ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

合同会社活躍研究所

https://kyri.co.jp/

産業医が語る!メンタルヘルス不調者が「当たり前に活躍できる社会」

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
リンクをコピー
合同会社活躍研究所の代表、三菱ケミカル株式会社で産業医の野崎卓朗さん
産業医 野崎卓朗さん(提供:活躍研究所)

メンタルヘルス不調での休職は、現代の働く社会における大きな課題である。「メンタル不調から職場復帰した人は、完全に元通りにはならない」「再発を繰り返し、やがて退職に至る」という悲観的な見方が未だ根強い。

この状況に対し、「メンタルヘルス不調になっても、当たり前に活躍できる会社をつくる」を理念に掲げる人物がいる。合同会社活躍研究所の代表であり、三菱ケミカル株式会社で産業医でもある野崎卓朗さんだ。

野崎さんは、三菱ケミカルでメンタルヘルス不調者の職場復帰を支援するシステムを構築し、就業継続率の大幅な改善を実現。その経験を基に、現在は他社向けにコンサルティングやセミナーなどを通じて、社会全体の意識改革に取り組んでいる。

メンタルヘルス不調の現状:復帰後の課題とは

厚生労働省の統計によると、うつ病などの精神疾患に苦しむ人の数は約615万人と、年々増加しており、職場復帰後も同じ環境で再び不調をきたすケースが後を絶たない(厚生労働省令和2年「患者調査」より)。野崎さんも、これまで多くの復帰者が短期間で再発し、職場を去る姿を目の当たりにしてきた。

合同会社活躍研究所の代表、三菱ケミカル株式会社で産業医の野崎卓朗さん

「メンタル不調者の社会復帰において、日本のスタンダードは『配慮をして無理のない範囲で職場に戻す』というものです。しかし、この方法では本人の本来の能力を活かしきれず、職場にも本人にも不満が残ります」と野崎さんは語る。

メンタル不調が職場全体に与える影響は大きく、従業員一人ひとりが健康でやりがいを持って働ける環境を整えることが、企業の生産性向上にもつながる。そこで、野崎さんが注目したのが「リワークプログラム」だ。

リワークプログラムがもたらす職場復帰の成功

リワークプログラムとは、メンタルヘルス不調者が職場復帰に向けて必要なリハビリを行うための支援プログラムである。日本では、精神科のクリニックや医療機関が提供するリワークも多く存在するが、企業内でこの仕組みを導入し活用する例はまだ限られている。

三菱ケミカルでは、野崎さんを中心に2018年から社内で専用のリワーク施設を設置。従業員が専門家の支援のもと、段階的に復帰準備を整えられるようにした。その結果、リワークを活用した従業員の就業継続率はほぼ100%を記録。一方で、リワークを利用しなかった場合の復帰率は3割前後にとどまるという大きな差が明らかになった(年間10人前後が対象)。

「メンタルヘルス不調者は病気が治っただけでは職場で活躍できません。リワークを通じて、働くためのスキルや生活リズムを取り戻し、さらに自分自身を客観視する力を養う必要があります」と野崎さんは説明する。

リワークでは、認知行動療法を取り入れた自己理解や、他者と協力して行う課題に取り組む。ここでの実践を通じて、復職後のストレス耐性や対人スキルが高まる。さらに、復職前に産業医が状況を確認し、従業員の「活躍できる状態」を企業自身が判断するルールが整備されていることが、成功の鍵となった。

信じる力が変えるメンタルヘルスとの向き合い方

野崎さんがこの取り組みを通じて一貫して伝えたいのは、「メンタルヘルス不調者は活躍できる存在である」という信念だ。職場の人事担当者や産業医が本人の可能性を信じて支援することが、復職成功の大前提となる。

「私はセミナーなどで必ず、メンタルヘルス不調者がどのくらいの状態で戻ってくると信じていますか、と問いかけます。多くの方が『80%』や『60%』と答えますが、それでは不十分です。むしろ、120%の力を取り戻して活躍できると信じることで、支える側の意識も変わります」と野崎さんは力説する。

その言葉には、野崎さん自身の経験が裏打ちされている。産業医としての活動を通じて、多くの従業員がリワークを経て第二のキャリアを見つけたり、以前よりも生き生きとした働き方を実現した姿を見届けてきた。

野崎卓朗が産業医を志した理由

野崎さんが国家資格である産業医を目指した背景には、幼少期の体験がある。2歳の時、父親を過労で亡くしたことが、働く人々の健康を守るという使命感の原点となった。母親に育てられた野崎さんは、早稲田実業学校を経て医学部に現役で進学。産業医科大学で学び、働く人々の健康管理を専門とする道を歩んだ。

「父が亡くなった時、何かもっとできることがあったのではないかと考え続けてきました。働く人が健康で元気に生きられる社会をつくりたいという思いが、私の原動力です」と野崎さんは語る。

社会が目指すべき姿とは

メンタルヘルス不調者を支える取り組みの必要性は、企業だけにとどまらない。家族や友人、社会全体が「フラットな立ち位置」で見守り、支援することが重要だと野崎さんは指摘する。

「メンタルヘルス不調は特別なことではありません。周囲が信じて待ち、本人を尊重する環境があれば、誰もが元気を取り戻せます。社会全体がこうした意識を持つことで、もっと多くの人が活躍できる世界が広がるはずです」と、野崎さんは語る。

職場復帰を目指す過程において、家族や同僚の適切な距離感も欠かせない。必要以上に干渉せず、しかしいつでも相談に乗れる存在として寄り添うことが、本人にとっての大きな支えとなる。

「信じる社会」の実現に向けて

最後に野崎さんは、社会全体に向けてこう呼びかける。

「メンタルヘルス不調になっても、それが終わりではありません。むしろ新たなスタートです。本人を信じ、支える人々が増えることで、多くの人が活躍できる未来が実現します」。

メンタルヘルス不調者を「信じる」というシンプルで力強い理念を掲げ、実際の取り組みで成果を上げてきた野崎卓朗さんの活動は、今後も多くの人々に希望を与えるだろう。

【プロフィール】
野崎卓朗
三菱ケミカル株式会社産業医
日本産業衛生学会専門医・指導医
日本産業ストレス学会理事
日本産業精神保健学会編集員
産業医科大学産業精神保健学非常勤助教
三菱ケミカル株式会社で専属の産業医として勤務。メンタルヘルス不調で休職した従業員向けの社内復帰支援施設の設置に携わり、安定して就業継続率を実現。合同会社活躍研究所を2023年に立ち上げ、「メンタルヘルス不調になっても当たり前に活躍する会社をつくる」取り組みとして、BtoBのコンサルティングやセミナー登壇などを行っている。

Tags

ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。社会的養護の自立を応援するヒーロー『くつべらマン』の2代目。 連載: 日経MJ『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

関連記事

タグ