多方面で活躍する方に、SDGsに関する取り組みや思い、今日からできるエコアクションなどを語っていただく連載企画「わたしとSDGs」。
今回登場いただくのは、“江戸に詳しすぎるタレント”として活躍し、書籍やYouTubeチャンネルで江戸時代の魅力を発信している堀口茉純さんです。
現代を生きる私たちが江戸時代の暮らしを通して学べるSDGsのヒントとは?江戸時代の暮らしと人々の価値観について、サステナブルな観点から紐解いていただきました。
江戸時代は循環型社会。「江戸時代の感覚は、現代のSDGsにも結びついている」
まずは、堀口さんが考える江戸時代の魅力を教えていただけますか。
堀口
江戸時代というのは、260年に渡って平和が続いた時代なんですね。平和だったがゆえに豊かな文化が育っていったことが、江戸時代の何より素敵なところです。
平和でとにかく暇だけれど、お金はない。持て余している時間をいかに楽しく過ごすかというところで、娯楽や食文化が花開いていきました。
そこで“日本らしい”と言われるような独自の文化がたくさん生まれたわけです。
それに江戸の庶民って、貧しいながらもなんだか幸せそうなんですよね。文化の担い手になった庶民が楽しそうに暮らしているのも、私が江戸に惹かれる理由です。
サステナブルの観点でいうと、江戸時代にはどんな特徴がありますか?
堀口
江戸時代は、一言でいえばまさに循環型社会なんです。
私自身、SDGsという言葉に出会ったときに「江戸時代の人々の感覚は、今のSDGsの価値観にも結びつくものだな」と感じ、YouTubeでエコな暮らしぶりなどを取り上げました。
「江戸時代はスゴイから、江戸時代に戻ろう」なんて主張するわけではありませんが、江戸時代のマインドや生活の知恵は現代に活かせる部分も多く、日本のSDGsをより盛り上げることに繋がるのではと感じています。
質素倹約こそ美徳。今あるモノと暮らしを楽しむ江戸の人々
「江戸時代は循環型社会」とのことですが、当時の人々はどんな暮らしをしていたのでしょう?
堀口
江戸時代には、リデュース(ゴミ削減)、リユース(再利用)、リサイクル(再資源化)の3Rが当たり前の生活習慣としてありました。
たとえば、農作物に使う肥料のために業者が屎尿(しにょう)を買い取り、リサイクルしていたのは有名な話です。
買い取りされた農作物が育って、収穫されたものを人々が食べて排出して、また肥料へと生まれ変わっていく。この流れはまさに究極の循環ですよね。
そして江戸の人たちは、本当にモノを捨てないんです。普段着の着物にしてもそうで、着物には流行り廃りがないため、何年何十年と着続けています。
着られないほどボロボロになった着物は、ほどいて手拭いにしたり、雑巾やハタキにしたりとリユースしていました。
また、新品の着物はハレの日用の1着か数着程度。ほとんどは古着で済ませていて、損料屋と呼ばれるレンタルショップで借りることも一般的でした。
3Rのある暮らしが当然のこととして根付いていたんですね。江戸の人々がそんな価値観を持てたのには、どんな理由があるのでしょうか?
堀口
一番の理由は、“貧しいから”ですね。平和ではあるけれど、鎖国下で低成長が続いた江戸時代は、みんなとにかくお金がありませんでした。
そのため、日々の生活でモノを大事に使うのが当たり前。さらに質素倹約が美徳だとする考え方もあり、それを楽しんでいたことが伝わってきます。
今でいう節約術も「私こんな工夫してるんですよ!」みたいな話って面白いじゃないですか。
同じように、当時の浮世絵には布と布をパッチワークのように合わせて前掛けにしたという“節約自慢”が描かれていたり、庶民が節約おかずランキングを作成していた記録が残っていたりします(笑)。
質素倹約な暮らしがベースでも、それを楽しもうとするマインドがあったのですね。
堀口
江戸の人たちっておおらかで、何かと楽しみや喜びを見出そうとしているんですよね。庶民だからといってお金持ちの商人になれないことを妬むでもなく、自分達に与えられた今ある暮らしを楽しんでいました。
また、庶民が質素倹約をポジティブに受け入れていたのには、徳川将軍が自ら倹約を実践し、推奨していたという背景もあります。
徳川将軍自ら、庶民のお手本となるような暮らしをしていたと.。
堀口
たとえば徳川家康は、高価な白米の代わりにいつも麦飯を食べていたそうなんですね。
気を利かせた側近が、茶碗に白米を入れてその上に麦飯を盛って出したところ、「自分はケチで麦飯を食べているのではなく倹約のためであり、人々のためにお金を回したいのだ」とその側近を叱ったというエピソードが残されています。
そのほか家康は着物を長く使えるようにと洗濯を推奨していますし、8代将軍・吉宗は質素倹約をスローガンにした「享保の改革」をおこなっています。
例外として、11代将軍・家斉のように贅沢な暮らしを好んだ人もいましたが、徳川将軍は家康公の思いを踏襲し、質素倹約を美徳とする考え方は江戸時代を通して続いていきました。
古びたモノや欠けたモノにも美点を見出す。今立ち返りたい“江戸的な価値観”
現代社会では、江戸時代のどんな要素を応用できるでしょうか。堀口さんが考える「サステナブルな生活に繋がるヒント」を教えてください。
堀口
江戸の庶民のように「今あるものを愛でよう、楽しもう」というマインドを持ってみると、SDGsやサステナブルがより身近なものになるんじゃないかと思います。
また現代にも「もったいない」という言葉がありますが、江戸では今以上にその感覚が強く、今手元にあるモノを愛でる習慣がありました。古びたモノに新たな価値や美点を見出す姿勢もそうです。
わかりやすい例が、割れたり欠けたりした器を接着し金粉で仕上げる修復技法の「金継ぎ」ですよね。
金粉を使う金継ぎは経済的に余裕のある人たちの嗜みですが、割れてしまった器のヒビを繋ぎ合わせて使い続けることは、江戸時代の庶民も当たり前にやっていました。
完璧ではなくどこか欠けているものに美しさを見出す感性は、“わびさび”にも通じています。この考え方って、とても豊かですよね。
古びたモノや欠けたモノにも新たな価値を見出すマインド、ぜひ見習いたいですね。
堀口
モノを大事に使い続けることや、どこか欠けてしまったモノでもその良さを味わうことは、今の私たちが忘れつつある大事な価値観だと思います。ときにはこのマインドを思い出してみるのもいいかもしれません。
高度経済成長期以降、日本ではひとつのモノを長く大事に使うよりも、より新しいモノに価値を見出し、大量生産と大量消費を追い求める時代が続きました。
そこからゆるやかに低成長の時代へ入ってきた今こそ、モノを愛でて長く使い続ける精神に立ち返る意義があるのではないでしょうか。
最後に、現代の私たちも実践できる江戸のエコアクションがあれば教えてください。
堀口
私の場合は、普段の活動着を着物にしています。なかには古着屋で購入したリユース着物もあれば、祖母から譲り受けて10年以上着ているものもあります。
年代や世代を越えてこれほど長く着続けられる着物というのはものすごく理にかなっていて、ある意味で完成形だと思うんですよね。
反物から作るときにもほとんど余り布が出ないので、捨てる部分が少ないのもエコなポイントです。
着物をはじめ、風呂敷や手拭いといったアイテムには、モノを簡単に捨てずに上手に活用する江戸的なマインドが詰まっています。
風呂敷はエコバッグのように使えますし、手拭いは手を拭くのはもちろん、モノを包んだり、外出先で座るときに敷いたり、インテリア感覚で飾ったりといろいろな用途で使えます。
こういった江戸を感じるアイテムを日常生活に取り入れてみるのも楽しいですよ。
取材・文=市川茜
撮影=鈴木岳人
◎プロフィール
堀口茉純
東京都足立区生まれ。明治大学卒業後、女優として舞台やテレビドラマに多数出演。2008年に江戸文化歴史検定1級を当時最年少記録となる25歳で取得するなど、「江戸に詳しすぎるタレント=お江戸ル(お江戸のアイドル)」として注目を集める。歴史タレントとしてメディアに出演する傍ら、執筆活動や講演会など活躍の幅を広げ、2011年には『TOKUGAWA15/徳川将軍15人の歴史がDEEPにわかる本』、2016年には『江戸はスゴイ 世界一幸せな人びとの浮世ぐらし』を上梓。江戸時代の文化や風習をわかりやすく解説するYouTubeチャンネル『ほーりーとお江戸、いいね!』はチャンネル登録者数8万人を越える。