
「正気を失わないと再生数は伸びないじゃないですか(笑)」
グラスを片手に悪びれもなくそう笑うのは、天才編集者であり、昨今ネットメディアで引っ張りだこの箕輪厚介氏だ。6月10日、思想家・東浩紀氏が主宰する「ゲンロンカフェ」の生放送に箕輪氏がゲスト出演。なごやかな酒飲み配信になるかと思いきや、話題は現在飛ぶ鳥を落す勢いのYouTube番組『ReHacQ(リハック)』の“危うさ”へと発展し、ネットメディアのあり方を問う白熱の議論が交わされた。
「イチゴの口移し」はもう許されない?終わったはずの“ゼロ年代ノリ”
番組冒頭、ハイボールを片手に上機嫌の箕輪氏に対し、東氏は単刀直入に切り込んだ。「お前ら、2020年代になって何やってんだと」。
東氏が問題視するのは、昨今のReHacQなどに見られる「酒を飲んで正気を失いながらの過激な配信」だ。箕輪氏は自身のルーツが、学生時代に見た東氏らの「ニコ生論壇(酒を飲みながらキャッキャする知識人たちの姿)」にあるとリスペクトを込めて語る。しかし、当の東氏の反応は冷ややかだった。
東氏によれば、2011年の震災以降、そしてコンプライアンスやハラスメント防止が描かれるようになった2010年代後半を経て、社会の空気は完全に変わったという。かつて配信中に男同士でキスをするような「ホモソーシャルな悪ノリ」が許された時代は終わったのだ。しかし現在、そうしたかつてのノリが形を変えてネット上に復活しつつある。
世間に蔓延する「コンプラ疲れ」と視聴者が求める“毒”のリアル
なぜ今、ReHacQの生々しい悪ノリが多くの人々に受け入れられているのか。箕輪氏は「ここ2年ほどで世論の空気が激変した」と指摘する。
これまではリベラルやフェミニズム的な視点からの怒り、そしてSNS上でのキャンセルカルチャーが猛威を振るい、誰もが「余計なことを言えば炎上する」と怯える時代が長く続いていた。しかし現代の視聴者は、そうした行き過ぎた正義や、言葉狩りのような風潮に致命的な「コンプラ疲れ」を起こしている。
テレビが過剰な自主規制によって牙を抜かれ、綺麗事ばかりを並べるようになった結果、視聴者の心理には「もっと人間の生々しい本音が見たい」という強烈な飢えが生じているのだ。SNSで少しでも失言すれば一発アウトになる息苦しい日常の中で、おじさんたちが酒を飲んで境界線スレスレのトークを展開するReHacQの空間は、ある種の「解放区」として機能している。
最近では、重箱の隅を突くようにキャンセルを仕掛けようとする側に対して、視聴者側から「お前らもういいよ、うるさい」という逆キャンセル的な空気が生まれているのも事実だ。ReHacQの持つ、昭和的な居酒屋のノリや、コンプラを嘲笑うかのような危うい毒こそが、現代人のコンプラ疲れを癒やすカンフル剤として熱狂的に指示されているというリアルな視聴者心理が浮かび上がる。
「石丸リアリティショー」の危険性
しかし、その「コンプラ破りの爽快感」が、一線を越えて政治の領域にまで侵食していることに東氏は強い危機感を抱いている。議論が最も白熱したのは、先の選挙でも大きな話題を呼んだ石丸伸二氏の扱いについてだ。東氏は、ReHacQを中心としたメディアが石丸氏を面白おかしく消費する現状を「石丸リアリティショー」と名付け、強い違和感を口にした。
東氏は、完全に政界を引退してタレントになるならともかく、将来的に政治家に戻る可能性が高い人物を「面白いから」というバラエティのノリだけで消費するのは極めて危険であると指摘する。さらに問題なのは、政治記者や政治学者といった本来「政治を客観的に批評する立場」にあるはずの知識人たちが、内輪ノリで特定の政治家を担ぎ上げるような不透明な構図を作っている点であり、これを「ずるい」と一刀両断した。そこには、エンタメとして面白いものがそのまま政治の権力を握ってしまう、現代の「トランプ化」への根強い警戒がある。
これに対し、箕輪氏は「作り手としては極めてバラエティのノリ」「メタ的に喋ることがコンテンツとして面白い」と反論。しかし、プロの論客たちが「面白さ」に免罪符を求め、影響力のある政治家を無邪気におもちゃにする構図には、一部のジャーナリストらからも「メディアとしての責任」を問う声が上がっているのが事実だ。
浮き彫りになった東浩紀とReHacQの決定的な「スタンスのズレ」
この議論を通じて、二人のスタンスの違いが浮き彫りになった。
番組の「悪ノリ」に対して、東氏は時代錯誤であり、特に知識人が加担すべきではないと厳しく批判する。一方で、箕輪氏やReHacQ側は、正気を失うくらい過激な方が再生数が伸びて面白いという、リアリティ重視の姿勢を崩さない。
石丸氏の扱いについても、政治家である以上は一定の距離を置くべきだと警戒する東氏に対し、箕輪氏は「人間として魅力的であり、コンテンツとして消費されるのは今の時代においては自由だ」と主張する。政治のエンタメ化そのものを、東氏は社会を脅かす非常に危険な兆候と捉えているが、箕輪氏は善悪の判断は別として、世界はすでにガーシー氏やトランプ氏のように「そうなってしまっている」という諦念を交えた現状認識を示した。
打倒テレビ?東浩紀が破したReHacQの「コンプレックス」
さらに東氏は、ReHacQというメディアの根本的なスタンスについても鋭い指摘を投げかけた。それは「ReHacQはテレビを意識しすぎている」という点だ。
ネットメディアが独自の進化を遂げる中、東氏は「テレビは無視していい」というフラットな立場をとる。しかしReHacQの根底には「テレビを超えたい」「テレビにできないことをやる」という強烈な意識があり、それが時に暴走や過激な演出、つまり作り手の狂気に繋がっているのではないか、という見立てだ。
「再生数のためなら手段を選ばないのか?」
この日、東氏が箕輪氏に勝つために「眉毛を剃る」と冗談めかして語った一幕には、一瞬のピーク(バズ)のために何でも消費してしまう現代のネットメディアへの痛烈な皮肉が込められていた。影響力を持ちすぎたネットメディアは、単なる「エンタメ」の言い訳でどこまで許されるのか。酒に酔いながらも本質を突いた今回の対話は、視聴者にも大きな宿題を残すこととなった。
◆激論の全貌はYouTubeで! この夜、二人の間で交わされたスリリングな応酬や、お互いの譲れない一線がぶつかり合う生々しい空気感の全貌は、YouTubeチャンネル「ゲンロンカフェ」にて配信中のアーカイブ動画から詳しく視聴することができる。時代を動かす仕掛け人たちの本音のぶつかり合いを、ぜひその目で確かめてほしい。



