~フリーランス支援と中小企業課題、その接点に挑む女性~

サイバーエージェントなどでキャリアを積み、ブランド構築や広報・マーケティング戦略を担ってきた青野まさみ氏。現在は「風ひらく」代表として、フリーランス女性の育成と中小企業支援を掛け合わせた新たなマッチングの仕組み「コンソーシアム(協業)モデル」の構築に挑んでいる。
大手、中堅、スタートアップなど多様な企業規模・業種の支援を経験する中で、中小企業支援に魅力を感じたという青野氏は、フリーランス向けのスキルアップ講座運営とマッチング支援を通じて、”企業と個人”の新しい協業モデルを模索し続けている。
“年収1億円”に憧れるSNS社会への違和感
独立直後、青野氏が目の当たりにしたのは、SNSで拡散される”キラキラ女性起業家”たちの世界だった。彼女たちは、高単価の講座ビジネスや個人向け(P2C)ビジネスで年商数億円を誇り、インフルエンサーとして活躍していた。
「彼女たちはすごい。でも、みんなが同じ道を目指す必要はない。会社員時代に法人向けビジネスに従事していた人が、フリーランスになったあと、SNSを通じてなぜか”個人向けビジネスを作らなきゃ” “講座を売らなきゃ”と奔走してしまう。そこに強い違和感があった」
青野氏は2021年、自ら法人化し、講座やコミュニティの形でフリーランス育成事業をスタート。法人営業や企業向けサービスに取り組みたい意欲を持つ女性を対象に、営業スキルや提案力のトレーニングを徹底してきた。
現在、青野氏が主宰する「ザ・コンソーシアムモデル構築講座」は、のべ40人ほどが受講し、そのうち法人プロジェクトに稼働できる人材は1~2割という立ち上げ期にある。しかし、受講者の声からはすでに変化の兆しが見えている。
「法人営業が怖くなくなった」 育成の成果が語られる瞬間
受講者の一人である30代女性(元大手メーカー勤務)はこう語る。
「会社員時代は法人相手に普通に仕事していたのに、独立したとたん、SNSで集客して個人向けのサービス販売…というルートしかないと思い、自信がなくなり、落ち込んでいました。でも青野さんの講座で、”自分がやってきた法人提案の経験は武器になる”と気づき、顧客を変えて提案をしていくとすんなり自分らしいサービスが売れる経験をしました。自分の経験を価値に変える方法を、初めてちゃんと学べたと思います」
彼女は現在、複数の中小企業を支えるwebディレクターとして、マーケティング改善、採用ブランディング、マニュアル整備など、横断的に支援している。
保険の窓口のような「マッチング支援」 中小企業と個人を結ぶ第三極をつくる
一方で、中小企業側にも独特の課題がある。採用がうまくいかず、外注も当たり外れが大きい。課題整理ができていないまま発注し、失敗するケースも少なくない。
そこで青野氏は、「中立的コーディネーター」として企業側に3ヶ月ほど伴走し、ヒアリングと分析を行った上で、最適なフリーランス人材を提案する仕組みを構想中だ。料金は定額制で、過剰な営利を目的としない。
「依頼の精度が低いと、発注者も受注者も不幸になる。企業側のマッチング支援をすることで、双方にとって良い出会いを作るのがこの仕組みの狙いです」。
釣り堀で育まれた”商売の本質” 祖母の背中が教えてくれたこと
青野氏のこの”見る力”の原点は、幼少期にある。
福島・郡山市にある釣り堀兼レストラン「赤坂パラダイス」。祖父母が立ち上げたその場所は、山と川に囲まれた自然の中で、釣り・食事・動物とのふれあいが楽しめる、いわば田舎のミニテーマパークだった。
「スマホも何もない時代、祖父母は釣り堀での顧客体験に感動し、莫大な費用を投じてビジネスを始めました。シンプルに好きなこと、大事だと思うことが社会や地域の役に立つ。そこに商売が生まれていく。親戚中みんなで力を合わせながら繁盛していた釣り堀を切り盛りしていた姿を、幼心にかっこいいと思っていましたし、背中でたくさんのことを教わったと思っています」
その記憶は、今も青野氏の中で強く息づいている。
「祖母のDNAは確実に私の中にあると思っています。何が大事だと思うかは人それぞれ。だけど、大事にしたいと思える自分独自のポリシー、そこに本質があると思います」
「変わっているね、面白いねって言われることを、うちの家族はみんな肯定してくれた。私は”ユニークさにこそ本質がある”と信じていて、その思想を広げていく仕事をしたいと思っています」。
唯一無二の個性が、事業の軸になる社会へ
青野氏の掲げるキーワードは「ユニークさに本質がある」。SNS上での”正解”に流されるのではなく、自らの原体験や価値観に基づいた仕事を選び取る。それが結果として、企業と個人の真に意味のある協業につながっていく。
企業が自社の”らしさ”に立ち返り、フリーランスも自身の強みと向き合う。その両者をつなぐために、青野氏は今日も対話を重ねている。