
「またか」——。生保業界の不祥事ニュースを目にするたび、多くの人がそう呆れ返っているに違いない。
3月18日、毎日新聞が報じたソニー生命保険が公表した元営業社員による「個人的な金銭貸借」問題。その実態は、2015年から2022年にかけて顧客や親族ら約100人から計約22億円もの巨額の資金をかき集め、そのうち半分以上の12億円がいまだ未返済という、前代未聞の金銭トラブルだった。
手口は巧妙かつ悪質だ。「投資をして、利息をつけて返す」「毎月3%の利息を支払う」といった甘い言葉で、自らを信頼する顧客から多額の資金を吸い上げていた元社員。だが、さらに世間の反発を買っているのは、ソニー生命側の「トカゲのしっぽ切り」とも言える冷徹な対応である。
同社は2023年4月にこの元社員を社内規定違反で懲戒解雇しているが、「元社員が業務と関係なく個人的に借用していたもの」と主張し、会社としての弁済責任をあっさりと否定したのだ。
18日同日にソニー生命はこの毎日新聞の報道に対して適時開示をリリース。「日頃より弊社に信頼をお寄せいただいているお客さまおよび関係者の皆さまに、多大なるご心配をおかけしていることについて、深くお詫び申しあげます」と、丁寧な謝罪の言葉が並べ、厳格に禁止しているはずの個人的な金銭貸借が元営業社員によって行われていた事実を認め、コンプライアンス対応の徹底を改めて誓約している。
ただ、プルデンシャル生命の問題があれほど世間で騒がれていた中、自主的に事実を開示するでもなく、報道によって事実が露わとなる今回の事態をみるに、企業としての姿勢に疑問符はでる。
社内では「ロータス」という極秘のコードネームで処理され、長らく隠蔽されてきたこの案件。自社の看板と信用を隠れ蓑にして行われた集金劇を、個人の暴走の一言で片付けてよいのだろうか。
「近いうちに必ず起きる」元ライフプランナーの不気味な予言
この構図に、強い既視感を覚える読者も多いだろう。過去に約31億円に上る巨額の金銭詐取で大問題となったプルデンシャル生命保険のライフプランナー(LP)による事件と、不気味なほど酷似しているのだ。
実は、本誌が以前、そのプルデンシャルの事件を取材した際、生保業界の内情を知り尽くす元ライフプランナーのA氏は、今回の事態を正確に予言していた。
「プルデンシャルだけの問題だと思ったら大間違いです。他社も絶対に同じような時限爆弾を抱えている。特にソニー生命や、急拡大している保険代理店からは、近いうちに必ずこうした金銭トラブルが頻出していくはずですよ」
当時のA氏の言葉が、今になって恐ろしいほど的中している。独立系の代理店制度でも多数の不正が発覚し、事実上の制度廃止に追い込まれるなど、現場のモラルハザードはすでに限界を突破しているのだ。
倫理観を狂わせる「過度なインセンティブ」の呪縛
なぜ、エリートとされる彼らは越えてはならない一線を越えてしまうのか。前出のA氏は、業界を支配する報酬体系の闇についてこう語る。
「諸悪の根源は、フルコミッション(完全歩合)型に近い、過度なインセンティブ(報奨金)体系にあります。契約さえ取れれば青天井で莫大な報酬が転がり込む一方、成績が落ちれば居場所を失う。この極端な環境下では、どうしても顧客を『自分の欲望を満たすための数字』や『金づる』として見てしまうようになる。過度にインセンティブを支払っていくというシステム自体が、営業マンの倫理観を麻痺させ、削り取っていく構造になっているんです」
過酷なノルマと金銭欲の板挟みになり、倫理観を保つことすら難しくなる歪んだ業界構造。プルデンシャルの件といい、今回のソニー生命といい、「どこも似たり寄ったり」の深刻な病理を抱えていることは疑いようがない。
顧客の人生に寄り添い、万が一の安心を提供するはずの生命保険。しかし、その裏側では、金銭感覚を狂わせた営業マンの強欲と、それを黙認・助長してきた会社の利益至上主義が渦巻いている。
個人情報の漏洩問題なども芋づる式に発覚する中、「生保という業界自体が、こういう腐った倫理観なのだろう」と世間から完全に見限られる日は近い。消えた12億円の行方とともに、業界全体に蔓延する無責任体質が今、厳しく問われている。



