「高専と社会の架け橋」になることをミッションに掲げるOLIENT TECH株式会社。その特徴は、日本の高専に焦点をあてた事業を展開している点です。
機械系や工学系を専門的に学ぶ高専生は、テクノロジーが必要不可欠となっている現代において評価され、大学への専門編入枠が用意されていたり、企業からの注目を集めています。
一方で、高専生は特有の課題を抱えていることはあまり知られていません。OLIENT TECHは、そんな高専の課題を解決するために高専生に学習機会を提供し、企業との接点を用意しています。
今回は、OLIENT TECHの代表の河野さんにお話を伺いました。
実はあまり知られていない高専生の境遇
私は山口県の徳山高専出身です。高専時代には宇宙太陽光発電の研究をし、京都大学でインターンをさせてもらいました。
憧れの研究を実際に経験できてワクワクした一方、期待値と違い少し困惑しました。基礎研究が中心で、社会実装までの距離が遠すぎると感じたのです。
そこで同じ宇宙関連の活動でもイーロン・マスクのように技術をベースとした経営の方が自分のやりたいことに近いと感じ、経営者を志して東京大学に編入しました。
しかし東大に入ると、今度は高専という環境がいかに面白かったかを改めて実感します。
高専の学生は皆技術が大好きで、技術に没頭することを楽しんでいます。
例えば趣味として放課後に、ロボットを自分で作ったりパソコンを一から組み立てたり、アマチュア無線の勉強をするような学生がゴロゴロいるんです。
大学に入ってから何をしたら良いのか悩む一般学生が多い中で、高専生は工学への情熱を持っていて、ユニークな人が多かったんです。
一方で高専生は、一般的には知られていない課題を多く抱えています。
専門科目は数学、物理、化学、生物などに加えて、ベクトル解析や流体力学といった高度な内容も含まれます。
さらに大学とほぼ同じ単位数を20歳で卒業するまでの5年間で習得しなければならないので、かなり圧縮されたカリキュラムをこなします。
定期試験では、10〜15科目を一気に受験することも珍しくありません。このカリキュラムに基づく徹底した基礎力と地道な演習の積み重ねが、高専人材が社会から高く評価される所以だと思います。
一方、高度な理系科目を勉強できる高専ならではの課題もあります。
まず、一般高校だと学習塾が勉強をサポートできますが、高専の勉強はあまりにも高度で難易度が高く、一般的な塾は基本的に指導ができません。
他にも、高専生は大学編入にあたり、偏差値も大学別の対策本「赤本」のようなものもないので、自分の成績でどの大学を受験すればいいのか、情報が圧倒的に不足しています。
高専側で大学と提携したサポートがあればよいのですが、熱心に支援している高専ばかりではありません。
また高専生の大学編入を指導する塾はほとんどないのが現状です。高専生特有の事情を理解している講師が少ないことに加え、高専の大半が地方にあるという立地の問題もあります。
つまり、わからないことがあっても、教えてくれる人が周りにほとんどいないんです。
また、これは高専に限った話ではないですが、学校で学ぶ学習が将来どのように活きるのか、というキャリア設計に基づく学習ができていない学生が多いとも感じています。
特に高専は「実学」を学ぶことができる学校だからこそ、今の勉強がどんな職業や業界に活用できるのか。何のために勉強をしているのか。
そういった「学習と社会の接続」や、「将来像」を見据える機会がもっと増えたら、学生の学習のモチベーションも高まると感じています。
さらに、高専人材が技術力の高さをもって「社会の課題解決」に取り組むことができる仕組みがあれば、高専はさらにユニークな教育機関になり、もっと盛り上がるのではないか、とも考えています。
学習支援に留まらず将来像を明確にする2つの事業
そこで2021年にOLIENT TECHを創業しました。事業の柱の1つが、オンライン学習塾「高専テクノゼミ」です。
全国の旧帝大を中心とした高専卒の大学生100人が講師を務めています。皆さん高専生時代の大変な経験を原体験として持っているため、モチベーション高く、高専生の苦労がよくわかっています。
高専生にとっては、わからないことを質問できる先輩講師は本当に心強い存在です。
高専の授業についていけず自信をなくしたり、単位取得の危機に直面したりする学生がいる中で、同じ高専出身の先輩から教わることで、やる気を維持できる学生が多くいます。
また大学編入を目指す上で、情報が少なく孤独に戦わざるを得ない高専生にとって、実際に志望校に合格した存在としても、先輩の存在が頼りになります。
現状、全国58校ある高専のうち53校の学生が、在籍または受講した実績があります。この高専テクノゼミから派生した、OLIENT TECHの事業のもう一つの柱が、実践教育プログラムです。
2023年に文部科学省の補助金を活用し開発した、高専生のための実践教育プログラムを提供しています。
高専生だけでなく高専卒の大学生や他大学の学生も参加可能で、延べ15高専と2大学から学生が集まっています。直近の春休みの開催では30名ほどが参加しました。
プログラムは1ヶ月間、オンラインを中心に提供しています。
例えばAIコースの場合Pythonの基礎からAIの実装まで学生主体で学び、週に1回、メンターとのオンラインミーティングを設け、質問や議論の機会を設けます。
最終的には、実際に会場に集まってプレゼンテーションを行ってもらいます。参加者にとっては、高専の授業では学べないAIやウェブ開発などの分野を実践的に学べる点が好評でした。
特にAIは学生の興味関心が非常に高いものの、高専で学ばない学生も多く、学生のニーズが高いのです。また、すでに技術力がある人材が、物流などの実社会の課題解決に挑戦できることも大変好評でした。
さらに、最先端の技術を実際に使ってキャリアを築いている先輩の姿を間近に見られることで、自分の将来像がイメージしやすくなったという声もありました。
2024年からは企業から協賛を募り、高専人材の育成や採用に興味関心がある企業様と、企業と高専人材が交流する場所を構築・提供しています。
ただ単純に人材と企業をマッチングするだけでなく、企業様から実際のビジネス課題を提供いただき高専生が解決したり、高専のカリキュラムで学ばない工学を学ぶ機会を提供することで、参加する学生が「実践的に成長すること」を重視しています。
今後夏休み・春休みに定期的に開催し、その輪を広げていきますが、2024年の夏はさらに参加人数と参加高専数を増やして開催する予定です。
また、高専生に限らず、大学生、高校生、将来的には中学生にも広げることで、工学や高専の面白さを広く伝えるようなイベントにできたらと考えています。
高専人材による最先端テクノロジーの社会実装
このようにOLIENT TECHでは高専生のスキルを伸ばす学習の機会を提供していますが、実際に身につけた能力を発揮するような場もあります。それが、デジタルパートナー事業です。
高専卒や東大生、現役高専生など、優秀な理系学生を集めて、企業の抱える課題解決に取り組むんです。AI開発やデータ分析など、最先端のテクノロジーを活用したプロジェクトを手がけています。
例えば再エネ関連の事例ではデジタルグリッド社と組んで、太陽光発電所と電力需要家をマッチングするプラットフォームを開発しました。
不動産情報サイトの「SUUMO」のような仕組みを太陽光発電の売買に応用しています。他にも、物流関連の案件も手掛けていて、倉庫業務のDXを支援するプロジェクトもあります。
特徴としては、AIをはじめとする最新の技術力の高さに加え、スタートアップならではのスピード感を評価いただいています。
さらに若いチームならではのフレッシュなアイデアと高い技術力にも定評があります。
何より私たちのメンバーは、大学や高専での学びを実践の場で存分に発揮できることに喜びを感じて仕事に取り組んでいるんです。
会社には現在130人以上の学生が集まっていて、おそらく日本で一番、優秀な理系学生が集まっているコミュニティの一つだと自負しています。
一般的に文系出身者がリーダーになることが多いと思われがちですが、私たちのようなエンジニア集団もイノベーションを牽引する存在になれると信じています。
大企業にとっては、社内の若手エンジニアだけでは実現が難しい新規事業を、私たちのような若いチームと一緒に作っていくことで、イノベーションを加速できます。
現在クライアントとなる企業も成長中のベンチャーから大企業まで幅広くいます。
最先端の、東大の研究室発の技術を使って、会社の課題を解決したり新規事業を試したいという企業様には、ぜひ力になれると思います。
ご紹介した事業を通じて、高専生の持つ可能性を最大限に引き出し、社会課題の解決に生かせるよう、今後も「高専と社会の橋渡し役」になることを目指して取り組んでいきます。
(取材:加藤俊 / 構成:飯田雄介)
◎企業概要
OLIENT TECH株式会社
https://olienttech.com
代表者:河野朋基
所在地:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町4丁目3−11DK共同ビル 6F
設立:2021年7月