企業において、自社の事業や経営スタイルが「サステナブルかどうか」は年々重要度を増している。企業の重要なステークホルダーである投資家においても、「その会社がサステナブル経営を実践しているかどうか」が1つの判断基準になりつつあるといえるだろう。中原雄司氏の著書『「未来市場」のつくり方 サステナビリティで変わる企業の常識』(東洋経済新報社)から企業が実践すべきSDGsとの向き合い方を考察する。
1. 広がるSDGsの認知度
2015年9月の国連サミットにて採択された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」。17の目標を掲げたSDGsというキーワードも浸透してきたのではないだろうか。気候変動やジェンダー平等、格差の是正など企業が取り組むべき課題も多い。
「私たちは結果と共に生きなければいけない」「私たちは決して許さない」。2019年9月、当時16歳だったスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏が、国連気候行動サミットで涙ながらにスピーチを行ったことも記憶に新しい。彼女は2021年4月22日のアースデイにもアメリカ議会で化石燃料の使用撤廃を求めている。
日本でもレジ袋有料化やスターバックスの紙ストロー導入など、身近な生活にSDGsを実感する機会が増えてきている。地球温暖化を始めとするSDGsへの取り組みはもはや“いつか”改善する問題でも、“誰かが”やってくれる課題でもない。楽天インサイト株式会社が2020年に実施した調査によれば、日本国内でのSDGs認知度は約50%、気候変動やクリーンエネルギーの認知度は80%を超える結果となった。
(https://insight.rakuten.co.jp/report/20210128/)
2. 投資家のESG投資とは
とはいえ、スタートアップ企業を中心に“まずは利益を上げる必要がある”と考える経営者の声も聞こえてくる。成長を優先しなければ企業は生き残れないし、投資や資金調達を達成できない、と。しかし企業の大小に関わらず、SDGsは経営者が無視できない課題だ。なぜなら、企業の成長に欠かせない投資家においてもESG投資という概念が広まりつつあるからである。
ESG投資とは、環境、社会、企業統治の3つの観点を重視する投資方法。地球温暖化への取り組みやダイバーシティの推進、法令遵守など売上利益だけではない観点で投資を判断するという考え方である。2006年、国連が機関投資家に対して責任投資原則(PRI)としてESGを投資基準に組み入れるよう提唱。2008年のリーマン・ショックを機にESG投資への理解、PRIへの賛同が欧米を中心に加速した。2018年5月時点で世界1965の機関が、日本では63の機関がPRIに署名している。
3. ESG投資を受けられない企業の末路
DSM株式会社の代表取締役社長である中原雄司氏は著書『「未来市場」のつくり方 サステナビリティで変わる企業の常識』の中で、「私は『取り組まなければならない』と頭ごなしにいうつもりはないが、『今後はサステナビリティ、SDGsを無視するような企業活動は成り立ち得ず、企業として生き残ることはできない。サステナビリティの観点を取り入れなければ、成長の機会も失う』と考えている」と述べている。企業経営におけるSDGsへの取り組みと企業の成長は密接に関連しているというわけだ。
更に中原氏はESG投資に関して、「ESG投資の潮流は、逆に捉えることもできる。それは極端にいうと、ESG投資を受けられないような企業はやがてマーケットからの退場を迫られる可能性があるということだ」と指摘。
ESGを無視し、例え一時的に自社が急成長できたとしても、長期的には投資家や顧客の理解を得られない。結果的にはサステナビリティ経営なしに未来の市場で生き残ることが難しい世界になっていると解釈することができる。
4. ステークホルダーにSDGs推進を示すことが企業の成長を左右する
自社製品の顧客はもちろんのこと、投資家という企業の重要なステークホルダーにおいてもSDGsが重要なことが、お分かりいただけただろうか。企業が成長後にSDGsを余力で取り組めば良いのではない。自社の事業そのものにSDGsを組み込む必要がある。
またSDGsの実質的な推進はもちろんのこと、ステークホルダーにどれほど重要だと捉え行動しているかを示すことが求められるだろう。PRIの原則には、ESGに関する情報開示を求めるよう定められている。定期的に投資家に対して企業の成長と共にSDGsを推進する企業であることを開示すべきである。
ESGを無視すれば、投資家からの投資はもちろん、ひいては従業員からの信頼も失う可能性がある。中原氏は「就職志望調査でも、『社会に役立つ仕事』が志望理由としてトップとなっているものもある」と従業員の意識に関しても言及。グレタ・トゥーンベリ氏のように、SDGsへ高い意識を持つ若者は増えている。今後優秀な人材を確保できるかどうかにも、SDGsは大いに関わってくるだろう。自社の製品、取引先、経営スタイル、人材、職場はサステナブルになっているだろうか?
今一度見直してみよう。