
給食がなくなる夏休み、経済的に厳しい家庭の子どもたちにとっては「空腹の季節」となる恐れがある。山梨県は今月、生活困窮世帯を対象にした緊急の食料支援に乗り出した。背景には、全国的に広がる子どもの“見えない飢え”と、長期休みに顕在化する支援の空白がある。こうした課題に対し、全国では官民が連携した取り組みも加速しつつある。食べる場所、安心して過ごせる居場所をどう確保するのか。各地の事例とともに、その最前線を追った。
生活困窮世帯に食料1か月分を提供 給食のない夏休みに備えた取り組み
学校給食のない夏休みに、子どもたちの「食べる場所」と「居る場所」をどう確保するか――。山梨県は7月2日、生活困窮世帯の小中高生を対象に、1人1か月分の食料を配送する緊急支援策の受付を開始した。対象は生活保護受給世帯および住民税の所得割が非課税の世帯で、県内では約7000人の子どもが該当する。
支援内容は、乾麺や缶詰、野菜ジュースなど保存の効く食料セット。申請は県のホームページから書類をダウンロードし、事務局宛てに郵送することで完了する。締切は8月20日、配送は7月16日から順次行われる。
山梨県の長崎幸太郎知事は同日の会見で「恒久的な支援スキームについて早急に議論を進め、形をつくっていきたい」と述べ、継続的支援制度の構築にも意欲を示した。
給食がない夏、栄養が途切れる子どもたち
学校給食は、子どもの栄養と生活リズムを支える重要な社会的インフラである。特に生活困窮世帯では、給食が唯一の栄養源となるケースも多く、長期休暇中には栄養失調や孤食のリスクが高まる。
こども食堂の支援に取り組むNPO「むすびえ」によれば、夏休みや冬休みに利用者数が急増する地域も少なくない。特に一人親家庭や非正規雇用の家庭では、休み中の食事を3食用意すること自体が経済的・時間的に困難であるという。
居場所支援と学習支援も鍵に
食の支援と並行して、子どもが安心して過ごせる「居場所」づくりも欠かせない。山梨県内でも一部自治体や社会福祉協議会が、公民館などを利用した居場所支援を展開しており、夏休み期間中に学習支援や昼食の提供を組み合わせた取り組みが始まっている。
しかし、多くは地域ボランティアやNPOに頼る形で、継続的な人材確保や財源の確保が課題となっている。
各地に広がる「夏休み食支援」 全国の取り組み事例一覧
以下に、山梨県以外でも行われている主な食料支援の取り組みを整理した。
子ども食支援の全国事例比較表
地域・団体 | 主な支援内容 | 対象者・対象数 | 特徴・課題 |
---|---|---|---|
山梨県 | 1人1か月分の乾麺・缶詰・野菜ジュース等を配送 | 生活保護・住民税非課税世帯の小中高生(約7000人) | 県主導の緊急支援、恒常的制度化を検討中 |
埼玉県社会福祉協議会 | パック飯・レトルト食品を子ども支援教室等で配布 | 生活困窮家庭の子ども(約8000人) | 学習支援とセットで居場所確保にも寄与 |
全国フードバンク推進協議会 | 加盟団体が全国で食料支援を実施 | 全国の困窮家庭(延べ数万世帯) | 官民連携で全国展開、安定供給に課題 |
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン | 食料支援ボックスを希望者に配送 | 希望世帯(6,412件申込実績) | 子どもの栄養状態に関する調査も実施 |
認定NPO法人キッズドア | 食支援に加え学習・体験支援をセットで提供 | 全国のひとり親世帯・生活困窮世帯 | 包括的支援、マンパワー・資金継続が課題 |
こども宅食応援団・フローレンス | 政府備蓄米や食品を全国1.2万世帯に配送 | 全国1.2万世帯 | 政府備蓄米活用、官民連携の新モデル |
必要とされる恒常的制度と地域連携の仕組み
こうした取り組みは増えてはいるが、いずれも申請主義であることや自治体ごとの温度差、継続的な予算確保の難しさといった課題を抱える。根本的な対策としては以下が挙げられる。
- 食料支援制度の制度化:毎年の長期休みごとに予算措置されるよう法制化する。
- 教育機関との連携強化:学校を通じた情報提供や申請補助を制度化。
- 居場所支援の組み込み:食支援とセットで学習支援・交流支援も行う地域モデルの確立。
- 申請手段の多様化:デジタル弱者に配慮し、郵送・窓口・電話申請を併用する。
- 企業・地域との官民連携:フードバンクや企業寄付を含めた安定的資源の確保と連携体制構築。
子どもが安心して過ごせる夏休みのために
「夏休みくらい、ゆっくり過ごさせたい」。そう思いながらも、三食の食事に頭を悩ませる家庭が確実に存在する。山梨県の取り組みは、子どもの命と健康を支える最低限の支援として、全国に広がる可能性を秘めている。
子どもの貧困は社会全体の未来に直結する。単なる「食の支援」にとどまらず、心と体の安心を支える仕組みを、自治体・学校・地域・企業がともに担っていく時期が来ている。