「誰ひとり取り残さない社会づくりへの貢献」をミッションに学校教育の課題解決に取り組む株式会社 BYD。代表取締役の井上創太さんは学生時代に起業し、独自のスクール事業で知見を重ね、教育プログラムを開発。ドローン×教育をはじめとする未来世代の育成を見据えて伴走型のコンサルティング事業を展開しています。情報経営イノベーション専門職大学 客員教員、一般社団法人グローバル教育研究所 認定講師でもある井上さんに同社の事業と今後の構想、ステークホルダーへの思いを伺いました。
大学生のためのスクール事業で創業、学校教育機関の授業サポート事業へと発展
――株式会社 BYDの事業内容について教えてください。
弊社は、教育機関の課題を希望に変える伴走型教育コンサルティング会社です。
学生向けのスクール事業「3rd class」で創業しました。大学生が社会に出る前に社会人として必要な力を身に付け、仲間とともに成長する、志を育てることをコンセプトとしたスクールで、講師を招いてビジネス基礎やプレゼンテーション、リーダーシップなどを学びながら起業を支援するコースなどを設けています。
もうひとつの事業が学校教育機関へのコンサルタント・サポート事業です。大学や高校、中学校、小学校など様々な学校へのコンサルを行う中で、授業サポートへのご依頼が増え、教育現場で求められる探究教育やキャリア教育、STEAM教育などを提供しています。ここ数年は、これらの授業サポートの引き合いが大変増えています。
――授業サポートの内容は多岐にわたっていますが、御社ならでの特徴について教えてください。
スクール事業の積み重ねがベースにあることですね。学校からは「生徒が自分について考え、様々なことを探究できる授業を」とのご要望をいただくことが多いのですが、子どもたちにわかりやすい授業を構築する方法や、3カ月や半年で子どもたちが本当に伸びるカリキュラムの作り方は、7年間の3rd classの蓄積から生まれたものです。また、中学や高校でも「起業家養成講座のような授業をしたい」とのご依頼があれば、アントレプレナーシップ系の授業も行います。プロジェクトを考えてみよう、課題解決してみよう、アイデアを考えてみようなど、3rd classで学生たちが自由に意見を出し合うスタイルをベースに、生徒が自ら参加できる形を大切にしています。
以前は3rd classが前面に出ていましたが、現在は教育におけるさまざまな課題を解決する伴走型の教育コンサルティング会社という性格が強くなっています。
ドローンを活用した教材プログラムが大好評。コロナ禍の影響をはねかえす
――教材プログラムなどは御社が制作しているのでしょうか。
教育プログラムは企画から実施まで一気貫通で行えるのが弊社の強みで、教材は弊社が制作したものを使う場合と、他社と共同で開発したプログラムをご提供する場合とがあります。コンテンツ制作を手がけ、教育業界への進出を考える企業を弊社がコンサルティングして一緒に作り込み、導入までの支援も行っています。
――代表的な教材プログラムについて教えてください。
昨年、ドローンを切り口にSDGsについて考える教材や、地方創生やプロジェクトベースで考える教材をリリースし、大変好評をいただいています。教材を開発する前に、学校でドローンを飛ばしたところ、子どもたちの反応がめちゃめちゃよかったんです。皆目を輝かせて「うわー、楽しい!」と盛り上がる。あまり勉強熱心でない高校でもそういう状況になり、「このコンテンツはすごい力になる」と確信をもち、ドローンなどの最新技術を有する企業と共同で開発しました。ドローンを活用したものでは「バーチャル修学旅行」もあります。ドローンが撮影したエジプトのピラミッドなどの動画を見て、1日かけて修学旅行の代替を行うことができます。
ドローン教材は、「絶対当たる」と思って開発に着手したので、自分にとっては一つの賭けでした。これがダメなら起業家をやめるしかない、と思うくらい。展示会では大手企業のブースをさしおいて人が大勢集まり、主催者が驚いていましたが、多くの引き合いがあり、全国の学校に納入して好評をいただいています。
――ドローンで学べるというのは画期的ですね。大人の自分も見てみたい、と思いますし、子どもたちが夢中になるのはわかります。
もともと私は「楽しいから学ぶ」が正しい学びの方法だと思っていましたし、ドローンに夢中になっている子どもたちの姿に、当たるという自信はありました。「バーチャル修学旅行」は、コロナ禍で修学旅行がままならない背景もあり、需要が伸びているという理由もあります。
コロナの影響は、弊社ではスクール事業への打撃という形で現れています。学生たちが集まって語り、学び合うことが難しくなり、オンラインに移行して実施していますが、縮小せざるを得ない。めけずに新たな取り組みに注力し、成功したことは自信になりましたね。経営面では、直近1年は資金調達せず、黒字もキープしています。
良質な教育サービスを開発することで、「誰ひとり残さない社会づくり」を深化させる
――新型コロナ禍の終息が見通せない状況ですが、今後、御社の事業は教材プログラムの開発などがメインになっていくのでしょうか。
現状、コロナ禍を機に事業構造が大きく転換し、授業サポート事業がメインになる体制が続いていくのだと思います。ただ、弊社の根幹はやはりスクール事業にあります。もともと3rd classは、利益よりも「誰ひとり取り残さない」をコンセプトに教育の可能性とクオリティを探究していました。それがあってこその教材開発です。今ドローンの授業やバーチャル修学旅行は様々な企業が手がけており、大手も参入していますが、他社と比べて弊社のクオリティは圧倒的という評価をいただいています。3rd classの7年間の蓄積が弊社の最大の強みです。
――3rd classのリアルな授業を心待ちにしている学生は多いと思います。
絶対に復活させます。「やりますので待っていてください」と皆さんにも言っています。3rd classは、同じ場所に集まり、つばが飛ぶくらいの距離で皆で話し合い、心からの言葉をどんどん紡ぎ合うから楽しい。だから成長する。
中には、大丈夫かな、社会に出て自分でやっていけるかな、と心配していた学生もいるのですが、意地でも彼らを自立させる、幸せにしてあげようと思いながらサポートしました。彼らのような学生の未来を絶対にあきらめない、というのが、私たちの教育者としてのプライドでしたから。だから無事就職が決まった時は本当にうれしかったですね。オンラインでもできる範囲はありますが、オフラインだからこそいい。最高に「エモい」体験ができるんです。
――最後に、これからの展望について伺わせてください。
今後も2つの事業をそれぞれ充実させていきますが、授業サポート事業では、学校と企業のそれぞれの課題を弊社が解決しながらつなぎあわせて、学校が社会や未来に開かれた存在になることを展望しながら支援することを深化させていきたいですね。学校教育を充実させ、誰ひとり取り残さない社会をつくることを目的に、小学校・中学校の頃からわれわれの関わるプロダクトやサービスを入れていくことにより注力していきます。
株式会社 BYDのステークホルダーへの向き合い方
「ドローンで学ぶSDGs講座」を共同で開発したのが株式会社ワールドスキャンプロジェクトさんです。自社開発のドローンやSDスキャンロボットを使い、遺跡や自然環境の調査解析やデジタルアーカイブを行う会社で、知人を介して代表の上瀧良平さんと知り合い、2020年の夏から「ドローン×教育」をやろうと共同作業をスタートさせました。現在は弊社とパートナーシップを結んでいます。
上瀧さんは、ビジネス感覚に大変優れた方で、教育に対する思いもとても強い。「学校教育のクオリティを高めていきたい」との申し出に賛同いただき、手厚い支援をいただいたことに感謝しています。また、上瀧さんはドローンを活用したビジネスを行う株式会社ドローンネットの役員もされているのですが、非常に成長速度の速い会社で、そういう経営上のこともいろいろ伺ってみたいと思っています。
弊社は実質私ひとりの会社で、共同作業者であるプロジェクトのメンバーが事業の成功に欠かせません。その中からひとりあげると、エジプト考古学を大学院で研究をしている、ドローンによる教材制作チームのメンバーの福田莉紗さん。私にはない専門的な知識で教材の制作・監修に力を発揮してくれました。彼女が参加したドローンで学ぶSDGs講座やピラミッドや神殿を訪ねるバーチャル修学旅行は高い完成度で、大ヒットの兆しが見えています。すばらしい授業を作ってくれたことに感謝しています。
福田さんは高校の同級生で、日ごろから何でも気兼ねなく言ってくれ、アドバイスしてくれる心強い存在です。高校時代は彼女が生徒会の会長で、会計だった私のボスでした(笑)。個人的にも仲が良く、彼女の結婚式の映像制作や2次会の司会も私がやりました。現在出産を控えて近く産休に入るところですが、彼女自身の今後の展望にも期待しています。これからも友情を温めながら、一緒によい仕事をしていきたいですね。
国内最大級のゲーム情報メディア「GameWith」を運営する株式会社GameWithのディレクター・松岡雅幸さんには、3rd classに関心をもっていただいたり、一緒にゲームをやったり、親しくさせていただく中で、同社のマネジャー研修を当社に発注してくださり、おつきあいをさせていただいています。
松岡さんには、ゲーム業界やeスポーツについて学ばせていただいています。子どもたちにとって面白くて夢中になれるゲームと教育のいい関係性を築いていこう、という考えで共感していて、ゲームが好きな子が一生ゲームを好きで幸せな状態でいられる社会を一緒に作っていけるパートナーだと思っています。
社内で全タイトルを横断的にディレクトするお忙しい立場ですが、一般社団法人ゲームカルチャー協会の代表も務められ、行政とも連携しながらゲーム文化の普及・発展のために精力的に活動されています。大変仕事のできる方ですので、どんなキャリアアップを目指されているのか聞いてみたいですし、ともに活動できるのは光栄です。
教材の映像の撮影と編集を依頼しているのがQulii株式会社です。同社は、学生向けのメディアを運営し、自社スタジオをもつスペシャリスト集団。学生を対象としたワークショップも実施していて、教育業界に対する想いという点でも共通点がたくさんあります。代表の王昌宇さんは私と同様に学生起業家で歳も近い。起業家仲間としても刺激を与えあっていける存在です。いつもていねいな仕事をしてくれ、かつむちゃな注文に応えてくれてありがとう、と感謝したいですね。
地域社会について
私は、東京都墨田区に生まれ育っているのですが、ご縁をいただき、起業家や技術革新を起こす人材の育成を目的に墨田区で2020年に開学した情報経営イノベーション専門職大学(IU)の客員教員をしています。墨田区の教育の力を盛り上げるというミッションに賛同し、開校前からご支援をさせていただいているのですが、設立準備室の室長さんが3rd classを視察してくれるなど、我々の教育に対する理解度が高い。私もIUがやっている教育に共感する部分が多く、3rd classの講師がIUの教員を務めたり、IUの学生が当社にインターシップに来たり、強いパートナーシップを結んでいます。
IUには優秀な学生を送り込んでいただくことへの感謝とともに、地元とのつながりをより深めていってもらえるよう、墨田区民としても期待していますし、私自身も惜しまず協力していきたいと思っています。
地球環境について
株式会社ワールドスキャンプロジェクトさんと共同で「ドローンで学ぶSDGs講座」を制作し、SDGs教育を推進すればするほど、地球を守り、環境と共存する子どもたちを育てることの必要性を認識するようになりました。授業もそういう想いを込めて行っています。また、個人的に「SDGs de地方創生」というカードゲームの公認ファシリテータ―の資格をもっており、現状ではあまり活用できていないのですが、地方創生も含めてさまざまなアプローチでSDGsを普及する活動をしていきたいと考えています。
金融機関について
墨田区に本店を置く東京東信用金庫さんがメインバンクです。7年前に押上支店で口座を開設して以来、安心してお金を預ける金融機関として信頼しておつきあいさせていただいています。日本政策金融公庫さんには融資でお世話になり、感謝していますが、地域とのつながりを重視する意味で、今後の融資も含めて東京東信用金庫さんとのつながりを強めていきたいですね。
また、第一勧業信用組合の目黒支店さんとは、アクセラレータープログラムのメンターのご依頼を受けたことがあり、担当の伊藤さんとも良好な関係を築いていました。今後も良いおつきあいをさせていただきたいです。
未来世代について
弊社のミッションは、良質な教育サービスを作り、学校現場や民間教育の課題を解決し、教育格差をなくすことです。今言われている教育格差は、育った家庭の環境やどんな学校に進学したかですが、これからの時代は「意志」の格差が大きくなると考えています。ポジティブな感情で、いろいろなものを許容し、新しいことに挑戦したい、やってみたいと思う意志をもつ。そのことが人生を豊かで幸せなものにしていくと思っています。
ですが、既存の学校教育では、意志を育てる方向にはなっておらず、反対に「これはやってはだめ」「あなたはこうしなさい」と生徒が自由な意志をもったり、自分の意見を口にしたりすることが閉ざされています。弊社では、その閉ざされた教育を変えていきながら、一人ひとりの個性を花開かせることを教育面から作っていくことに寄与し、未来世代を育てていきたい。「夢中な人で溢れる社会」の実現を目指していきます。
◎プロフィール
井上創太
株式会社BYD代表取締役/3rdclass主宰
情報経営イノベーション専門職大学 客員教員
一般社団法人グローバル教育研究所 認定講師
1991年生まれ。大学在学中に大手予備校のチューターとして活躍したのを皮切りに、学生対象のフリーシェアスペースの運営に携わり、起業家としての活動を開始。2015年に株式会社BYDを設立し、若い起業家志望者のためのスクール運営や学校教育機関へのコンサルティング、全国の学校での特別授業、企業研修などを通じて、「夢中な人で溢れる社会の実現」を目指している。
◎企業概要
株式会社BYD
https://byd.education/
〒111-0053 東京都台東区浅草橋5-2-3 鈴和ビル2階 パズル浅草橋
設立:2015年1月5日