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第一勧業信用組合

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持続可能な社会づくりに貢献する金融の在り方とは?第一勧業信用組合理事長新田信行

ステークホルダーVOICE 経営インタビュー
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第一勧業信用組合理事長新田信行

2020年猛威を振るっているコロナ禍。アフリカでは、サバクトビバッタの大群が食料を荒らしまわるなど、気候変動から地球規模で災害が頻発している。もはやグローバル・バリュー・チェーンを組むことがリスクにもなり得る時代となった。

はたして、アフターコロナの時代に企業活動はいかなる変化を遂げるのか。利益性を過度に追及するのではなく、持続性を求める定常経済が一定レベルで見直されることは予想される。地域との結びつき、人と人との信頼をより強固にすることで、企業は災害にも負けない、強くしなやかなバリュー・チェーンを築くことを重視するようになるはずだ。同時に、社会の劇的な変化に伴い、組織の在り方も改めなくてはならない局面に差し掛かるだろう。

そんな中、未来を先取りしたかのように、職員一人一人の個性を大切にしながら地域社会に貢献する公益性の高い金融機関がある。第一勧業信用組合だ。

同信組はどのような姿を目指し、職員や組合員などのステークホルダーと向き合っているのか。理事長の新田信行さんと、連携企画推進部部長の篠崎研一さんにお話を伺った。

 

利益ではなく、価値を大切にする金融を目指す

第一勧業信用組合新田信行理事長

―コロナウィルス禍の大変な状況の中、インタビューをお受けいただき、ありがとうございます。

新田理事長(以下、新田):地域の経営者達の逼迫した状況が続いています。ここまで劇的に世の中が変わってしまった中、今だからこそ地域を守る金融機関としての責任を果たさなければなりません。職員たちには、困っている企業経営者を徹底的に支えるんだと伝えています。

 

―地域を守る金融機関とのことですが、信用組合とは銀行とどう違うのですか。

新田:私たちは株式会社ではなく、協同組織金融機関です。公益性が求められつつ株主の利益を優先させる経済的な金融機関とは異なり、“相互扶助”の理念に基づき、組合員の皆さまの経済的地位の向上を一番の目的とする社会的な金融機関です。

アメリカには約6,500ものクレジットユニオン(協同組織金融機関)があります。そのスローガンは、「Not for Profit, Not for Charity, but for Service」で、利益目的ではなく、慈善事業でもないけれど、組合員や社会のためになるサービスを提供するということです。

第一勧業信用組合では3つの基本方針を定めています。1つ目は、「人とコミュニティの金融」を実施すること。物やお金ではなく、人と人との信頼関係がベースになるということです。そして2つ目と3つ目は「育てる金融」で未来を創造する、「志の連携」で社会に貢献するとしていますが、これらは私たちが開かれた未来志向の金融機関であることを表しています。さまざまな人たちと連携することにより、社会を良くしていく。それが、共通価値の創造につながっていくのです。

私たちは2018年9月に、日本の協同組織金融機関で初めてSDGs宣言をしました。「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現に向け、金融という手段をもって価値をつくっていこうとしています。金融商品を売るためにお客様を訪ねるのではなく、お客様に寄り添い、強みや課題を聞いた上で自分たちが力になれることを探す。そうすることで、利益の追求ではなく社会課題の解決を重視する金融が実現できると考えています。

 

原点に立ち返り存在目的を考えることで、未来を創る第一歩が踏み出せる

第一勧業信用組合新田信行理事長(2)

―現在は社会の変化に伴い、組織の在り方が見直される傾向にあります。

新田:日本社会が、高度成長期から成熟社会に変化する中で、「量」から「質」の時代、「金」「物」から「人」が重視される時代になりました。人には個性がありますから、お客様に質の高いサービスを提供するためには、提供する側の人も個性を出して対応しなくてはなりません。誰にでも同じように対応していては、お客様の満足度は下がってしまいます。そうならないように、一人一人の個性を尊重する組織づくりが必要です。

職員をマニュアルで縛り、商品の販売ノルマを課すような従来型の金融機関からは、お客様も離れていってしまいます。第一勧業信用組合は「地域とのふれあいを大切にし、皆さまの幸せに貢献いたします」を経営理念としています。そのため、お客様一人ひとりに合わせた対応をしなければなりません。組合員の皆様の幸せに貢献するためにも、職員の個性を活かす組織に変えていく必要があるのです。

 

―第一勧業信用組合が組織の在り方を見直した経緯を教えてください。

新田:バブル経済の崩壊やリーマンショックなどの経済危機を経験したことで、協同組織金融機関本来の姿を考えるようになりました。過去を振り返るというより、まずはしっかり原点を見て、そこから自分たちの未来を考えていこうとしたのです。

私たちは、預金を集めて貸し出すことだけを目的とした組織だったのだろうか。そうではなく、「組合員の幸せ」が私たちの目的です。そのために、必要なお金を融資しているのです。一度原点回帰してからは、第二創業として全く新しい金融機関をつくることにしました。本来の協同組織金融機関である自分たちを取り戻し、未来を創っていこうと考えたのです。

 

―一度原点回帰をするからこそ、未来が見えてくるのですね。

新田:その通りです。私は、日本が本来の姿を取り戻して未来を創っていくためには、原点回帰が必要だと思います。言い換えると、「why」を考えるべきですね。いろいろなものがお金儲けのための「how to」になっていますが、それを続けている限り日本はいつまで経っても失われた何年から抜け出せません。how toではなく、もう一歩下がったwhyを考えることが必要です。

自分たちの存在意義は何かというコア・パーパスまで踏み込んで考えられると、そこから新しい価値観が生まれます。自分たちの存在目的まできちんと掘り下げることができれば、お金儲けではなく末長い価値の提供ができ、会社が持続的に繁栄していくと思います。

 

第一勧業信用組合のステークホルダーとの向き合い方

第一勧業信用組合のステークホルダーとの向き合い方

―各ステークホルダーとの向き合い方について、お聞きしたいと思います。まずは、組合員との向き合い方について教えてください。

新田:株式会社銀行でいう株主や預金者、貸出先は、私たちの場合組合員です。だからこそ私たちは、組合員とともに繁栄していかなければなりません。

地域社会と積極的に関わることが私たちの大切な仕事であり、私たちもまた「地域の一部」なのだ、という意識を持っています。例えば地元のお祭りに参加してみこしを担いだり、町内のゴミ拾いをしたりすること自体が「私たちの本業」なのです。

以前の第一勧業信用組合は地域のイベントにほとんど参加できていませんでした。しかし昨年数えたところ、私が来てからは650を超えるお祭りやイベントに参加していたのです。町内会の方々と近しい距離で触れ合い、寧ろ同化することで、一人ひとりが今何に困り、何を必要としているのかを肌で感じ取ることができます。

地域のお祭りの写真

第一勧業信用組合職員の方たちが参加している地域のお祭りの写真

実際に距離が近づき、組合員の方たちが色々な悩みを打ち明けてくれるようになっています。このように人と人との信頼に基づく関係性を深め、持続させていくことが、私たちのような金融にとって最も大切なことなんです。

理事長へのインタビュー風景

―確かに、第一勧信さんは他の金融機関と違いよく連絡をくれます。「ステークホルダーメディアGURULI」を運営する当社Saccoも第一勧信さんの組合員としてお世話になっています。本当にありがとうございます。

創業期の当社は、学生と企業とが一緒にコラボするイベント企画事業をメインにしていました。「ミンスタ」というサービスで、企業から課題を出してもらい、その課題解決に学生がチャレンジするというサービスなのですが、ボクの経営がポンコツだったこともあり、社員を上手く扱えなかったこと、提携会社との提携失敗、本業のイベントも多くの案件で想定よりも多くの工数がかかり、利益率が悪く、キャッシュフローに苦しんだ時期がありました。そうしたタイミングで第一勧信さんの千駄ヶ谷支店を紹介してもらい、融資をしていただいたことでなんとか生き残れたんです。あの時、当時の千駄ヶ谷支店の支店長に「いい事業ですね。頑張ってくださいね」とかけてもらった言葉が忘れられません。日本再興の鍵を探すことをテーマにした「BIGLIFE21」 についても長年助けていただき、いくら感謝してもしきれないです。本当にありがとうございました。

 

新田:組合員の方が本業に専念できる環境を支援することが私たちの役目でもありますから、それはよかったです。

 

―一人ひとりの職員第一勧業信用組合で働く職員との向き合い方は、いかがでしょうか。

新田:職員が幸せでなければ、組合員を幸せにすることは不可能です。従業員満足度なくして、お客様満足度はありません。私はいつも、職員との絆なくしてお客様との絆はできないと言っています。つまり、私たちの関係性資本のベースとなるのは、まず職員の幸せなのです。それを前提とした上で組合員の幸せ、さらにそこから地域の繁栄やまちづくりというように広がっていきます。

そのため、職員の個性を尊重し多様性を大事にするチームづくりを意識しています。例えば、私は組織の中で理事長と呼ばれることを嫌い、どの職員からも「さん」付けで呼んでもらっています。私は理事長という名前ではないので、個性を尊重してもらうために名前で呼んでもらうのです。

確かに役職は様々ありますが、担う役割がそれぞれ異なるだけで、本来職員は皆対等なんです。人間の体では心臓と肺のどちらが偉いかと考えるのが無駄であるように、職員の役割間にも優劣があるはずがない。私もたまたま理事長という役割を担っているだけで、他の職員より自分が偉いとは思っていません。それぞれの役割を尊重し、多様性を重視するチームをつくりたいと考えています。

篠崎部長

篠崎部長(以下、篠崎):以前は、上から指示する昔ながらの組織という印象が強かったのですが、現在は職員一人ひとりが前向きに活動できるよう支援を進めています。職員それぞれが成長して今までできなかったことができるようになると、それまでより広い視野で物事を考えられるようになる。そのような組織を目指しています。

 

―連携先との向き合い方について、意識していることや具体的な事例があれば教えてください。

新田:私たちだけで未来を創ることは、不可能です。そのため第一勧業信用組合は、2020年3月時点で100程度の連携先とつながっています。志を同じくする全国の金融機関や行政機関、大学をはじめとする教育機関や一般事業会社などと幅広く連携しているのです。

どのような連携先であっても、私たちは対等だと思っています。対等な目線で対話をすることで、一緒に未来を創っていきましょうという共感が生まれるのです。持続可能性というのは、共感が広ければ広いほど安定します。だからこそ一生懸命連携して、できるだけ多くの人といろいろな形で共感を広げていきたいと思っているのです。

 

篠崎:例えば株式会社eumoとは、共感資本社会の実現や地域社会・産業界・ソーシャルビジネスの発展に取り組むため、2018年から連携しています。2019年からはSVC(ソーシャルベンチャー活動支援者会議)という全国組織の一員として、会社や事業者の支援を行っています。

また、藍澤証券株式会社とは2017年に包括的業務提携を締結し、ともに地域活性化への貢献を目指しています。それぞれが持つノウハウやネットワークを活かすため、人事交流や産学連携を進めてきました。証券会社と信用組合の包括的業務提携は日本で初めての試みでしたが、想いが同じであるからこそ、互いに高め合って未来を創っていけると感じています。

篠崎部長(2)

さらに、金融機関との取り組みとして2018年にJPBV(The Japanese Practitioners for Banking on Values)を設立し、2020年に一般社団法人化しました。

2018年7月、私たちは日本で初めて持続可能な経済・社会・環境の発展を目指す国際的な金融機関ネットワークGABV(The Global Alliance for Banking on Values)に加盟が認められました。そして、「利益よりも持続可能な社会の創造という価値を重視する」GABVの考え方を日本の金融機関にも広めるため、JPBVを発足したのです。2020年2月時点で約30の金融機関が加盟しており、2カ月に1度定例会を行っています。日本では価値を大切にする金融を実践している金融機関がまだ少ないので、私たちが先頭に立って考え方を普及していきたいと思います。

 

地域に貢献する“良い組織”の活動

新田理事長の横顔

―新田さんがステークホルダー資本主義を体現していると感じる“いい組織”を教えてください。

新田:秋田県信用組合やいわき信用組合、糸魚川信用組合は特に素晴らしい金融機関です。地域を支える彼らがいなければ、地方創生はできません。

2016年12月に糸魚川市で大規模火災が発生したとき、糸魚川市長と並んで先頭に立ち復興を進めたのは、糸魚川信用組合の理事長です。地元に根差した地域金融機関として、全力で再興に貢献するのが自分たちの仕事だと考え行動していました。そのような素晴らしい金融機関は、地方に多くあります。

 

全国のどこよりも先細り傾向にある秋田県の地域経済を活性させるために、秋田県信用組合では取引先への新規事業の提案を積極的に行っています。田舎ベンチャービジネスクラブを立ち上げ、ニンニクやどじょうの産地化とブランド化を支援した結果、黒字転換という結果も出すなど、金融機関としての本分とはかくあるべきと教えられました。

 

また、東日本大震災が起きた際に、『まだたくさんの住民が残っている。避難する人もお金が必要だ。業務をストップするわけにはいかない』と残った職員で全店のシャッターを開け続けた、いわき信用組合には、自分たちが地域のセーフティーネットを担っている存在だという「金融機関としての矜持」を改めて教わりました。身元確認ができれば保証人がいらない融資サービスを震災後数日から開始し、津波ですべてを失った人たちに30万円以内、金利1%、1年間据え置きでお金を貸し出しています。いわき信用組合の江尻次郎理事長曰く、「全額回収にならなくても困っている人のためにやる、それが我々の想い」とのことでしたが、驚くべきことに2年ほどで全額回収となったのです。地域との信頼の深さを感じさせるエピソードです。

 

一般事業会社であれば、株式会社オマツリジャパンはおもしろい活動をしています。まだ起業して間もない頃に、私たちは出資しました。そこからオマツリジャパンはお祭りに関わる人や地域、企業を豊かにして地域活性化に貢献するべく、お祭り専門会社として頑張っています。今日では様々なメディアに取り上げられているのを見ると、嬉しく思いますね。

私は都内でお祭りを運営している町会長さんや商店街長さんと付き合いがあるので、オマツリジャパン代表取締役の加藤優子さんに知っている方々を紹介しました。そこで加藤さんは地域のお祭りに関する悩みを引き出し、自分たちにできることはないか相談をしていました。

 

また、READYFOR株式会社も素晴らしい会社です。「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」をビジョンとし、想いに共感した人や活動を応援したいと思ってくれる人から資金を募る、クラウドファンディング事業を展開しています。サービスを通して、途上国支援や商品開発など持続可能な未来に向けて活動している会社だと思います。

自らが価値を大切にする金融を実践するとともに、その考え方を日本に広めていく先駆者としての役割も果たしている第一勧業信用組合。時代の変化により転換期を迎えている日本の金融機関に変革を促し、お金という手段によって持続可能な発展をもたらすため精力的に活動を続けている。

一般事業会社にとっても、自分たちの在り方を見つめ直す原点回帰は必要不可欠だ。自分たちの利益を何よりも重視する組織からは、人が離れていく。組織を末長く繁栄させるためにも、一度立ち止まって組織の在り方を考えなければならない。ステークホルダーとの向き合い方を見直し、地域のさらなる繁栄を願って活動する第一勧業信用組合のような組織が増えることを願ってやまない。

新田理事長の正面からの写真

新田信行(にった・のぶゆき)氏

1956年 千葉県生まれ。

1981年 一橋大学卒業。第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。

2013年 第一勧業信用組合理事長。

第一勧業信用組合

〒160-0004 東京都新宿区四谷2-13

TEL 03-3358-0811

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