外国人留学生に向けた進路イベントで国内最大級のイベントに潜入レポート。
ヒカリエに集まる1万人の留学生
6月4日、渋谷ヒカリエの周辺に多くの外国人留学生が集まっていた。
4日と5日の二日間にかけて延べ1万人の外国人留学生が参加する「アクセス日本留学フェア」という進路イベントの来場者たちだ。本イベントは、「2024外国人学生のための進学説明会」と銘打たれ、外国人留学生の進路イベントでは、日本最大規模のイベント。
実際にヒカリエホールの会場は参加者達の熱気で、人いきれに包まれていた。
この日の出展ブースの数は139。出展教育機関数は、226機関。大学院や大学、短大、専門職大学、職業能力開発校など多岐にわたる。参加した日本語学校の教員は、アクセス日本留学フェアの特徴を「大学の出展数が他のイベントに比べて多い」ことをあげる。約1万人の留学生たちは、日本語学校に通っている学生が過半数を占める。
多くの学生が教員に引率される形でイベントに参加しているようだ。ちなみに、日本語教育機関(法務省告示校)は2023年末時点で全国に(※)839校あり、90,719人が学んでいるという。
※独立行政法人日本学生支援機構(以下、JASSO)「2023(令和5)年度外国人留学生在籍状況調査結果」
「今日は80名の学生を連れてきた」と語る日本語学校の教員に、どういった進路が人気なのかを聞くと、今回は自動車の専門学校との回答。これは、事前に学生間の口コミで安定してお金が稼げる就職先などの噂が広がり人気がでた模様だ。
自動車の専門学校の場合は、卒業した先に、自動車メーカーの工員や整備士としての就職に就く者が多いことが理由のようだ。
実際、中国の留学生に話を聞くと、最初から決め打ちで回る先を決めていた。
「今日は日本大学と関西大学の2校を見たくて来た。1校あたり15分ぐらいの説明を聞かせてもらいました。留学生にとって有益なイベントです。人が多すぎて忙しくなりそうだけど笑」(中国人留学生)
ただ、進学先を決めていない学生も多かった。なかには「ブースを回ってフィーリングで決めたい」という学生も。3人組の留学生グループは、13時の段階で「3校を回った」と語ってくれた。
「面談者が丁寧に説明してくれ、学校の魅力が伝わってきた」(3人組の留学生)。
留学生の獲得が最重要な時代に
JASSOが実施している「外国人留学生在籍状況調査」によると、2023年5月1日現在の外国人留学生数は279,274人(対前年度比48,128人増)。留学生数の多い国・地域は、中国115,493人、ネパール37,878人、ベトナム36,339人と続く。
実際に、ブースを出展していた愛知産業大学大学院の担当者に話を聞くと、「今日は現時点(14時)で、26名の学生と面談でき、多くが中国人の方」と語る。
興味を持ってくれた学生はいたかとの問いには、「当校は建築とデザインの大学院がある。中国の大学で建築を学んだ学生がいて、一定の手ごたえをもった」とのこと。
大学としてなぜ、本イベントに参加をするのかについては、「たくさんの学生と面談をして繋がりを持てればいいなと期待している。アクセスのイベントは、東京で最大のイベントだから」(愛知産業大学大学院担当者)。
これまで47カ国から7880名の留学生を受け入れてきた滋慶学園COMグループの担当者も、本イベントの他のイベントとの違いを「来場者数が一番多いイベント」であり、さまざまな国の留学生と触れ合えることが魅力と語る。
「今日は滋慶学園COMグループから9校がブースに出展している。午前中に約200名の留学生たちと面談をした。留学生の獲得は学校にとって極めて重要なこと。
人気なのはデザインやゲーム、アニメなどの学科。なかには、将来ペットショップを開きたいという学生や音楽での活動を目指しているという学生もいた」(滋慶学園COMグループ担当者)
学校や留学生に話を聞くことで感じたのは、留学生にとって就職しやすい分野と自分が好きで勉強したい分野に対する生徒の温度感の違いだ。また、日本語学校の教員によると、今年は、専門学校志望でもビジネス志望が減り、服飾や音楽関係などアート系が増えている傾向が伺えるようだ。
自分が興味を持つ分野の説明をまずは聞き、そのうえで、就職しやすい分野も回るという順序が多いように感じた。
イベントの盛況の背景、留学生40万人計画
イベントがこれほど盛況な背景には、政府の後押しがある。岸田政権は、現在、留学生40万人計画を掲げている。2023年3月の政府の教育未来創造会議で「2033年までに外国人留学生を40万人受け入れ、日本人留学生を50万人送り出す」ことが決められた。
「もともと、2008年に掲げられた留学生30万人計画を機に留学生の数は増えはじめ、アクセス日本留学フェアの参加者数も比例して増えていきました。その勢いは、政府が目標としていた2020年よりも1年ほど早く達成するほどでしたが、コロナ禍を機に、留学生の数は激減しました。
それが、政府の40万人計画も背景にあり、去年から今年にかけて復調してきている傾向が見えます」(運営会社アクセスネクステージ取締役 長谷川祐介氏)
この留学生40万人計画は、日本を世界により開かれた国とし、アジア、世界の間のヒト・モノ・カネ、情報の流れを拡大するグローバル戦略の一環として位置付けられている。
ただ、日本に来る留学生は、もともと、中国、韓国、台湾や漢字圏、アジア圏の学生が多かったようだが、この10数年でかなり変化しているようだ。
「近年はベトナムの学生が増えていました。それが、コロナ禍を経て減少傾向になっていますが、直近ではネパールの学生が急増し、ミャンマー、スリランカ、バングラデシュといった各国が続きます」(長谷川氏)
「コロナ禍以前は、いわゆる漢字圏、中国、韓国などの学生は大学志向が強く、一方、ネパールやベトナムといった非漢字圏の学生は比較的、専門学校の志向が強い印象がありました。
しかし、最近では、例えば母国の経済成長の影響か大学進学希望のベトナム人学生が増えているという声や、中国人学生の留学目的が多様化しているといった声も聞かれ、また、日本語学校から大学や専門学校に進学せずに就職を希望する学生も増加傾向にあるといったように、国籍に加えて進路選択の傾向も変化してきているように感じています」(長谷川氏)。
日本最大のイベントとなった理由
今日、これほど盛況となったアクセス日本留学フェアだが、イベントを開始した2009年頃は、出展学校数は20校程度、参加学生も数十人が集まる程度の小さなイベントだったという。
アクセスは、もともとは大学・専門学校とそこに進学したい高校生とをマッチングする場や媒体を提供するサービスを長年やってきた会社だ。それが、留学生30万人計画の発表と共に、大学・専門学校の学生募集意欲が高まり、今後の継続した留学生数増加も見込まれる中で留学生にも対応したサービスの展開を考えたのがスタートになっている。
ただ、当初はブース出展してもらう大学や専門学校などを営業して回っても、学校としても日本人学生の獲得が一番で外国人留学生の優先順位は低かったため、「苦戦した時期があった」と当時を知る執行役員の田中氏(アクセスグループ・ホールディングス)は語る。
「専門学校が先行して、留学生を積極的に受け入れていくことを考えてくれるようになりました。大学はこういったフェアは、当初はJASSOが実施するイベントにしかほぼ出ていない状態でした」
ただ、アクセスは自社のイベントとともに、2009年よりJASSOのイベントの運営も受託して開催している。その効果が「徐々にシナジーを持ち、機能していった」(田中氏)。
「始めはそれなりの苦労もありましたけれども、留学生を必要とする未来は予想できましたので、グループとしての方針、考え方もあって、開催を貫き通して大学を揃えるということに注力してきました。
そのおかげで、JASSO以外でこれだけ大学が揃うというのがアクセス日本留学フェアの特徴と言われるようになりました」(田中氏)
はたして、参加者が増えたブレークスルーのタイミングはどこだったのか?
「2014年にこのヒカリエの会場で開催できるようになったことが大きかったです。また、もともと外国人留学生だった当社の社員が日本語学校に対して、熱心に案内をして回り、学校に送迎のバスを用意するサポートなどを提供したことも参加者増に大きく貢献しています」(アクセスグループ・ホールディングス代表取締役社長 木村勇也氏)。
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イベントに参加して
株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。連載: 週刊エコノミスト 『SDGs最前線』 日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』