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イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ!なぜ扇風機にラジオがつかなかったのか…

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imadoki 6

もう、「明けた」といっていいものだろうか。
もちろん年は明けた。ワタシが言ってるのは、コロナのことだ。

新型コロナウイルスこと「COVID19」の被害はまだ続いている。新たなオミクロンの変異株「JN.1」が勢力を増しており、直近では患者が増え続けているようだ。

愛知県の大村知事は、愛知県には10波が到来していると宣言した。

10波が来たとしても、5類扱いとなったコロナがまた2類に引き上げられる可能性はゼロではないものの、少ない。ただ国によっては渡航制限が加わる可能性はありそうだ。

ただでさえ不安定な国際情勢が続いている昨今の地球である。さらにはすべからく温室効果ガス削減に取り組まなければならない状況にある人類においては、ますます海外に出るハードルが上がっていくのであろうと不安視するのはワタシだけではないだろう。

でも海外には行くべきである。そこでしか体験できないことや発想に触れられるからだ。直線的でリニアな発想をしがちな日本人にはない「刺激サプリ」が、海外にはある。

初めて海外に出たのは30年以上前だった。

当時勤めていた会社の社長が「今期は結構利益が出たので、税金を取られる前に社員旅行に行ってもらおう。

行き先を考えてきてくれ」と、豪勢なことを言ったので、どこか脱税の片棒を担ぐような後ろめたさを感じながら、予算枠内で一番遠かったところに決めた。タイという南の国だった。

確かバンコクと郊外のパタヤにそれぞれ2泊ずつしたと思う。当時のバンコクの街中は人とクルマが混在する、1960年代から70年にかけての日本のような状況だった。

繁華街の中心部にはようやく24時間のスーパーができ始めた頃で、街には旺盛な購買欲が蔓延していた。

とくに元気があったのが、家電ショップ。当時のタイは扇風機が「来ていた」ようで、どの店も目立つところを扇風機が占拠していた。

形は日本で売られている扇風機と変わりはなかった。暑さの本場のタイだから、やたら羽根が多いとか、巨大だとかはなく(当たり前である)、日本のものと同程度の大きさ、仕様のものが並んでいた。

ただ一つだけ違っていたのは、スイッチ部分にラジオのチューナー部がついていたことだった。

そう、ラジオ付き扇風機なのだ。物珍しげに見ていたら、店員さんがしきりに「ナンバーワン」を繰り返して、一生懸命勧めてくれた。

タイ語は全く分からなかったが、ラジオ付きはタイじゅうのトレンドだったことは分かった。

ショックだった。なぜなら日本では当時もうクーラーとかエアコンの時代に入っていたが、ラジオ付き扇風機などついぞ聞いたことがなかったからだ。

ラジオ付き扇風機が生まれていたら、おそらくワタシは飛びついていただろう。

心地良い風ともにハワイアンな音楽がFMから流れてきたら、ハワイなんてもう二度と行かなくていいと思うだろう(行ったことはないが)。きっと。

そして次に頭に浮んだのは、なぜ日本の扇風機史にラジオ付きが誕生しなかったか、ということである。なぜタイで実現できて、日本ではできなかったのか――。

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日本はダントツの「経済複雑性」国

日本のラジオがデリケート過ぎて扇風機に組み込めない。

あるいは逆に、扇風機がデリケート過ぎてラジオが組み込めないということなのか――。技術的な事情はわからないが、きっとそんなことは無いはずだ。

「そもそも扇風機にラジオなんてキワモノだ」と一笑に付すエンジニアの方もいるだろう。でもそういうニーズがきっとあったであろうに、作り出せなかったのは事実だ。

これだけモノづくりメーカーがひしめいている日本で、少なくとも当時その発想はなかった(この数年ほどはスタートアップ系ガジェットメーカーがつくったものを見かけたりするが…)。

日本のものづくりのレベルは高い。品質の高さときめ細やかさは言うまでもなく、コスト削減の地道な努力は他に類を見ない。

トヨタのKAIZENは、世界共通語になって久しい。ちなみにGAFAMの一角を占めるAMAZONは、トヨタのKAIZENに出会ってから急激に事業を伸ばしている。

産業のコメと言われる半導体製造では、完成品こそ韓国、台湾、米の後塵を拝しているが、その長いサプライチェーンのなかでは、日本のメーカーが存在しないと製造出来ない工程がいくつも連なる。

その半導体チップをつくる産業用ロボットは日本のお家芸でもある。

実は日本は産業のコメならぬ、さまざまな産業の“塩”や“麦”、“だし”“じゃがいも”などの宝庫なのである。その種類の多さは世界に類をみない。

もちろん、ワタシが言っているのではないない。
「経済複雑性指標(ECI)」という言葉を諸兄・諸姉はご存じだろうか。

ECIはMITメディアラボのセザー・ヒダルゴなる人物と、ハーバード大学ケネディスクールのリカルド・ハウスマンなる人物により提唱された指標で、要は1つの国がいかに多品種で希少性の高いモノを輸出しているかの目安である。

ヒダルゴらは、指標を提唱しただけでなく、毎年世界各国を勝手にランキングしている。

そのランキングで日本は、2000年からずっと1位となっているのだ。GDPのような超メジャーな指標ではないので、「それが何か?」と木で鼻をくくるような反応をする諸兄・諸姉もいるだろう。

ま、言い換えると日本は多様な材料がありながら、料理の幅がせますぎるため、その材料を生かしきれていない。

あるいは多品種少ロットの製品群をつくるノウハウがあって、実際つくっているのだけど、そのポーションが小さいためにあまり評価されていない、といったことが言えるとワタシは思う。

イノベーションを称賛しすぎな日本人

ランキング1位は誇らしいことだが、それが経済力に十分反映されていないんじゃないかと思ってしまう。

もっと言えば、識者が口を極めて「イノベーション」を言い募る割に生まれていないのは、根本的なはき違いをしているからではないか。

思うに「お客さまは神様」という商売哲学を字句通り受け取り、ひたすら顧客やクライアントの要望に応えてきたからこそ、経済複雑性ナンバーワンとなったのではないか。

他方「こんな組み合わせはどうか」といった柔軟な発想が生まれにくい環境(あったとしても言い出しにくい)が、ラジオ付き扇風機を生めなかった背景にあるのではないか。

ワタシの灰色の脳は問いかけるのである。
どうも、日本人はイノベーションを崇高に捉えすぎているフシがある。

イノベーションの提唱者、ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションの種類として、①新しい財貨の生産、②新しい生産方法の導入、③新しい販路の開拓、④原料の新しい供給源の獲得、⑤新しい組織の実現の5つを挙げているが、よくよく考えればどれもそれほど難しいことではない。

難易度が高いのは②くらいで、それだって新しいソフトやアプリを導入すればできてしまう。

メーカーなら機械を導入すれば可能だ。もちろん先立つものが必要になるが、今ならリースやサブスクリプション、クラウドファンディングなど手法はある。

シュンペーターは具体的に「こうすればイノベーションが生まれる」とは言っていないが、後世の賢者たちがその手法を生み出し続けている。

組み合わせよ、さもなくば……

ワタシはもっとも簡単なイノベーション手法は、「組み合わせること」だと思っている。

扇風機とラジオはその典型だが、別に組み合わせるものは3つでも4つでもいいし、同じレイヤーやセクターでなくてもいい。なるべく“遠い”ほうが化学反応を起こしやすい。

最近みかける「異色コラボ」はその1つだろう。もちろん化学反応が起きたからといって、それがすべからく人口に膾炙すると思ってはいけない。当然である。

時間軸も重要となる。別に“今”と“今”でなくてもいい。過去に出ていたものに今の素材を組み合わせてもいい。

素材や製品の組み合わせだけでなく、素材と技術、素材と技能者の組み合わせでもいい。よく言われる睡眠特許の活用などは、この時間軸を意識した組み合わせでもある。

ものすごい数の組み合わせもある。

たとえば森ビルという会社は、六本木や麻布などの都心にバンバンでかいビルを建てている日本を代表するデベロッパーだが、森ビルの発想は都心の小さな土地を集め、1つの大きな区画にして高層ビルを建てることだ。

その作業は地味なもので、一帯の地権者や商工業者のもとに何度も足を運んで、1つ1つ売ってもらって六本木ヒルズや麻布台ヒルズなどの「街」を創出している。

先に完成した麻布台ヒルズは30年もの時間をかけて地権者を説得したという。その意味では森ビルは日本を代表するイノベーターと言っていいだろう。

いまや異色コラボが花盛り

ちなみにであるが、かつてワタシもコラボ系のイノベーションを某カーメーカーや某ホテルチェーンに提案したことがあるが、時期尚早だったようで、相手が「ちょっと何言ってんだかわからない」とサンドイッチマンの決め台詞のような顔をして終わっている。

ちなみにちなみにであるが、その内容をちょっとだけ話すと、全社が各ディーラーとコーヒーチェーンとのコラボ、後者が家電メーカーとの照明やベッド、インテリアづくりでのコラボだ。

約20年くらい前の話なので、まさに時期尚早だったのだと思う。

だっていまやカーディーラーでは、カフェとコラボのほか本屋、花屋などさまざまなコラボが実現しているし、ホテルでは、寝具、ベッドはもとより、食品メーカー、飲料メーカー、アニメキャラとのコラボは当たり前で、いまやコラボルームが常設化しているホテルチェーンも多い。

少しずつではあるが、各産業の「ラジオ扇風機化」が進んでいるようで、ワタシとしては、嬉しい。っていうかワタシの話に真摯に向き合えって! 意外とちゃんとしたことを言ってるんだから!!

「なぜ1番なんですか?2番じゃだめなんですか」とは、かつての某大臣の名質問だが、ものづくりにおいてはやはり2番じゃだめだと思う。

ただその物差しが1つだけというのはマズイ。進化の方向性が1つだけでは、世界のトレンドが急変化したときに集団で放り出されてしまうからだ。

複数の楽しさや美しさ、あるいはくだらなさ、バカバカしさという物差しがあってもいいはずだ。

その数多の物差しを使って、どんどん組み合わせを考えよう。大丈夫、日本は世界に類をみない産業の素材の宝庫なのだから。

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

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ライター:

フリーランス歴30年。ビジネス雑誌、教育雑誌などを中心に取材執筆を重ねてる。小学生から90代の人生の大先輩まで取材者数約4,500人。企業トップは500人以上。最近はイラストも描いている。座右の銘「地の塩」。

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