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ステークホルダー資本主義を日本に根付かせるには?

サステナブルな取り組み ステークホルダー資本主義
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ステークホルダー資本主義

ステークホルダー資本主義が日本に根付くにはどうすればよいのでしょうか。また、ステークホルダー資本主義の新しい国際標準を日本企業に優位に持っていくにはどうすればよいのでしょうか。

ステークホルダー資本主義のもと、伝統的な日本企業はどうなる?

Sacco加藤
加藤 俊

はじめまして。加藤俊(かとう・しゅん)と申します!私は、「coki(コウキ)」というWEBメディアを運営しています。cokiは、法人の非財務情報やサステナビリティ(持続可能性)を可視化することを目的としたメディアです。普段は、株式会社Sacco(サッコ)という編集プロダクションの会社で代表をしています。

本コラムでは、従来型の資本主義の終焉が言われ、岸田政権も言っている「新しい資本主義」なるものが、本当に萌芽しているのかを考えたいと思います。ちなみに、新しい資本主義=ステークホルダー資本主義と捉えて話を展開します。ステークホルダー資本主義はダボス会議のメインテーマになるなど、世界でトレンド化しつつあると言えます。

でも待ってください。ステークホルダー資本主義とは、株主以外のステークホルダーも大切にしましょうという考え方です。お客様や社員、取引先、地域社会といったステークホルダーを大切にする考え方とは、すなわち日本人が旧来より持っていた価値観そのものなのではないでしょうか。

古くは、近江商人の「三方よし」や石田梅岩が説いた商人道などはまさに多様なステークホルダーの利潤を考えることが上手いビジネスだと説いたものでした。こうした利他の精神が根付いた伝統的な日本企業は、いまも全国に数多くいますよね。

それでは、こうした伝統的な日本型経営の価値観をもった日本企業は、ステークホルダー資本主義が社会実装される世の中ではどうなっていくのでしょうか。きちんと再評価されるのでしょうか。

今日はそれを考えてみたいと思います。 まずは、欧米が言うステークホルダー資本主義と伝統的な日本型経営の価値観との差異を整理したうえで擦り合わせを試みることから始めたいと思います。

ステークホルダー資本主義に移行していく前提の整理

今日の社会は株主至上主義からステークホルダー資本主義に移行していく端境期にあると言えます。一つ、全体の流れを整理してみましょう。

まず、ESGやSDGsがメガトレンド化して久しいですね。SDGsという言葉は日本やごく一部の国でしか使われていないと言われています。でも、ESGやサステナビリティといった言葉は広く浸透しているんですよね。何が言いたいかというと、サステナブルトレンド自体は、瞬く間に世界を席巻していっており、現在進行形で拡張されていっていると言えます。

パンデミックも一向に終わりません。世界中で、K字経済(格差が二極化した状態)が広がっています。かようにビジネスの前提条件は大きく変容しています。今日は個や組織・国というあらゆるレイヤーで、劇的な環境変化が起きているようです。

気候変動リスクも無視できなくなりましたね。ESGの流れを見ていくと、上場企業だけではなく、サプライチェーン上に位置する非上場の会社にも、GHGガスの削減に寄与させる動きが見えます。すなわち、大筋としては、事業規模や産業セクターの如何にかかわらず、全社で持続可能な社会の実現を考えていくことが求められている。そう言い換えることはできそうです。

これを企業という単位で見るとどうなるでしょう。従来の自社ビジネスは環境・社会・ガバナンスに配慮したものに進化できていますか? 経産省が言うSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)という言葉を考えると、寺社ビジネスと社会のサステナビリティの同期化が求められる時代に差し掛かっていきます。

こうした時代の前提のもと、cokiは法人がステークホルダーを大切にする「社会の公器」にトランスフォームしていくための支援を行うことを目的に立ち上げました。

ステークホルダーとの向き合い方やつながりの関係値を可視化すること。さらに、ステークホルダーとの一つひとつのエンゲージメントを高めていくこと。そして、企業と社会のサステナビリティとの同期化を伴走支援すること、そうした行為が求められると考えたからです。

ステークホルダー資本主義を明瞭に語れる者が少ない現在地

アメリカ版経団連ともいうべき団体、ビジネス・ラウンドテーブル(以下、BRT)が2019年に出した声明により、株主主権主義・株主第一主義の時代は終わったと言われています。そして、複数のステークホルダーを大切にする『ステークホルダー資本主義』の時代が到来しつつあると言われるようになりました。

しかし、実際はどうでしょうか。いまもって尚ステークホルダーを大切にするとはどういったことなのか、ステークホルダー資本主義を体現する企業とは何かを明瞭に語れる者は少ないことが問題です。

ESGを見ていると、米欧中のパワーゲームだということがわかります。デファクトを自国に有利なように持っていくことに不得手な日本は、これまでさんざん煮え湯を飲まされてきました。もともと日本は、環境問題に先進的でしたね。ところが、協定で課されたCO2削減目標に苦慮している現実があります。さてはて、このまま手をこまねいていると、ステークホルダー資本主義もまた、日本企業にとって有利にはならないまま、終わってしまうことが予想されます。

では、これから日本企業はどのようなスタンスをとっていけばいいのかを考えてみましょう。

私が主張したいことは、ステークホルダー資本主義が日本に早期に根付くのか否かの分析ではありません。確かなことはステークホルダー資本主義を体現する企業の輪郭はまだ朧気だということです。

ESGと同じ文脈で、目下デファクトを自国企業に有利なように定めるべく、大国・大企業間で熾烈なパワーゲームが始まっていることが予想されます。私が期待したいのは、デファクトが定まっていない今日は、ステークホルダー資本主義の中身がどうなるのかの定義づけに一矢報いるべく、「悪あがき」が許されるタイミングなのではないか、ということです。

主義の体現者や定義が曖昧ないまだからこそ、日本企業が「我こそがステークホルダー資本主義の体現者だ」と発信することに幾ばくかの意味があるはずです。

それは日本企業の世界的な再評価に繋がるかまではわかりません。でも、自社利益のみを過度に追及せずに、社員や取引先、地域社会への多大な貢献を果たしていながら、人知れず評価もされてこなかった多くの企業の国内における再評価には繋がるのではないかと期待しています。cokiの活動がその一助になれば幸いです。

本メディアの目的は、事業規模の大小を問わず公器性を有する企業が評価される仕組みづくりを一考するものです。

究極的には、企業とはどのような評価基準で評価されるべきなのかを設計し直すことが目的です。既に潮流はできています。私は、公器性を有する企業が再評価されるためには、世界的なトレンドが起きているステークホルダー資本主義の文脈で日本企業を捉えなおすことが重要だと考えています。

そのために、日本企業への影響は今後どのような形で生まれ波及していくか、また企業各社にとって経営や責任の在り方はどう変わるのかを理解する必要があります。

まず前提として、本コラムでは、欧米が言うステークホルダー資本主義と伝統的な日本型経営の価値観との差異を整理したうえで擦り合わせを試みることから始めたいと思います。

日本は資本主義なのか?

私は、ステークホルダー資本主義という言葉は市民権を得ている上で、あえてこの言葉の「資本主義」という並びに違和感を覚えます。疑念を覚えるのは、「資本主義」が80年代以降何を指し、どういった歴史を辿ってきたのかを考えるからです。

ハーバード経営大学院のマイケル・ジェンセン教授らによって、80~90年代に資本主義はモノの価値を全てマーケットに委ねることが、真の公平性に繋がるという理屈の上に再構築されました。

当時アメリカ経済が停滞していたこともあり、経営者の放漫経営は株式市場で抑制できる、そもそも企業は単なる契約の束に過ぎない、規範的な社会的責任を取ることはできない、という考えがこの根底にあります。
この資本主義とステークホルダー資本主義が意味するところの、マルチステークホルダーを大切にする経営は本来相容れないものです。

なぜなら、ステークホルダー資本主義が醸成された背景は、従来の資本市場を是として捉える延長線上に起こったものではなく、アンチという形で醸成されたものだからです。
実際に過去にジェンセン教授は社員や取引先など幅広いステークホルダーに配慮する経営を「旧共産主義圏で失敗したモデル」と否定していました。

翻って日本は資本主義を謳っていますが、欧米が言うところの資本主義を完全導入してこなかった国です。東証をはじめ、資本市場を経済制度としては導入しています。でも、それは上場企業でも企業同士で株式の持ち合いを行うなど、突き詰めていくと、欧米社会が言うところの資本主義国とは言えません。

事実、アメリカから80年代には日本は資本主義国家ではないという指摘をさんざんされていました。日本は「修正資本主義」と言われてきたのです。

ステークホルダー資本主義は行き過ぎた株主第一主義からのリターンバック

一時は持て囃された、この修正資本主義ですが、90年代以降の日本の凋落とともに、「次の時代の資本主義」とは持て囃されなくなりました。

世界は「金融資本主義」や「株主第一主義」という言葉に代表される、資本市場に全てのモノの価値を委ねる資本主義へとトレンドが移っていきました。金融工学では、人も事業の価値も全ては市場で値がついたものが正しいという主張がまかり通りました。

なぜなら、市場は誰でも参加でき、数値化できるから、これこそが真の公平性なのだという考え方が、この根幹にあります。しかし、市場に普遍の原理はありません。今もって定量化は完全には行えず、論理を超えた不確実性が支配しています。

そして、株主第一主義を推し進めた結果が今日の貧富の格差を生み出しました。資本市場では勝った人に冨が集まります。世界は一部の者のみが富を享受するようになりました。そして、その他の圧倒的大多数は貧困に喘ぐようになりました。今日、K字経済と言われる問題ですね。

現在起きているステークホルダー資本主義とは、行き過ぎた株主第一主義からのリターンバックです。

平成の30年間は日本の負け戦

一方、日本はどうだったのでしょうか。この間失われた30年で低成長とデフレを繰り返してきました。

筆者がインタビューしたある大手企業幹部は、「平成の30年は日本の負け戦だった」と説いています。この負け戦が1945年と比べて質が悪いのは、多くの人が負けたことを認識しきれていないため、グレート・リセットの合意が働かないことだと。

30年間多くの企業が、「企業は株主のもの」という株主第一主義的な考えを取り入れました。日本企業の「ガバナンス改革3本の矢」に、コーポレート・ガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードと伊藤レポートがあります。伊藤レポートでは、ROE8%以上出すことが望ましいと明言されました。

上場企業では表上はROEで企業が評価されるようになりました。ただ、経営がアメリカほど過激に変わることはありませんでした。

なぜなら、口では株主への貢献を謳いながら、実際の経営に於いて利益の再分配をそれなりに考慮し、R&Dや人材教育に投資するという「ダブルスタンダード経営」が日本企業の内実だったからです。

つまり、多くの企業で面従腹背、表上は株主を重視すると言いながら、腹の内では企業の持続的発展のために異なる利益の再分配を行ってきたのです。良きにつけ、悪しきにつけ、ミルトン・フリードマンの帝国に完全には毒されてこなかったのです。

公器性を有する企業が評価されるためには

面従腹背で表上はROEの高い企業が評価されてきた日本ですが、ステークホルダー資本主義の時代では、株主のみを殊更重要視することに疑義を抱いている企業各社が腹の内を明かすことができるのです。

いまこそ、ステークホルダーを大切にする経営を行っている企業を評価し、尊ばれる価値観を醸成することが可能となったのです。

そして、ステークホルダーを考慮する経営に於いて、事業規模の大小は問う必要はありません。
関わるステークホルダーの幸せを願うこと、また、実際にステークホルダーからどのような信頼・共感・評価を受けているかを顕在化させることでで、全く違う尺度から「いい企業」を表せるのではないか。これがcokiのプロダクトの骨子をなす思想です。

ところが、ステークホルダーを大切にする経営が新しい資本主義の形になり、日本企業が再評価される気運が醸成されているというのに、現状はステークホルダーを大切にする企業が、「公器性を有する」という一点で評価される仕組みは根付いていません。

日本企業が抱えてきた最大の問題は、公器性を有する企業の本当の価値が顕在化されず評価される仕組みがないまま、欧米の評価指標をそのまま取り入れてきたことだと言えます。

現在、日本で評価される企業はどういった企業でしょうか。

事業規模の大きな会社、売上や利益、ROEの高い会社、社員満足度などで企業が評価される仕組みはありますが、地域社会や社員、その家族、取引先などを大切にしている経営を行っている企業が、そのことだけで優秀な人材が就職すべき企業と評価されることはありません。私に既存の評価指標を否定する気はありません。

しかし、せっかくステークホルダーを大切にする価値観が再興しようとしている中、その精神性を連綿と紡いできた日本で、ステークホルダーを大切にする企業がもう少し尊ばれる社会になってもいいはずと切に感じています。
つまり、マルチステークホルダーを大切にしているか否かで企業が評価される新しい価値観を醸成していくことが、多くの企業がステークホルダーとの向き合い方を改めることに繋がり、ひいては社会がより良くなると考えています。

現状では顧客や社員を大切にしている企業も、取引先や地域社会に対しては自分達が貢献する対象と深くは捉えていないことが多いです。中小企業を取材していると、悲しいかな色々な業界で下請け泣かせなエピソードが漏れ聞こえます。
ただ、こうしたこともマルチ・ステークホルダーを大切にする評価指標が根付き、事実ステークホルダーからどのような評価を受けているかが可視化される社会になることで、多くの企業が姿勢を正すことに繋がります。

事業規模が大きく、地域を代表する「いい会社」「すごい会社」と評される企業も、社員の振る舞いが横柄で、地域の商店街や飲食店からの評判は悪いことがあります。これも地域社会が、企業の構成員がどういう振る舞いをしているかの声が可視化されるようになれば、企業は姿勢を改めることに繋がると期待できます。

売上や利益といった既存の尺度でみれば、輝かない企業にも、地域の発展に長年寄与している企業がたくさんあります。そうした企業が再評価されることで、優秀な人材を獲得しやすくなる社会を作る必要があります。

長寿企業大国日本は元々ステークホルダー資本主義

考えてみれば、日本企業の精神性は商人の神様と言われる石田梅岩や、「三方よし」といった古来の社会の生業の在り方からそれ程変わってはいません。企業経営者の社会観や企業観は変わっていません。

数字が物語ります。三方よしをはじめとした、ステークホルダーの利益を考慮する経営を取り入れている企業が多いからこそ、日本は世界屈指の長寿企業大国なのだと言えます。

長寿企業研究の団体、一般社団法人100年経営研究機構の調べによると、2020年時に国内で社歴100年を超えた長寿企業数は、52,328社を超えています。実際の数値については、諸説あり、東京商工リサーチは34,567社としています2位のアメリカの11,735社、3位のドイツの7,632社と比較するに、日本は世界に冠たる長寿企業大国ということができます(100年経営研究機構調べ)。

いま読者に理解いただきたいのは、日本の長寿企業数が圧倒的な世界一なことそれ自体が、ステークホルダーを大切にする経営が永続的に企業繁栄を約束する証左となっていることです。

そして、アメリカの言葉を借りると、この伝統的な日本式経営の価値観に類するものが、ステークホルダー資本主義のモデルなのです。

日本では、中小企業だろうが、大企業だろうが、ステークホルダーを大切にする経営の在り方を「企業は社会の公器たれ」という言葉で言い表してきました。日本の資本主義の形は欧米の資本主義に、日本古来の考えがミックスされてきたものに他ならず、この事実を再認知しないと、その良さが生かされない状態が続きます。

ステークホルダー資本主義の実践は、企業の360°評価で

ステークホルダー資本主義時代の経営の在り方を考えるにあたっては、もともと日本の強みであり、江戸時代から連綿と紡いできた石田梅岩や近江商人の「三方よし(買い手よし売り手よし世間よし)」に代表される伝統的日本式経営の価値観の再解釈がヒントになります。

ステークホルダーの定義がさらに広がった今日では、企業の経営哲学、経営倫理の再定義を踏まえた上での再解釈が求められます。ステークホルダーを包含する企業の社会的存在意義を見直すとともに、全てのステークホルダーとの対話による好ましい関係創出へと経営の再構築を行う必要があります。

企業がサステナブルであるためには、地球環境や、地域社会、取引先、社員、その家族、顧客といったあらゆるステークホルダーに配慮し、皆が幸せになれる矛盾のない最適均衡の創出において社会の公器たる経営を行うことが必要なのです。

しかし、ステークホルダーがマルチ化することによって、こちらを立てればあちらが立たないという矛盾が生じます。こういった問題は社会における自社の存在意義を、もう一段目線を上げた観点から経営を見つめなおすこと、つまり経営を昇華することで解消できます。

利害関係が複雑に錯綜し、ネット上に露出する現代においては、嘘のつきようがなくなり、本音と建前を使い分ける、二元的な経営ができなくなったということを意味しています。

逆に言えば、あらゆる経営活動を一元的に統合する経営哲学と、誠実なる日々の実践こそが社会からの信頼をもたらし、かえって生産性が高い経営ができる環境が整ったと言えます。

言うのは簡単ですが、「社会の公器」という姿には、一朝一夕に辿り着けるものではありません。もちろん、上場企業の中には、統合報告書等やサステナビリティレポートで価値創造プロセスやステークホルダーエンゲージメントをわかりやすく可視化し、実践されている企業が少なからずあります。しかし、歴史のそれほどない新興市場の企業や、一般の企業がマネをするのは容易なことではありません。

cokiのミッションは、時代が株主第一主義からステークホルダー資本主義へ移行していく端境期の今日において、三方よしを骨子とする日本の各企業が、サステナブル社会の実現にきちんと寄与していけるようトランスフォームを伴走支援することにあります。

具体的には、企業が各ステークホルダーに対してどのように向き合っているのか、ステークホルダーエンゲージメントを可視化し、場合によっては具体的に関わっているステークホルダーの方にヒアリングを行うことで、ステークホルダーを通しての企業の360°評価をすることにあります。

プロダクトとしてのcokiはまだ未完成であり、事業規模の大小を問わず公器性を可視化するアプローチも始まったばかりです。

ただ、私たちは企業がお世話になってきたお客様や取引先、社員や家族、地域社会、株主とのつながりを一つひとつ丁寧に可視化していくことを通して、企業の公器性を顕在化させることができるのではないかと考えています。

この試みに共感いただける方がおりましたら、ぜひお声がけください。一緒に活動できれば幸いです。

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