
フランスの欧州議会議員ラファエル・グリュックスマン( Raphael Glucksmann)氏が、「現在のアメリカには自由の女神像はふさわしくない」と述べ、フランスが寄贈した女神像の返還を求めたことに対し、アメリカ政府のレビット報道官が強く反論した。
グリュックスマン氏は、中道左派の政治家であり、自身が率いる「プラス・パブリック」の大会で、「暴君の側に立つことを選んだアメリカ人、科学の自由を求めた研究者を解雇したアメリカ人に対して、自由の女神像を返せと言うつもりだ」と発言した。この言葉に会場の支持者たちは歓声を上げた。
さらに、「私たちはそれをあなたにプレゼントしたが、どうやらあなたはそれを嫌っているようだ。だから、家に置いておいても大丈夫だ」と皮肉を交えて述べ、アメリカの政策に対する強い不満を示した。
仏議員の皮肉に対する米国の反応
これに対し、レビット報道官は記者会見で、「返還しない」と強調し、「フランスの無名の下級政治家への私からのアドバイスですが、国民に知らせてください。今フランス人がドイツ語を話していないのは、アメリカのおかげなんです。ですから、偉大な我が国に感謝すべきだということを」と述べた。
これは、第二次世界大戦でフランスがナチス・ドイツに占領されていた際、アメリカを中心とする連合国が勝利し、フランスを解放したことを指しているとみられる。
グリュックスマン氏の主張の背景
グリュックスマン氏は、トランプ大統領の政権下でのアメリカの政策変更に対して強く批判している。特に、米国政府が連邦政府の研究資金を削減し、保健や気候研究に携わる数百人の連邦職員を解雇しようとしていることに懸念を示した。フランス政府は、こうした研究者たちをフランスに誘致する取り組みを進めている。
彼はまた、フランスの極右指導者たちを批判し、「彼らはトランプ大統領と、大統領の支出削減を主導する億万長者イーロン・マスク氏のファンクラブに過ぎない」と非難した。
SNSでの反応
この発言に対し、SNSでは賛否両論の意見が飛び交っている。
「米国はもはや他国から敬意を持たれない大国になってしまった。この報道官は発言の責任を取れるのか?」と、アメリカの外交姿勢を批判する声もあれば、「このフランスの政治家に対してこれほど強い態度を取るなら、いっそ『自由の女神などくだらないものだから返してやる』くらい言えばいい」と皮肉るコメントもあった。
また、「アメリカも独立戦争でフランスに助けられているのだから、どちらも自国の利益のために戦ったに過ぎない」という歴史的視点からの指摘もみられた。
自由の女神像の歴史と逸話
ところで、自由の女神像(正式名称:”世界を照らす自由”)をめぐる議論が取り上げられたのだから、この女神像の歴史や逸話を振り返りたいと思う。
女神像は1886年にフランスからアメリカに贈られた記念碑であり、アメリカ独立100周年を祝うとともに、フランスとアメリカの友好の証として建設された。
この像は、フランスの彫刻家フレデリック・オーギュスト・バルトルディによって設計され、鉄骨部分はエッフェル塔の設計者であるギュスターヴ・エッフェルが手掛けた。ニューヨーク港にそびえるこの巨大な像は、長らくアメリカに渡る移民にとって新天地の象徴であり続けてきた。
自由の女神像の冠には7つの突起があり、これは世界の7つの海と7つの大陸を表し、自由の普遍的な概念を象徴している。また、像の足元には壊れた足かせがあり、抑圧や奴隷制からの解放を象徴している。この像は単なるモニュメントではなく、1886年から1902年までは灯台としての役割を果たし、船員たちの目印となっていた。さらに、年間600回以上の落雷を受けるとされるなど、自然現象の影響も大きい。
また、現在の緑色は、銅の酸化によるもので、当初は金属の光沢があった。映画のシーンでは象徴的に登場することも多く、『インデペンデンス・デイ』などの災害映画では破壊されるシーンが描かれることもある。
世界各地の自由の女神像
ニューヨークにあるものが最も有名だが、自由の女神像は世界各地にレプリカが存在する。フランス・パリには、アメリカへの贈答の返礼として建てられたものがあるほか、日本の東京・お台場にもフランス政府公認のレプリカが設置されている。
自由の女神像は単なるモニュメントではなく、時代を超えて自由と民主主義の象徴であり続ける存在である。今回の政治的論争を機に、その歴史や意義を再確認する機会となるだろう。