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「空気に従うしかない現場」関西テレビ・大多社長辞任が暴いたテレビ局の沈黙と構造的問題

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関西テレビ 大多亮社長
関西テレビ大田亮社長(関西テレビHPより)

関西テレビ(カンテレ)の大多亮社長が4月4日、フジテレビ元アナウンサーへの対応を巡る問題の責任を取り辞任した。一連の出来事は、CM出稿見合わせ63社、約9億円の減収という経営インパクトを生んだが、より根深い問題は、テレビ局に内在する“沈黙の構造”そのものにある。辞任の背景には、単なる個人責任を超えた、組織全体の人権意識の欠如と時代とのズレがあった。

 

「判断を下せない空気が支配していた」内部関係者が語る組織の実態

筆者が取材した民放キー局の元社員は、当時の空気をこう振り返る。

「あの問題が“プライベートなトラブル”として処理されたのは、対応能力がないからではなく、組織の空気に従う以外なかったからです。現場では皆、本当はわかっている。でも誰も逆らえない。フジでもカンテレでも、それは変わらなかった」

2023年6月、フジテレビの専務だった大多氏は、性被害を申告した元アナウンサーの声を「男女間の私的問題」と判断し、社内での適切な対処を怠ったと第三者委員会の報告書で指摘された。同報告書は「性暴力に対する無理解と人権意識の低さが見て取れる」と断じたが、その背後には、現場の声が届かない構造そのものが横たわっている。

コネと忖度が制度化された「テレビ局のヒエラルキー」

テレビ局の中枢では、長らく「出自」や「人脈」に基づく人事が行われてきた。ある局OBは「家族構成を採用書類で確認し、有力者のコネかどうかを探る文化があった」と証言する。

「本当に能力がある人よりも、“誰の紹介か”の方が重要になる。そういう空気は、番組制作や人事だけでなく、ハラスメント対応にも影響を及ぼすんです」

属人的な判断と上下関係への忖度が優先される環境では、倫理的なブレーキをかける役割が機能しない。今回の事案も、その延長線上にあった。

 

SNS世論は「時代遅れの面白さ」を拒否し始めた

SNS上では、大多氏の辞任について「当然」「遅すぎた」との声が多数を占めた一方で、フジ・カンテレの対応そのものへの批判も目立った。

ジャーナリストの藤代裕之氏は、「第三者委員会の報告書には“大多氏が下ネタで盛り上がっていた”という記述もあった。フジテレビの“面白さ”は、今では完全に時代遅れだ」と語る。視聴者が望むのは「面白さ」だけではなく、価値観の共鳴であり、倫理に裏打ちされた誠実さである。

「スポンサーが逃げる」よりも深刻な問題は、信頼の断絶

9億円の減収見通し、63社のCM出稿停止はたしかにインパクトが大きい。しかし、広告関係者の中には「すでにテレビは主力媒体ではなくなっており、影響は表面的」と冷静な見方もある。

それ以上に深刻なのは、信頼の断絶である。内部通報制度が機能せず、現場の声が届かない組織構造が温存されたままでは、再発防止の看板も虚しく響く。ある制作現場の若手は、「何も変わらないことが一番のリスク」だと語った。

 

若手社員の証言「中では皆、苦しんでいる」

報道後、筆者が取材を行ったところ、現場に近い立場の若手社員からも実態を語る声が寄せられた。30代の元制作ディレクターはこう語る。

「現場では『これは男女のトラブルだから』という言い訳で黙殺されることが珍しくなかった。上層部にモノを言える空気もないし、研修も形式的。社員は分かっていながら声を上げられないまま、空気に従って働いています」

同様の証言は複数の関係者からも聞かれた。中には「倫理よりも番組の視聴率や上司の顔色を気にする組織文化が、今も根深く残っている」と指摘する者もいた。

 

コネと忖度が支配する組織構造 メディア業界の「不文律」

テレビ局は公共電波という特権的なインフラのもとに運営されているが、長らくその内部は閉鎖的で、“コネ人事”や“忖度の文化”が温存されてきた。民放大手の元人事担当者はこう証言する。

「入社時の家族構成欄から“使えるコネ”を見つけ出す、という噂は業界では昔からありました。社員の家系や縁故に目を通す文化が根強くあります」

属人的なつながりで仕事が回る構造では、信頼関係が崩れた瞬間に業務そのものが破綻する。実際に、番組制作チームでは「○○さんの紹介で来たAD」という形でチームに入り、実力ではなく関係性で起用が決まるケースもあるという。

 

スポンサー離れと視聴率の関係 「信頼の毀損」が招いた連鎖

今回の問題を受けたスポンサーのCM出稿停止は、単なる一過性のものではない。広告代理店関係者によれば、視聴者からの抗議や企業イメージへの悪影響を懸念した動きが相次いでいる。

「スポンサー側も『何を支援しているのか』という視点で広告先を選び始めています。ハラスメントや差別に鈍感な放送局は、今後ますます広告から敬遠されるでしょう」

第三者機関のテレビ視聴率データによると、問題発覚以降、フジテレビ系列の特定時間帯における視聴率は前年同月比で平均1.3ポイント減少しており、視聴者の目線の厳しさが数字にも表れている。

いま問われるのは「自己保身か、人権尊重か」

フジ・カンテレ側は、「被害者への配慮」を理由に情報共有を限定していたと説明するが、結果的に“加害者の起用継続”や“社内処理”の判断は、世間から「保身最優先」との批判を招いた。

ジャーナリストの藤代裕之氏は、「かつて時代の最先端だったフジテレビの“面白さ”は、今や時代遅れになった」と指摘し、「メディア界の倫理意識の遅れが視聴者との乖離を生んでいる」と述べた。

業界に根を張る沈黙の文化を乗り越えるために必要なのは、単なる人事刷新ではない。構造そのものへのメスと、視聴者・社会に対する説明責任である。

 

テレビ局の再生に必要なのは「風通し」と「外部の声」

今後、関西テレビが信頼を回復するには、体制刷新だけでは不十分だ。外部の有識者によるガバナンス、匿名通報を含めた情報共有の制度化、そして、若手社員の声を経営層が真摯に受け止める仕組みが必要とされている。

過去の「成功体験」にしがみつく組織では、社会の価値観に対応できない。今、テレビ局に求められているのは、番組内容の刷新ではなく、組織文化そのものの変革である。

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寒天 かんたろう

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ライター歴25年。月刊誌記者を経て独立。伝統的な日本型企業の経営や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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