プラスチックごみの分別収集が都内で拡大している。23区では22区が2026年度までに収集を始める見通しだ。これまでプラごみは焼却していたところが多かったが、22年の新法施行を機に、分別収集しリサイクルに回すことによって二酸化炭素(CO2)の削減につなげようとの動きが強まっている。
ただ分別の徹底には住民の協力が不可欠。プラのリサイクルの実態も一般的なリサイクルのイメージと異なることが多く、行政の説明力が問われる場面が増えそうだ。
今年10月にプラスチックごみの分別収集が始まったばかりの東京都豊島区。週1回のプラごみの収集日には地域の集積所に多くのごみ袋が集まる。ゴミ出しに出てきた住民に聞くと「プラスチックがこんなにかさばっているとは思わなかった」と話していた。それほどプラスチックは日常のごみの体積の多くを占めている。
東京23区では「プラ」と書かれたマークのついたプラスチックの容器包装と全体がプラスチックでできているプラ製品の分別収集を今年度から2026年度までに新たに10区が始める見通しだ。本格実施の目標時期が決まっていないものの分別収集の実施に前向きな世田谷区も含めると、近い将来すべての区でプラの分別収集が実施されることになる。これまでプラは紙ごみなどと合わせて焼却を前提とする区とリサイクルと実施している区に分かれてきたが、足並みがそろうことになる。
このタイミングで多くの区がプラごみのリサイクルを始めるのは、2022年度に施行された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(通称、プラ新法)がきっかけだ。これまでも容器包装リサイクル法により区市町村にはごみの分別収集が求められてきたものの自治体間で対応が分かれていた。
プラ新法の施行後も依然として分別収集やリサイクルは区市町村にとって努力義務にとどまるが、事業者も含めてプラスチックのリサイクルへの取り組みが強化される流れが強まったため、多くの自治体がこれまでの方針を転換することになった。ちなみに話題になった一部飲食店でのプラスチックストローやスプーンの廃止、クリーニング店でのビニール包装の削減といった動きもこのプラ新法に連動したものだった。
プラ容器包装の分別収集のための仕組みは以前から用意されていた。アルミ缶に「アルミ」のマークがつけられているのと同様に、惣菜のトレーや菓子の袋などには「プラ」のマークがつけられている。プラスチックの分別回収の場合には、自治体はこれらのプラマークがついた容器包装と、全体がプラスチックでできていることが明らかなプラ製品をリサイクルのために収集することになる。
もっとも実際はそう単純ではない。容器包装には様々な汚れが付着している。軽くすすいだり、拭き取ったりしてからごみに出すように推奨しているところがほとんどだ。一方で洗っても落ちにくい汚れがある場合は可燃ごみとするよう指導しているが、その境目はあいまいな部分もある。例えば納豆の容器の場合、納豆に触れている部分は燃えるごみ、ふたはリサイクルに回すよう細かく指導している自治体もある。
様々な素材で構成されていても、プラスチック部分だけを取り外せる場合はプラごみとして出すような指導もある。 これらのごみは中間処理施設に運ばれ、いったんごみ袋から出された上でベルトコンベアーに乗せられて人の手でリサイクルに適さないものが取り除かれる。こうした手間がかかるため、ごみの「品質」は非常に重要だ。24年4月から分別収集を始める板橋区では23年の10月以降、合計で46回の住民説明会を開催し分別方法を説明した。
住民にとって大きな負担となるプラの分別収集だが、メリットがないわけではない。プラ容器包装は重量的には従来の可燃ごみに占める割合は少ないが、体積でみるとその割合は大きい。文京区が2022年度後半に区内の一部地域で実施したモデル事業のアンケート結果によると、参加者の6割弱が、プラごみを分別することで可燃ごみの容積が5割以上減ったと回答した。プラごみの回収をしているところでは可燃ごみが週2回、それとは別の日にプラごみが週1回という回収スケジュールが通例だ。分別の手間はあるものの、従来可燃ごみとして出してきたごみの収集日が1日増え、家の中のごみが減るというのは良い点かもしれない。
さて、ここまでプラごみ収集の動向をみてきたが、なぜ分別収集をしなければならないのかに立ち返ってみよう。それはやはり環境問題への配慮ということに尽きる。ごみ処理の歴史的な流れをみると、プラスチック製品は燃やさずに埋め立てる時代から、焼却する方向に進んできた。これは最終処分場の不足への対処と、焼却炉の高性能化によるものだ。ごみを燃やして発生する熱エネルギーを電気に変えて周囲に供給したり売電したりすることでエネルギー消費を節約していくというのが少し前までの考え方だった。
ただ現代ではプラスチックは分別して何らかの方法で再資源化する方が二酸化炭素(CO2)の削減につながると考えられている。東京都のウェブサイトには
「容器包装プラスチックの分別収集を実施していない自治体で行われている廃棄物発電(プラスチックを焼却し、その際に発生する熱により発電)により排出されるCO2は、プラスチック1トンあたり約1.92トンです。一方、リサイクルした場合に排出されるCO2は約0.45トンです。廃棄物発電からリサイクルに切り替えることで、プラスチック1トンあたり、1.47トンのCO2削減効果が得られます。」
との試算が書かれている。これはプラごみの中間処理施設への運搬で車が排出するCO2や、再資源化の工程で出るCO2なども含んだ上での試算だ。ここまで明確なCO2削減効果を主張されると、自治体としても無視はできない。法律上、ごみの収集や運搬は自治体が実施するため収集日が増えれば予算も多く必要になる。ただ再資源化自体は容器包装メーカーなどによる拠出金でまかなわれる仕組みのため、コスト面の問題はそれほど大きくない。新型コロナの影響によるごみ収集車の供給不足や人手不足などの問題に一定の目途がついた自治体は、今後も順次プラごみの分別収集に移行していくと考えられる。
もっともプラごみの再資源化は一般的にイメージするリサイクルとは大きく異なっている。例えばリサイクルが進んでいるアルミ缶や古紙などはそれらを溶かして同様のものを作るというわかりやすいリサイクルの例だ。石油から作る容器としてリサイクルが先行しているペットボトルは細かくしたうえで熱処理するなどして素材化し、化学繊維やプラ製品などに再生するのが主だ。まだ少数派ではあるが、最近ではペットボトルに戻すリサイクル工場も出てきている。
容器包装やプラ製品のリサイクルはペットボトルのように品質がそろっていないため、技術的にはさらに難しい。リサイクルの手法として大きく分けて「材料リサイクル」と「ケミカルリサイクル」がある。材料リサイクルは最終的にプラスチックの樹脂として再生するためわかりやすい。一方ケミカルリサイクルはコークス(石炭)を燃やす工場や発電所でコークスの代わりになる燃料にする事例が大半だ。これによって石炭を燃やした場合よりCO2が削減できる削減という計算だ。またプラごみを熱で分解してガスにすることで、化学肥料などの原料として重要なアンモニアを作る際の原料として使う場合もある。
現状では2つのリサイクル方法のうちケミカルリサイクルの方が多い。およそ7割がケミカルリサイクルとなっている。しかもケミカルリサイクルの方がCO2の削減効果は圧倒的に大きい。東京都が示したプラごみリサイクルのCO2削減効果の試算も、この実態を前提に作られている。リサイクルといっても、燃料化を経ているとはいえ最終的には多くを燃やしているという事実はあまり知られていない。
リサイクルを一手に引き受ける公益財団法人、日本容器包装リサイクル協会(容リ協)によると、リサイクル手法は入札で決まる業者がどのようなリサイクル方法を取るかで決まるため、自治体が方法を選ぶことはできない。これを嫌い、リサイクルの「わかりやすさ」を重視して独自ルートでの材料リサイクルを進める自治体もあるものの少数にとどまっている。
さらに材料リサイクルはケミカルリサイクルよりもCO2削減効果は薄れてしまうというジレンマがある。 様々な課題を抱えているプラスチックごみの分別収集・リサイクルだが、「小さく生んで大きく育てる」という思想が肝心かもしれない。住人にとって分別は難しいが、確実にきれいなものからリサイクルに回していけばいい。参加率もいきなり高い目標を掲げずに、徐々に増やしていけば自治体側も対応しやすい。さらにリサイクルの狙いや効果、実態についてもしっかりと周知していけば他のものとは段違いに難易度の高いプラスチックのリサイクルも拡大していくのではないだろうか。