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法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

ショーワグローブ株式会社

https://www.showaglove.co.jp/

〒670-0802 兵庫県姫路市砥堀565

(079)264-1234

「ダサいけど、頼もしい」 ショーワグローブ、現場と山をつなぐ手袋づくりの哲学

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
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塩化ビニール手袋の起源に込めた創業者の志

ショーワグローブ広報のお二人
ショーワグローブ広報の太田さんと八谷さん(撮影:加藤俊)

黄色と緑の「グリップ」シリーズで知られるショーワグローブ株式会社(兵庫県姫路市)は、作業用・家庭用手袋で国内トップクラスのシェアを持ち、1500種を超える製品を展開する。

2023年12月期の売上高は453億円。用途別に製品を細かく設計・製造できる技術力と、独自の研究開発・製造・品質保証を一貫体制で担う開発力が、同社の競争優位性の核となっている。

ショーワグローブのグリップとライトグリップ

同社の起源には、創業者・田中明雄の強い思いがある。1920年生まれの田中は、戦時中、極寒の戦地で凍傷によって指を切断した者を見かけた。この過酷な経験が「人の手を守る製品をつくりたい」という志につながる。終戦後、塩化ビニールという新素材に着目した田中は、まず万年筆のチューブへの応用に成功。

その後「この素材こそ手袋にふさわしい」と確信し、1954年に世界初となる塩化ビニール製手袋「ビニローブ」の開発に成功した。

 

使いやすさを生む“手型”へのこだわり

製品開発では、精巧な手型づくりに対するこだわりが随所に見られる。人間の手を自然に下ろしたときの、親指が内側に入った形を再現した立体設計は、長時間の作業における快適性を支えている。

作業時の細かな動きにもストレスがかからないフィット感は、同社の競合優位性のひとつであり、数々の製品に息づいている。

テムレス、アウトドア市場への想定外の躍進

“プロダクトアウト型”の開発姿勢も、同社の特徴だ。市場ニーズを先回りする形で用途別手袋を投入し続けてきた。たとえば2005年に登場した「テムレス」は、農業や水仕事に対応した防寒手袋として開発された。透湿防水性に優れ、外からの水をはじきつつ、内側の蒸れを逃がす構造で、農業現場を中心に高く評価された。

ところが2012年、とあるアウトドアライターが「透湿性があり蒸れにくい。雪中泊の必需品」とSNSで紹介したことで、テムレスは登山界でも一気に話題となる。軽さと機能性、そして700~2,000円という価格帯の手頃さが支持され、登山者やスノーボーダーにも急速に浸透した。

「手の強い味方」「コスパがいい」「手入れがいらない手袋」と評価され、シリーズ累計販売数は2,600万双を超えた。

一方で、「青い色やカタカナのロゴがいかにも作業用でダサい」という声も多く、2018年には黒を基調に、ロゴもアルファベットに刷新したアウトドア向け「TEMRES」ブランドを展開。2020年にはグッドデザイン賞も受賞した。しかし、それでもなお「ロゴが目立つ」と感じる一部ユーザーは、ロゴを消して使用する例もある。

ショーワグローブのテムレス
左がテムレスで、右がリブランディング後のTEMRES

「せっかくデザインを整えたのに削られてしまうのは、正直ショックでした。でも、それでも使い続けていただけること自体が、製品への評価だと思っています」と広報・八谷美笛氏は語る。

ショーワグローブ広報八谷さん
ショーワグローブ広報八谷さん

「高級グローブのようにケアが要らず、濡れても汚れても気にせず使える。アウトドアで頼れる存在として、自然と手に取っていただけている」と、広報の太田優子氏も続ける。

 

販路開拓に苦労、アウトドア店での展開

テムレスが機能性で評価された一方、販路の拡大には苦労したという。アウトドア専門店にとって、価格の安い新参ブランドを扱うことは、既存の仕入れ先との関係性や店頭戦略にも影響を及ぼすため慎重だった。

結果として、最初は限られた取引先にテスト的に展開する形でスタートし、少しずつ認知を積み重ねてきた経緯がある。

現在では全国に店舗を持つ登山・アウトドア用品専門店でも展開され、アウトドア市場での地位を着実に築いている。

坂出工場の狙い、国内回帰と供給の安定性

ショーワグローブ坂出工場の外観
坂出工場の外観(提供:ショーワグローブ)

同社の“手を守る”という哲学は、サステナビリティの領域にも広がっている。2024年、香川県坂出市に使い捨て手袋専用の新工場を竣工。

医療・食品現場などで不可欠なニトリル手袋の多くは海外依存だったが、コロナ禍で供給網が途絶えた経験を踏まえ、BCP(事業継続計画)対応と国内供給体制の強化を図ったものだ。

ショーワグローブ広報太田さん
ショーワグローブ広報太田さん

「供給が止まるというのは、単に製品が届かないという話ではなく、社会全体の機能を止めてしまうことになりかねない。そういう場面で責任を果たせる存在でありたい」と太田氏は話す。

 障がい者スポーツと共に進化するものづくり

パラリンピック選手用の専用グローブ
パラリンピック選手用の専用グローブ(提供:ショーワグローブ)

また、スポーツ支援の一環として、車いすラグビー日本代表選手向けの専用グローブの開発にも取り組む。激しい接触プレーに耐える設計や、回転動作で擦れやすい箇所への耐久性強化など、選手のフィードバックをもとに改良を重ねてきた。

専用品は選手ごとに細かな仕様が異なる“カスタムモデル”で、競技パフォーマンスと安全性の両立を実現している。

「スポーツの現場でも“手”は道具であり武器でもある。選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できるよう、我々の知見を届けたい」と八谷氏は語る。

選手からの評価も高い。日本代表の倉橋香衣選手は「選手ごとのこだわりが反映された手袋を使わせてもらっている」と語る。

倉橋選手
倉橋選手(提供:ショーワグローブ)

同社としても、「これは社会貢献活動として取り組むべきことであり、広告宣伝や他製品へのフィードバックを目的とするのではなく、純粋に車いすラグビー選手たちの手を守りたいという気持ちが強い」と太田氏は語る。

 

 環境配慮型製品の開発と未来

他にも、リサイクル素材を使用した作業用手袋「GP500E」(繊維部の約90%にリサイクルナイロン糸を採用、エコマーク認定)や、ナイキが使用済みスポーツシューズや製造時に出た廃材をリサイクルして作る素材”ナイキグラインド”を使った「Natural rubber Glove」など、環境配慮型製品の開発にも力を注いでいる。

一部の人から“ダサい”と言われても、ロゴを削ってまで使われ続ける手袋。それは、ショーワグローブが徹底して“本質”を見据えてきたものづくりの証でもある。

戦場での凍傷体験から始まった“手を守る”という志。その哲学は、現場とアウトドア、産業とスポーツ、日常と災害対応を縦断し、社会のすみずみにまで静かに根を張っている。

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ライター:

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。株式会社東洋経済新報社ビジネスプロモーション局兼務。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。 連載:日経MJ・日本経済新聞電子版『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』

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