
日本企業が関わるM&A市場が過去最高水準で推移する中、売り手企業に特化した独自の支援体制で異彩を放つ企業がある。株式会社ブルームキャピタルだ。
同社代表取締役でM&A実務経験20年を超える宮崎淳平氏は、M&Aを単なる取引ではなく「経営者の人生における重要な意思決定である」と位置づける。
売主の利益最大化に徹するアドバイザリー業務に加え、自社保有のヴィラなどを拠点とした実践的な会員制サロンの運営や、YouTubeでのノウハウ公開など、既存のM&A支援会社の枠を超えた取り組みを展開する同社の真意に迫る。
「これでは誰も幸せにならない」 仲介業から売り手特化への転換
ブルームキャピタルは2012年の創業当初、一般的なM&A仲介業務を行っていた。しかし宮崎氏は、その立ち位置が孕む構造的な限界を痛感することになる。なるべく高く売ってほしいと願う知識・経験の少ない売り手と、安く買い叩きたいと考える経験豊富なプロの買収者。この真っ向から対立する利害の板挟みになるからだ。
双方から手数料を得る仲介というモデルは、必然的にこのジレンマに陥る。知識や経験で圧倒的に勝る買い手と、知識・経験を持たない売り手。その間に立つ仲介者は、往々にして買い手の論理に引きずられ、売り手がコントロールされてしまう現実に直面した。これでは、経営者が人生を懸けて築き上げた価値を正当に守ることはできず、社会にとっても良くないのではないか、と。
2014年から2015年にかけて、同社は仲介業務を廃止し、売却専門のアドバイザーへと大きく舵を切る。宮崎氏の根底にあるのは、会社を「供給量が1しかない非複製可能財」と捉える経済学的な視点である。一定の前提のもとであれば、一番高く評価してくれる買い手こそが、将来その会社の価値を最も伸ばし、社会全体に利益を還元できる良いM&Aの相手であるという確固たる理論に基づいている。
宮崎
「双方から手数料を受け取る仲介の構造では、決して売り手の利益を最大化することはできません。経営者が人生を懸けて育てた企業の価値を守り抜くには、100%売り手の側に立つ絶対的な味方が必要なのです」

売り手に特化して利益を最大化することは、一見すると売り手だけの利己的な追求に見えるかもしれない。しかし、宮崎氏の狙いはそこにとどまらない。
「企業を最も高く評価し、最高値を提示できる買い手とは、裏を返せばその企業の事業価値やポテンシャルを将来にわたって最も大きく伸ばせる最適なスポンサーに他なりません」
最適なマッチングによって売り手が正当な対価を得る(売主良し)だけでなく、買い手は自社とのシナジーによる成長エンジンを獲得し(買主良し)、対象企業と従業員はより強固な基盤のもとで事業を発展させることができる(会社良し)。そして、こうした健全な新陳代謝が経済を活性化させる(社会良し)。買い手との利害相反を排除し、売り手の側に100%立つことこそが、結果として売主・買主・会社・社会すべてが潤う「四方良し」のM&Aを実現するための絶対条件なのだ。
M&Aはゴールではない。人生に伴走するブルームセンチュリオンサロン
同社の支援は、単なるディールの成立にとどまらない。その象徴が、オーナー経営者を対象とした「ブルームセンチュリオンサロン」の運営である。栃木県那須町に自社保有する「Bloom Villa Nasu Salon」や東京を拠点とし、オンラインとリアルを融合させた実践的な学びと交流の場を提供している。
宮崎氏によると、サロンの目的は大きく3つある。1つ目は自社の企業価値を高めること、2つ目はM&AやIPOなど次世代へ良い形で引き継ぐこと、その3つ目が経営者自身の安定と人生を楽しむことだ。

サロンでは、1社の参加企業に対して他の経営者全員で企業価値向上案を議論する「元気玉デュー・ディリジェンス」や、宮崎氏自身が講師を務める財務モデル構築の「プロジェクション道場」などが行われている。さらに、売却後の資産運用セミナーや海外視察ツアーも実施され、多額の資産を得た後の人生設計まで伴走する。
AI技術が発展し、業務の効率化が進む現代においても、宮崎氏はリアルの価値を重んじる。
「人とのコミュニケーションで初めて幸せを感じるのが人間です。そして、そのような気持ちになれる者同士であればこそ自社の価値を如何に高めていくかというセンシティブな問題を自身の本音をもとに直接かつ深く議論することが可能となります。このため、同じ目線を持つ仲間と深く語り合うリアルな交流自体が、1つのゴールともいえるのです」
交渉の型を磨き情報格差を打ち破る。会社売却道場の真価
M&Aにおける情報格差を是正する取り組みは、サロンの外にも広がっている。宮崎氏は自身の著書『会社売却とバイアウト実務のすべて』(M&Aフォーラム賞受賞)をベースにしたYouTubeチャンネル「会社売却道場【セルサイド M&A 成功の極意】」を運営している。
特筆すべきは、その徹底した売り手視点だ。極真空手の指導員も務める宮崎氏は、交渉を真剣勝負の場と捉え、現場で通用する売却交渉の型を身につけることの重要性を説く。動画では、買い手企業の社長やPEファンドの担当者をゲストに招き、「買い手側の会議室で実際に何が話され、どのような基準で買収が判断されているのか」といった、通常はブラックボックス化されている裏側を次々と明らかにしている。

「買い手は何を考え、どこを評価し、どのタイミングで躊躇するのか。その判断プロセスを理解しなければ、対等な交渉は不可能です。型を知らずに土俵に上がるのは、突き方・蹴り方・受け方を知らずに試合場に上がるようなもの。売り手が不利な条件を飲まされないための知恵を、業界のタブーを恐れず発信し続けることが私の役割だと考えています」
さらに同チャンネルは、会社売却の実務にとどまらず、売却後の経営者が直面する資産形成や、グローバルな視点での教育事情、海外不動産など、富裕層としてのその後の人生を豊かにするためのコンテンツも充実させている。これは、M&Aを単なる事業の売買ではなく、経営者のライフサイクル全体の一部として捉える同社の姿勢の表れでもある。
社会的価値を生む大型M&Aの創出へ
ブルームキャピタルはこれまで、多様な業種で企業の本質的価値を見抜き、M&Aであればこそ社会的に価値が創出できた事例をいくつも輩出してきている。例を挙げると、美容・ヘルスケア領域の求人メディアを運営する「リジョブ」の案件は分かりやすい。
当時、大きな資産を持たなかった対象会社に対し、ブルームキャピタルは利益の約40倍という驚異的な価額となった売却を支援した。一見すると買い手側に厳しい条件にも思えるが、結果はその真逆であった。買い手側はわずか2年強で投資資本の回収を完了。当時5,000万円強だった利益は、2025年現在で数十億円へと劇的な成長を遂げている。
この事例こそ、宮崎氏の説く四方良しの体現に他ならない。売り手は正当な評価による利益を得、買い手は爆発的な成長の種を手に入れた。そして会社は人手不足が深刻な業界を支えるインフラへと進化し、社会的な課題解決に大きく貢献している。
「世の中の資産を減らすような悪いM&Aを防ぎ、関わるすべての人々に活力を与える良いM&Aを創出していきたいと考えています」
利益が5億円から10億円以上出ており、100億円以上で売却できるような規模のディールを正しい方向へと導くこと得意としている同社(実際には、より規模の小さいM&Aも手掛けている)。売り手企業に徹底的に寄り添い、本質的な価値を次世代へとつなぐブルームキャピタルの挑戦は、日本におけるM&Aのあり方を根本から変えようとしている。



