純白のウェディングドレス、華やかな装いの参列者、そして祝福に包まれた新郎新婦。
人生最良の日を彩る結婚式という舞台。しかし、その華やかな舞台の裏では、大量のテーブルクロスが廃棄されているという現実がある。
SDGsへの意識の高まりとともに、企業は環境負荷の低減と経済合理性の両立という難題に直面している。
本稿では、使用済みテーブルクロスを新たな価値を持つ商品へと再生させる、株式会社ワールドサービス(大阪・泉佐野)の挑戦に迫る。
年間20トンの廃棄クロスを前に生まれた「もったいない」という想い
1983年にクリーニング会社として創業したワールドサービスは、1993年からカラーテーブルクロスのレンタルサービス「partycloth(パーティークロス)」を開始。
現在では、全国1000箇所以上のホテル・結婚式場にサービスを提供、業界トップシェアを誇る。直近の年商は54.6億(2023年12月期)。
「私が入社した当時、倉庫でテーブルクロスが天井まで積み上がっているのを見て、なぜ捨てなければいけないのかと疑問に思いました。まだ使えるものも多いのに、と」(茶谷さん)
そう語るのは、取締役社長の茶谷圭祐さんだ。テーブルクロスは、結婚式というハレの舞台で利用されるものであるがために、少しのキズでも廃棄する必要があった。
年間20トンにも及ぶ使用済みテーブルクロスの廃棄に、茶谷さんは強い問題意識を抱いていた。
「ただ捨てるのではなく、何かできるはず」(茶谷さん)
その一心で、茶谷さんは使用済みテーブルクロスの活用方法を模索し始める。
模索の日々、そしてリサイクルへの挑戦
当初は、自社で使い古したクロスをダスターとして再利用したり、婚礼以外の宴会やイベントで活用したりするなど、リユースによる廃棄量の削減に取り組んだ。
しかし、それでも処理しきれない量のクロスは、廃棄せざるを得なかった。
次に茶谷さんが着目したのは、リサイクルだった。ワールドサービスのテーブルクロスは、耐久性やメンテナンスのしやすさから、ポリエステル100%のものがほとんどを占めていた。
そこで、ポリエステルを買い取ってくれるリサイクル業者を探し、委託することを検討した。
「しかし、いくつかの課題に直面しました。まず、廃棄量が膨大なので、1社では全てを引き受けることは難しい。また、業者も少なく、遠方への輸送が必要になる場合は、輸送に伴なうCO2や有害物質の排出においての環境負荷も考慮しなければなりませんでした」(茶谷さん)
外部業者にリサイクルを委託する場合、プロセスが見えづらく、本当に環境負荷を削減できているのか、という疑問も残った。
茶谷さんは、自社で責任を持って循環させる仕組みの必要性を強く感じるようになる。
自社ブランド「eterble」の誕生、そして循環型ビジネスモデルの構築へ
そんな折、茶谷さんのなかで、新たな挑戦がはじまろうとしていた。それは、自社ブランド「eterble(エターブル)」の立ち上げだ。
「日本では、生活の中にテーブルクロスを使う習慣が根付いていません。人口減少も相まって、このままではテーブルクロス文化そのものが衰退してしまうのではないか、という危機感を抱いていました。
そこで、家庭でも使いやすいテーブルクロスブランドを立ち上げ、文化を未来につないでいきたいと考えました」(茶谷さん)
eterbleは、サステナビリティを意識したテーブルウェアブランドとして構想された。
当初から環境負荷の低い生地の情報収集と選定に注力。素材(※)はリサイクルポリエステル、綿、麻の3点を選んだという。そのうえで、どの素材が一般マーケットで反応があるかをみたそうだが、消費者に一番好まれたのは、リサイクルポリエステルだったという。
(※)
・リサイクルポリエステル(再生比率100%、自社廃棄原料含む)、
・綿(サステナブルコットン/生産工程において有害物質不使用の宣言がされているもの、有害な可能性が高い危険地区で生産されていない、並びに健康、安全、道徳面で不当な児童労働がないものを選定)、
・麻(世界最高の安全基準“エコテックス®スタンダード100認証”)
「結果として、使用済みのポリエステル製テーブルクロスを再生するという、ワールドサービスならではの循環型ビジネスモデルの素材に注目が集まっていることがわかりましたので、今後のラインナップはリサイクルポリエステルを主軸としていきます」(茶谷さん)
「環境負荷の低減はもちろんですが、新規事業創出やブランドイメージ向上など、eterbleのビジネスモデルは多面的なメリットを生み出します。企業理念と社会貢献を両立させながら、持続可能な事業成長を実現していく。それが、私たちが目指す未来です」(茶谷さん)
eterbleのクリエイティブディレクターを務める葉山泰子さん(同社執行役員)は、次のように語る。
「開発にあたっては、多くの試行錯誤がありました。自社の使用済みのテーブルクロスを収集し、色ごとに分別、裁断した後、再生糸へと生まれ変わらせる。テーブルクロスはもともと華やかなもので、カラフルな色のバリエーションがありますから、再生糸でもさまざまな色合いが表現できると思いました。
そして、その再生糸を使って、新たなテーブルクロスを製造していく。この循環型サイクルを構築するまでには、様々な技術的な課題をクリアする必要がありました」(葉山さん)
葉山さんは、ワールドサービスに入社する以前から、ウェディングプランナーとして、国内外で1000組以上の結婚式やパーティーをプロデュースしてきた。
その経験から、結婚式という特別な日に使われるテーブルクロスが、その後、大量に廃棄されているという現実に、かねてより疑問を抱いていたという。
「本プロジェクトに携わることになった時、まさに自分の想いと重なりました。テーブルクロスは、単なる装飾品ではなく、結婚式という特別な時間を演出する大切な要素の一つです。そのテーブルクロスを、環境に配慮しながら、未来へとつないでいく。eterbleは、そんな想いが込められたブランドなんです」。(葉山さん)
結婚式市場の縮小という逆風、それでもテーブルクロス文化を未来へつなぐ
しかし、eterbleの挑戦は、決して平坦な道ばかりではなかった。日本では、少子化の影響もあり、結婚式の件数は年々減少傾向にある。
結婚式の需要が減少していく中で、テーブルクロスというニッチな市場で、新たなビジネスを展開していくことは、機会とリスクを考慮した際に、リスクの方が大きく見えるもの。
「もちろん、利益を度外視して事業を行っているわけではありません。しかし、eterbleが目指すのは、経済的な成功だけではありません。私たちがこの事業を展開して実現したいのは、テーブルクロスの文化としての定着であり、人々の暮らしを豊かにし、持続可能な社会に貢献することなのです」(葉山さん)
茶谷さんは、eterbleにかける想いをこう語る。
「テーブルクロスをかけることは、単に食卓を華やかにするだけではありません。それは、家族や友人との絆を深め、日々の暮らしに潤いを与える、大切な文化です。
同時に、結婚式というハレの日を彩る舞台装置の一つでもありますから、eterbleを通して、この素晴らしい文化を未来へとつないでいきたい。消費者の方にテーブルクロスをより身近なものとして認識いただきたい。それが、私たちの願いです」(茶谷さん)
葉山さんはラインナップ開発にあたり、実際に工場に出向き、職人たちと議論を重ねたという。
「工場で働く職人たちの技術力には、本当に驚かされました。彼らの高い技術があるからこそ、品質を維持することが出来ているのだと実感しています。職人たちの技術と、環境への配慮が融合したブランド、それがeterbleなのです」(茶谷さん)
現在、eterbleでは、テーブルクロスのほか、テーブルランナー、ランチョンマット、エプロン、バックなど、様々な商品を展開している。
商品は、公式オンラインストアで購入できるほか、日本橋三越本店などの百貨店ポップアップでも販売されている。
「今後は、さらに商品ラインナップを拡充し、テーブルクロスを中心としたライフスタイルブランドとして、eterbleの世界観を発信していきたいと考えています。そして、より多くの人々に、サステナビリティと、テーブルクロスのある豊かな暮らしの素晴らしさを伝えていきたいですね」(葉山さん)
葉山さんの言葉には、eterbleの未来に対する熱い想いが込められていた。
eterbleが描く未来、そして未来から祝福される記念日へ
eterbleは、テーブルクロスを通して、サステナビリティと経済合理性の調和が実現する未来を目指している。
「私たちの企業理念は、『未来から祝福される記念日をつくる』です。eterbleの取り組みも、この理念に基づいています。環境問題を解決しながら、人々に感動と喜びを提供していく。
気候変動をはじめ環境問題がよりダイレクトに影響を与えるだろう未来の世代が当社を見た時に、『環境負荷を考慮しないダメな会社であった』と、指さされることは避けたい。未来世代から見ても、いい製品であると言ってもらえるような、そんなブランドを創っていきたいですね」(茶谷さん)
eterbleは、単なるリサイクルブランドではなく、新たな価値を創造するブランドです。廃棄物を資源と捉え、循環させることで、環境問題の解決に貢献する。
そして、人々に感動と喜びを提供することで、持続可能な社会の実現に貢献していく。
「私たちは、eterbleを通して、テーブルクロス文化の素晴らしさを、未来へと伝えていきたいと考えています。そして、eterbleのテーブルクロスが、世界中のたくさんの記念日を彩り、人々の笑顔を生み出す。そんな未来を、私たちは信じています」(葉山さん)
株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。社会的養護の自立を応援するヒーロー『くつべらマン』の2代目。 連載: 日経MJ『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』