前回、日本自動ドア株式会社が各ステークホルダーとどのように向き合っているかをお伝えしました。
その日本自動ドア代表の吉原さんを「ビジネスの枠を超えて、経営の品質を高めようとお互いに切磋琢磨できる同志のような存在」と言い表すのは、マテックス株式会社代表取締役社長の松本さんです。
マテックスは、窓の卸売専門商社として90年以上の社歴を持つ老舗。現在は業界発展から環境問題まで積極的に取り組み、LIXILやYKK APといった大手メーカーのみならず、地域の販売店や工務店からも厚い信頼が寄せられています。
卸売業界の改革者ともいえる松本さん、実は日本自動ドアの吉原さんと1歳違いの同世代。お二人は事業承継を経て新たな展開を志す経営者であり、コア・バリュー経営を推進してステークホルダーとの信頼関係を大切にしている点でも共通しています。
マテックスはビジネスパートナーとしての日本自動ドアをどう評価しているのか、また松本さんにとって吉原社長はどういった存在なのか。法人・個人それぞれの視点で、お互いの関係性について松本さんの想いをお聞きしました。
マテックスから見た日本自動ドアの存在とは
まず、ビジネスにおいて日本自動ドアとマテックスはどのような関係にあるのでしょうか。松本さんはこのように語ります。
「私たちからすると日本自動ドアさんは仕入れメーカーであり、日本自動ドアさんから見れば、私たちが販売代理店としてのポジションにあたります。主に窓やドアなどの開口部を扱う私たちにとって、自動ドアはまさに中心的な商品。ビルや店舗に取り付ける自動ドアの仕入れ先として、先代から長いお付き合いをさせていただいています」
時代の変化を乗り越えお互いをステークホルダーとして関係性を深めてきた両社。こうした関係が長く続く理由はどこにあるのかと聞くと、「それは日本自動ドアの顧客を大切にする姿勢にある」と松本さんは答えてくれました。
「自動ドアは設置した後が肝心で、メンテナンスやアフターサービスこそが重要な商品です。その点、日本自動ドアさんは全国各地に直営の営業拠点を置き、何かあったときにはすぐに対応できる体制を整えています。ややもすれば知らないうちに地域から撤退してしまったり、会社が大きすぎて小回りが利かなかったりする業者さんも多い中で、日本自動ドアさんはただ売って終わりではなく、その後のことまできちんと責任を持って対応してくれるのです。そうした日本自動ドアさんの信条は、非常に共感できる部分です」
松本さんは「家は建てておしまいではなく、住み手からすれば、建てて住み始めてからが本当のスタートだ」といいます。販売店や工務店のみならず、エンドユーザーとも一緒になって地域のエコシステムの構築を使命としてきたマテックスにとって、顧客が求めることを素早く察知して課題に応える日本自動ドアの対応力は、大きな安心材料になっていることは間違いありません。今では経営者として吉原さんをリスペクトしているのだと語ってくれました。
「二人で直接ビジネスのやり取りをすることも無いことはないのですが、日々の実務的な話はほとんどの場合、お互いの会社の担当者に任せています。吉原さんとはビジネスをしているというより、知見を深めたり時代の先読みをしたり、経営力を共に高めるというところで長くご一緒させていただいている感覚ですね」。
共感が縮めたお互いの距離
経営者同士、お互いに研鑽を重ねてきた松本さんと吉原さん。プライベートでも親交が深く、飲みに行く機会も多いのだそう。そんな二人の出会いは、今から約20年前にさかのぼります。松本さんは、当時をこう振り返りました。
「私が大手企業を退職してマテックスに入社したのは2002年、30歳のときでした。すぐさま『一緒に飲みに行きましょう』と声をかけてきてくださったのが、何を隠そう吉原さんです。最初にお連れいただいたのは、池袋のすっぽん料理屋。私はすっぽんが初めてで少し不安もあったのですが、いきなり生き血を飲んだというか、飲まされたというか(笑)。最初の顔合わせは、そんな強烈な印象が残っています」
吉原さんのファーストインプレッションは、「この業界でよく目にする典型的な“メーカーさんの社長”タイプ」だったという松本さん。しかし、親交を深めるにつれ、次第に考え方や価値観が自分と近いことに気づいたと語ります。
「この業界の経営者さんと話していると、いかに業績を上げるか、いかに受注するかといった話題に終始することが少なくありません。ところが吉原さんは、就業規則をどのように見直そうか、福利厚生をどう充実させようかといったことを真剣に語り、社員のことを優先的に考えている経営者であることがよく伝わってきました。なので、こちらも自然と会話に熱が入るんです。また、吉原さんはお金の使い方がすごく堅実で、使うところには使って、締めるところは締めて、ということもきちんとされている。そうした部分にも共感を覚えたんですよ」
社会志向型の事業デザインで広がる人脈
さらに話を聞くと、二人が結びつきを強めてこられたのは、単に馬が合ったからというだけではないことが見えてきました。そこには「企業理念を大切にした経営」という、共通する明確な軸があったのです。
「SDGsや環境問題が頻繁に話題に上る昨今、気密性や断熱性が低い旧来の窓からのエネルギーロスは、ますます深刻化する社会課題です。マテックスでは2008年に経営理念を制定し、窓をつうじて社会に貢献するという『理念経営』のもとに社会貢献型のビジネスへ舵を切りました。吉原さんは理念経営という言葉はあまり使いませんでしたが、やはり自動ドアで社会貢献をすべく独自のスタイルを築かれている。今はCSRやソーシャルビジネスは使い古された言葉かもしれませんが、私は当時から経営者が集まる勉強会やイベントがある度に『一緒に行きましょう!』なんて言っては吉原さんをお誘いして、社会貢献型ビジネスに関する造詣を深めていきました」
日本自動ドアは「株式会社アースカラー」と協働して林業家の育成やプロダクトブランドの立ち上げにも力を注いでいることは別記事でご紹介した通り。そのアースカラー代表・高浜さんと吉原さんの出会いの橋渡しに一役買ったのは、他でもない松本さんでした。
アースカラーさんから見た日本自動ドアさんの記事はこちらからご覧になれます!
「NPO法人ETIC.(エティック)さん主催のソーシャルベンチャーを世の中に輩出するプロジェクトのアドバイザーをしていたとき、そこで面談した起業家の中にいたのが高浜さんです。彼の事業には私もすごく興味があり『何か機会があったらご一緒させてください』と伝えていたところ、後日高浜さんから『田植えをするから来ませんか?』とご連絡をいただいて。吉原さんをお誘いすると奥様も一緒に来てくださり、みんなで田植えをしたんです(笑)。私が興味を持ったことをまず共有するのは、吉原さん。吉原さんもわりと同じみたいで、『こんな人と出会ったんだけど、どう?』といった感じで気軽に紹介してくれることが多いですね」
こうした国内のイベント参加にとどまらず、松本さんと吉原さんは海外視察も同行し、さらに経営研究に熱を入れました。
「吉原さんと最初に国境を超えたのは2010年。樹脂窓の市場視察のためアメリカへ行きました。私からすると、日本自動ドアさんとしては直接ビジネスにつながらないと思える案件ではありましたが、吉原さんは『間接的には自分のところにもためになる話だから』とお付き合いくださったんです。こうした積極的な姿勢には本当に頭が下がります」。
コア・バリュー経営を“逆輸入”して実践
松本さんはさらに「あらゆる視察をした中で、実践に持ち込んだ最もわかりやすく大きな成果はコア・バリュー経営です」と言葉を続けます。
『ザッポスの奇跡』(廣済堂出版)の著者として知られる石塚しのぶ氏が提唱した「コア・バリュー経営」とは、「会社の中核となる価値観(=「コア・バリュー」)を定め、それに基づく意思決定や行動を日々徹底していくことにより、社内の結束を高め、共通の目的の達成をより効果的に行えるようにする経営手法(一般社団法人コア・バリュー経営協会のサイトより抜粋)」のこと。
2011年に『ザッポスの奇跡』を読んで感銘を受けた松本さんが石塚氏にメールを送ったことがきっかけとなり、コア・バリュー経営の成功例として世界的にも注目を集めるネット通販企業・ザッポスの視察が実現。視察は2012年と2013年の2回にわたって行われ、吉原さんは2013年の視察に同行し、石塚氏との会話に花を咲かせたのだそう。
「コア・バリュー経営は本来、日本発のものです。日本の企業が伝統的に育んできた理念経営や経営哲学を、現代のアメリカ企業がうまく再解釈した結果、コア・バリューに仕上がった。『要はそれを逆輸入していくような考え方だね』という話をして、やり方として間違えていないことで意見が一致しました。それで石塚さんとも『日本でも本格的にチャレンジしましょう』という話をして、一般社団法人コア・バリュー経営協会の設立に至ったというわけです」
今では日本を代表するコア・バリュー経営実践企業として名を連ねる、日本自動ドアとマテックス。前回、GURULIが行った日本自動ドアへのインタビューでは、「人類にとっていいことか悪いことか、人として正しい事業なのかをきちんと考えながら働く自覚を持つべきだ」と吉原さんは語ってくれました。コア・バリュー経営に代表される「社会をより良いものにしよう」というブレない価値観を軸に据えた企業文化の醸成は、両社のパートナーシップをより強固なものにするだけでなく、日本における企業と社会貢献のあり方を大きく変える原動力になっていくかもしれません。
ポストコロナ時代に高まる自動ドアの存在意義
新型コロナウイルス感染症の拡大により、社会がニューノーマルへと急速に転換を迫られる今、先行きが不透明な環境は、企業にも大きな影響を与えています。ポストコロナの時代を見据えて、松本さんは日本自動ドアの存在意義をこのように語ります。
「感染症対策は、非接触の社会や暮らしをどう実現するかが重要です。このような時代において、日本自動ドアさんは、まさに非接触型のインフラづくりを一緒に実現してくれる会社ですから、ビジネスパートナーとしての重要性はこの先も増すばかりだと思っています。当社としても環境問題に対する取り組みを含め、この社会課題の解決に向けて全力を尽くしたいと考えています」
インタビューも終わりに差し掛かるころ、松本さんは、吉原さん個人への感謝を語ってくれました。
「吉原さんは企業経営にしても商品開発にしても、常に先進的な考え方をされる方。あらゆることに興味を持ってチャレンジするので、中には『本業とどう関係しているんだろう?』なんて、こちらが心配してしまうこともあるほどです(笑)。そのためか、会話自体が創発トレーニングになり、アイデア出しをするときに非常に勉強になるんです。とてもありがたいことですね」
自動ドアメーカーと窓の総合商社という間柄ながら、公私ともに水魚の交わりと称しても過言ではない良好な関係性が浮き彫りになりました。取引先としての関係から、今や互いに切磋琢磨する同志となったお二人。まさに単なるビジネスパートナーを越えた“真のステークホルダー像”を体現しているといえそうです。
【プロフィール】
松本 浩志(まつもと ひろし)
マテックス株式会社代表取締役社長。コロラド州立大学Fort Lewisを卒業後、サンダーバード国際経営大学院にてMBAを取得。その後東芝に入社し、DVD事業部門での海外・国内営業に従事。2002年にマテックス株式会社に社長室次長として入社。2009年に先代社長の松本巌氏より事業を承継する形で代表取締役社長に就任。以後、現職。
マテックス株式会社
本社 〒170-0012 東京都豊島区上池袋2-14-11
TEL: 03-3916-1231
資本金1億円
売上高139.2億円(2019年度)
従業員数275名(2020年4月1日現在)