1928年に創業した窓の専門商社、マテックス株式会社(東京・豊島)。窓ガラスやサッシの卸売りを主軸にしつつも、窓リフォーム事業の推進や自社工場の開設をおこなうなど、新たな挑戦を続けてきました。
さらにマテックスは、環境省が策定した環境経営システム「エコアクション21」の認証を取得。
2010年からCO2排出量の可視化をスタートし、2013年時点で1,068トンだったCO2排出量を、2030年時点で481トンにまで削減することを目指しています。
可視化当初から今日まで、同社はどのようにサステナビリティ対応を推進してきたのでしょうか。マテックス代表取締役社長の松本浩志さんに話を聞きました。
着目したのは“窓の社会性”。他社に先駆けてCO2排出量を可視化
まずは、御社がESGに取り組み始めた背景についてお聞かせください。
松本
私が代表に着任したのが2009年なのですが、その数年前から温暖化をはじめとする環境問題が取り沙汰されており、世の中の流れが明らかに変わったのを感じていました。
同時に、企業も変わらなければいけないなと。
そこで窓を扱う弊社にできることとして考えたのが、「窓の社会性」による社会貢献でした。
そもそも「窓」は、非常に社会性が高い商材です。防音、防犯、防災といった機能はもちろん、断熱や遮熱による健康維持や増進、省エネ化までさまざまな役割を担っています。
「窓はただあるだけでいい」「企業は売上だけ考えていればいい」というのではなく、その先の社会貢献を考えること。それが業界でいち早くESGに着目し、CO2排出量の可視化に取り組むきっかけになりました。
御社は2010年にいち早く「エコアクション21」を取得しています。環境問題へのアプローチにはさまざまな手法があるなかで、この認証取得からスタートしたのはなぜですか?
松本
当時、環境問題と自分達のビジネスモデルを重ねるためにいろいろな手段を模索して見つけたのが「エコアクション21」でした。
扱う商材で省エネを目指していくことも、もちろん大切です。
でも、まずは自分達の事業活動全体でのCO2排出を数値化して把握すること、そしてその排出量を抑制していくことで取り組みに説得力が生まれるのではないかと。
そんな思いで、この認証取得に向けて動き出しました。
「エコアクション21」でCO2排出量を可視化してみて、率直な感想はいかがでしたか。
松本
実際に弊社のCO2排出量を可視化してみると、当初は1,100トンを超えていることがわかりました。でもこの数字を見ても、正直なところこの規模の会社として妥当なのか、多すぎるのかもわからなかったんです。
そもそもCO2排出量の基準がわからない、数値を正しく評価できないことも含めて、これが弊社の今の実力なんだと気づかされました。
同時に、可視化によって自社の活動や部署のどこにエネルギーロスがあるのかが判明したことで、ようやくCO2排出量削減の第一歩を踏み出すことができたという思いもありましたね。
CO2排出量の可視化について、特に苦労した点はありましたか?
松本
可視化の手順としては、経済産業省と環境省が打ち出している係数をもとに、拠点ごとに電気使用量、ガソリンなどの燃料使用量など各項目の数字を算出しています。
当初、この拠点ごとのデータ収集にはかなり苦労しましたね。
認証取得時の2010年分の算出には、丸々1年 という時間がかかりました。立ち上げ時のメンバーは他の業務も並行して進めていたので、その兼ね合いも大変だったと思います。
ビジョンの共有と環境貢献を実感できる組織づくりが、社員のエコ意識向上に繋がった
「エコアクション21」での定量的な目標と、具体的な取り組みについて教えてください。
松本
2013年度に1,068トンだった排出量を2030年度には481トンにすること(※2013年度比マイナス55%)を目指し、設備や運用の見直しをおこなっています。
中心となって推進をおこなっているのは、総務部内に立ち上げた「エコアクション21」のチームと、その取り組みのサポートと拡充をおこなう「業務統括部」の2つのセクション。
そのうえで拠点ごとに電力使用量、燃料使用量、廃棄物量といった項目別に5つのチームを設置し、エコアクションに取り組んでいます。
「エコアクション21」の認証企業でも、ここまで社員一人ひとりが省エネに対して意識高く取り組んでいる企業はなかなかないと思います。
CO2排出量の可視化・削減に取り組み始めた当初、社内外からはどんな反応がありましたか?
松本
今でこそ環境問題に取り組む企業が増えていますが、当時はいかに売上の数字を作るかという世界だったので、「そんな綺麗ごと言って」と相手にもされない雰囲気でしたね。
社内の反応も、当初は全くウェルカムな雰囲気ではありませんでした。
これは企業のサステナビリティ対応に限った話ではありませんが、新たな挑戦をするにあたって「いいね!」「やろうやろう!」と一斉に同方向へ動き出せることは滅多にないんですよね。
エコアクションもまさにそうで、「なんか新しい仕事が増えたな……」という印象を持つ人も多かったのではと思います。
そこからどのように環境意識を高め、社内に浸透させてきたのでしょうか?
松本
企業がESGに取り組む際に重要となるのは、担当セクションに限らず、社員一人ひとりが環境貢献に対する手応えや成長実感を得られることだと考えています。
そこで弊社では、CO2排出量の可視化と削減の取り組みがどう役立つのか、環境問題にどう貢献していけるかというビジョンを共有し、全社で取り組みをおこなってきました。
また、自分たちが環境にどう貢献できるかという構想は、社長しか考えられないテーマではありません。
だからこそ社員メンバーも巻き込んで「これなら楽しく取り組めそう」といったアイデアを出し合い、設計を考えていく。
その結果、有志でのワークショップの開催や、チーム対抗でエコに取り組みたくなる動画を撮影し優秀作品を表彰する社内企画など、新しい取り組みが次々と生まれました。
「これが決定事項なのでマストでやってください」と無理やり押し付けたところで、長くは続きませんよね。
たとえ最初は時間がかかるとしても、土台となる構想を共有してからPDCAを回していく方が効果的なんです。
まずは現状把握と構想づくりを。今からサステナビリティに取り組む企業に伝えたいこと
サステナビリティの取組を通して得た学びや気づきを教えてください。
松本
窓を扱う一企業として改めて痛感したのは、私たちはこれまで窓の高性能化にばかり注力して、寿命を迎えた後のことを全く考えていなかったということです。
というのも、昨今の窓は、断熱のために金属膜でコーティングするなど異素材を用いていることから、寿命に達すると産廃(産業廃棄物)になってしまうのが実情なんです。
もちろん窓の高性能化を実現することが悪いこととは思いません。ただ、今後は環境への負荷を考慮して、産廃にならない循環型の設計を考えていく必要があります。
これはまさに窓メーカーさんとも話しているトピックで、近い将来にはリサイクルが可能な窓が普及していくのではないかと期待しています。
松本
ここ数年は社内活動にとどまらず、業界全体でESGについて考え取り組む活動も積極的に推進しています。
2021年にスタートした「SPRING FEST(スプリングフェスト)」もそのひとつ。
ここでは、持続可能なビジネスへのシフトに向けて、建築業界、ガラス・サッシ業界のメーカーさんとESGに関する対談イベントなどを開催しています。
今後もメーカーや販売店、協賛企業などのステークホルダーを巻き込みながらESGと向き合い、社会的価値軸での関係構築と価値向上を目指していく方針です。
これからサステナブル経営に取り組む企業は、まずどんなことから始めたらいいと思われますか?
松本
CO2排出量の可視化にしても、まずは自社の現状を正しく把握することが重要です。自社の実態や課題を定量化して見える化することは、スタート段階において非常に大きなエネルギーになるんです。
逆に、現在地がわからないまま方針を打ち出しても力が入らないし、定量的な計画を立てることもできないですよね。
もうひとつポイントになってくるのが、“構想”です。環境問題に取り組むこと以上に重要なのが、それを通して貢献感や成長実感が得られること。
いい構想ができなければ、どんなにPDCAを回そうとしても、結果を出すのは難しいと思います。
PDCAを回そうとする以前に、まずは現状の把握と構想が重要になってくると。
松本
そうですね。特に、構想が不十分なままスタートを切って行き詰まる事例は少なくありません。私はここでいう構想をアイデア(Idea)と訳し、「I+PDCA」のプロセスを意識するようにしています。
また、最近私が社員にシェアしていることのひとつに「正しく知って、楽しくおこなう」という言葉があります。ESGの取り組みも同じで、「楽しくおこなう」ことが重要なんですよね。
逆に、ボーナスの増減をちらつかせるような“ニンジンをぶら下げる系”のマネジメントで社員を動かすことはできません。
これからの時代、環境問題と向き合い社会を変えていくためにも、社員が成長実感を持って楽しく取り組めるESGの構想づくりが重要なカギになるのではと考えています。