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第13回)医療機器のサプライチェーンとSDGs

サステナブルな取り組み SDGsの取り組み
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宗像氏(画像提供:宗像英明)

“置き在庫”ビジネスは、ディスポーサブルの医療機器にもある。購入ではなく貸し出しが必要になる。短期貸し出しは使用できる機器の選択肢の幅を広げる優れたビジネスモデルだが、SDGsと言う視点になると違った側面が見えてくる。

本記事ではその側面について紹介する。

医療機器の貸し出し制度

私はアメリカ中西部に本拠を置くステントやカテーテルと言ったディスポーサブル(単回使用)の医療機器メーカーの日本法人でサプライチェーン部門に勤めている。勤務先のオフィスの一角に 最近、“置きおやつ”のトレイが置かれ始めた。菓子類やカップ麺などを取った分のお金を集金箱に入れる無人販売システムだ。疲れて糖分を補給したい、もしくは昼食を買いに行く手間が惜しいスタッフたちに重宝されている。 ちゃんと支払いがされているのか、などと余計な心配をしてしまうが、月に数回、補充と集金にやってくる菓子メーカーの担当者から何も言われないところを見ると問題ないようである。ふと、カスタマーへの絶対的な信頼に基づくこのビジネスモデルはいつから日本にあるのだろうか、と一般社団法人全国配置薬協会のHPを覗いてみた。

富山十万石の二代目藩主・前田正甫は、質実剛健を尊び自らも、くすりの調合を行うという名君でした。元禄3年(1690年)正甫公が参勤で江戸城に登城したおり、福島の岩代三春城主・秋田河内守が腹痛を起こし、苦しむのを見て、印籠から「反魂丹」を取り出して飲ませたところ、たちまち平癒しました。(中略)

正甫公は、領地から出て全国どこででも商売ができる「他領商売勝手」を発布。同時に富山城下の薬種商・松井屋源右衛門にくすりを調製させ、八重崎屋源六に依頼して諸国を行商させました。

源六は、「用を先に利を後にせよ」という正甫公の精神に従い、良家の子弟の中から身体強健、品行方正な者を選び、各地の大庄屋を巡ってくすりを配置させました。そして、毎年周期的に巡回して未使用の残品を引き取り、新品と置き換え、服用した薬に対してのみ謝礼金を受け取ることにしました。(原文ママ)

江戸時代から300年以上続いていることには驚くが、“お客様の利便性を優先する”と言う精神が現代にまで継承されていることにも感心する。

“置き在庫”ビジネスは、ディスポーサブルの医療機器にもある。病院に在庫して使った分だけ代金をいただくと言う商習慣だ。手術の症例日にあわせて10日間ほど機器を貸し出して使用された分のみを請求する“短期貸出し“と言う慣習もある。高い精度で手術を行うためには多種類のサイズの機器を揃えておく必要があるが、その全てが常時使用される訳ではないため全て購入するのは生産性が低い。このため、購入ではなく貸し出しが必要になる。短期貸し出しは使用できる機器の選択肢の幅を広げる優れたビジネスモデルだが、SDGsと言う視点になると違った側面が見えてくる。

日本特有の商習慣と効率

ディスポーサブルの医療機器では、外国資本のメーカーのマーケットシェアが小さくない。しかし、私のようにサプライチェーンに従事している人間は、海外のマネジメントから在庫資産の運用効率に関してシビアな目を向けられている。短期貸し出しをした製品の多くは使用されずに返却され、100本以上貸し出しても数本しか消費されない製品群があるからだ。競合他社の多い製品では、出荷しても全く使用されずに返却されてくるオーダーのほうが多いのが実情だ。そして、置き在庫と貸し出し製品の何割かは一度も使用されることなく製品有効期限が切れて廃棄処分されてしまう。シンプルに出荷した分が売上になる海外のマネジメント層にはにわかには信じてもらえないほど、日本の貸し出しビジネスはグローバルな視点で見ると非効率で過度に「お客様寄り」のサービスなのである。

電子タグを使用した政府・企業による効率化への取り組み

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サプライチェーンの世界でもSDGsが求められている(画像提供:宗像英明)

医療機器業界としても手をこまねいているわけではない。医療機器の物流オペレーションは長らく製品に付いているバーコードを手作業で一つ一つスキャンすることによって出納管理を行ってきたが、近年、アパレル業の小売店のレジ等で運用が進んでいるRFID(非接触の電子タグ)の導入が進んでいる。米国医療機器・IVD工業会(AMDD)の流通・IT委員会では数年間からRFIDの導入へのガイドラインを示し、業界をあげてオペレーションの効率化を推進している。

また、内閣府主導の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」と言う府省・各産業界をまたいだプロジェクトの中では、電子タグを活用し、サプライチェーンの上流から下流までのトレーサビリティを可視化する「スマート物流サービス」の社会実験が今春完了した。我が社の機器もAMDDを通じてこの実験に参加したが、貸し出した製品が今どこにあるのかが、社会インフラとしてのデータベース上でリアルタイムに把握できれば、過剰な在庫や発注を未然に抑制し、有効期限切れで廃棄されてしまう在庫の削減に大きな効果が期待できると感じた。

顧客満足とSDGS

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医療機器の在庫ビジネスにも非効率な面が(画像提供:宗像英明)

サプライチェーンのDX、イノベーションによる効率化と言うことが推進される一方で、貸し出しのような商慣習そのものの見直しには焦点が当たらない。いくら非効率、行き過ぎと言われてもお客様が求めるサービスレベルに応えないと言うことは、サービスを提供する側からすれば難しく、業界の慣習にひとり背を向けることも出来ない。それでも、EC(電子商取引)を通じて発注した本やレコードが当日に配達されるといった「過剰な顧客満足度の向上への努力」が当然だと思われる社会になってしまったと感じるし、それが持続可能だとも思えない。

日本では、お客様を利するという倫理観が自明の事として社会に根付き、そのことが世界に誇る製品やサービスを産みだしてきた要因ともなった。しかし、経済活動の対価をもらう対象、つまり顧客を過度に優先する目線を、自分の後に生きる世代が無理なく生きていく土壌を耕すことに移す必要性を物流の現場から切実に感じている。

ライター:

1972年生まれ。米系医療機器メーカーのサプライチェーン部門のマネージャー。日系企業を経て2007年よりサプライチェーン部門の立ち上げに携わり、現在RFID導入等のプロジェクトマネジメントに従事する。

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