込んだ。ある利用者は、こうした性加害とも取れる行為を笑って済ませてはならないと訴え、別の利用者も、国民の代表である政治家が公の場でハラスメント行為に毅然とした態度を取らなければ、女性はこういう扱いを受けてもかまわないというメッセージになってしまうと批判した。
松野氏が女性議員として少数派の立場にあることを踏まえ、だからこそ発言や振る舞いに気をつけてほしいという声や、周囲の議員が見て見ぬふりをしているように見えることへの不安を漏らす声もあった。憲法学者とみられる利用者は、中条氏の議員としての職責や年齢、歳費などに触れつつ、こうした人物を比例名簿に載せる党の姿勢そのものに疑問を投げかけた。
性加害を問題視しない空気が国の重要事項を決める場に残っていることが悲しいという嘆きや、茶化してやり過ごすことがハラスメントをなくならなくさせているのだという指摘も目立った。批判は中条氏個人にとどまらず、ハラスメントを看過する社会の風潮そのものへと向かっている。
松野氏本人が言及 「映ってたの?!」
騒動がさらに広がる一因となったのが、当事者である松野明美氏本人の反応だった。松野氏はXで、動画を見るまでこの件に全く気づかなかったという趣旨の投稿を行い、驚いた様子を見せた。
この反応に対しては、同情的に受け止める向きがある一方で、厳しい意見も寄せられた。女性は男性と同じ人間であり、プライベートな部位を叩かれて平気な顔をしていてよいわけがない、政治家は国民の代表なのだから、笑って黙認するのはせめて身内の飲み会までにしてほしいといった趣旨の投稿が、多くの反響を呼んでいる。
当事者が軽く受け流すような姿勢を見せたことが、かえって問題の根深さを浮き彫りにしたと受け止める利用者も少なくない。叩かれた側が気にしていないとしても、それを公の場でのハラスメントとして問題視しなくてよい理由にはならないという論調が、批判の中心的な流れを形づくっている。
公人の振る舞いとジェンダーをめぐる視線
今回の騒動が大きく燃え広がった背景には、国会という場の象徴性と、ジェンダーをめぐる社会の視線の変化がある。
国会は国民の代表が集い、国の重要事項を決める場である。その議場で、女性議員の身体に男性議員が触れたように見える行為が、しかも生中継で全国に流れた。この事実が、多くの人にとって見過ごせないものとして受け止められた。日本のジェンダーギャップ指数の低さに触れ、国際的な評価が芳しくない現状と結びつけて論じる投稿もあった。
もっとも、映像から読み取れるのはあくまで動作の一場面であり、中条氏側がどのような意図でその動作に及んだのか、二人の間にどのようなやりとりや関係性があったのかは、現時点で明らかになっていない。中条氏本人や日本維新の会からの公式な説明も、本稿執筆時点では確認できていない。断片的な映像だけで行為の全体を断定することには慎重であるべきだという視点も必要だろう。
ただ、それでもなお批判がこれほど広がったのは、公人が公の場でとる振る舞いに対して、社会が以前より厳しい目を向けるようになったことの表れと言える。かつてなら笑い話として流されたかもしれない場面が、今は看過できないハラスメントとして問われる。その変化そのものが、今回の騒動を通じて可視化されたとも言えるだろう。また、当たった位置が臀部なのかどうかを議論する声も散見されるが、他の場所なら良いと簡単に流してよい話でもないだろう。
中条氏と松野氏が、そして日本維新の会が、この件に対して今後どのような説明や対応を示すのか。国民の代表としての自覚が問われる局面であることは間違いない。その行く末を注視したい。



