「モームリ」内部告発者の代理人となった弁護士が語る異常訴訟

弁護士YouTubeチャンネル「弁護士タケハラ退職代行ちゃんねる」で、10月24日嵩原安三郎弁護士が「退職代行モームリの内部告発を行った元従業員の代理人になった」と明かした。嵩原弁護士によれば、モームリを運営する株式会社アルバトロスは、弁護士法違反の疑いを告発した元社員2名に対し、2,200万円超の損害賠償請求訴訟を起こしている。
その訴訟内容を確認した嵩原氏は、「これは本当に賠償請求のための裁判なのか」と強い違和感を抱いたという。
「訴状には弁護士法違反に関する反論がまったく記されていません。問題視されているのは、配信中に『パワハラがあった』と発言した一点のみです。1回の発言に対して2,200万円というのは、金額としても目的としても異様です」
嵩原氏は、代理人就任当初「同業への対抗」と見られることを懸念し受任をためらったが、提示された資料を確認したうえで「もしこれが本物なら、極めてずさんで悪質」と判断し、告発者の支援を決意したという。
退職代行業界の“成長と歪み” 内部告発と家宅捜索が示す構造
「退職代行モームリ」は近年、テレビ番組や広告で若年層を中心に知名度を高め、業界最大手へと成長した。運営会社アルバトロスは、2022年創業からわずか3年で3万件超の退職代行を扱い、50人規模の従業員を抱える企業へと拡大した。
しかし、その裏で元従業員による内部告発が相次いだ。『週刊文春 電子版』(2025年4月16日配信)によれば、同社が退職希望者を弁護士に紹介し、その見返りとして報酬を受け取っていた疑いがある。
この行為が事実ならば、弁護士法第72条が禁じる「非弁行為」に該当する。
さらに10月22日には、警視庁がアルバトロス本社を弁護士法違反の疑いで家宅捜索した。TBS系「ゴゴスマ」に出演した国際弁護士・清原博氏も、「弁護士でない者が報酬目的で法律事務を扱えば違法。非弁行為には懲役刑や罰金刑が科される」と指摘した。
つまり、内部告発の指摘内容は、結果的に警察の捜査によって裏付けられつつある。にもかかわらず、いま訴えられているのは、その“告発者”自身である。
スラップ訴訟の構図 「真実よりも沈黙を求める裁判」
嵩原弁護士はこの裁判を「典型的なスラップ訴訟の構造」と分析する。スラップ訴訟とは、言論や内部告発を封じる目的で高額訴訟を起こし、個人に萎縮を与える行為を指す。訴訟の本質が真実の審理ではなく“発言撤回”にある場合、社会的にも大きな問題を孕む。
「弁護士法違反の事実が争われず、発言だけを問題にしている以上、裁判の狙いは“真実の隠蔽”ではないかと感じます。勇気を持って声を上げた人が不利になるなら、誰も内部告発などできなくなる」
嵩原氏はこうした構造を警戒し、今後、証拠資料の法廷提出を視野に入れる考えを示した。アルバトロス側が弁護士法違反の有無を正式に争点化するかどうかが、今後の裁判の焦点になるという。
問われる企業倫理 退職代行が社会に必要なら、なおさら透明に
アルバトロス社の谷本慎二代表は、これまで数々のメディア出演で「退職代行は、働く人を守るための社会的セーフティネット」「日本のコンプライアンス意識を高めるために必要な仕組み」といった趣旨の主張をしてきた。その理念自体は多くの共感を集めてきたが、もし今回の訴訟が内部告発者を萎縮させる目的であるならば、その企業倫理に重大な矛盾が生じるといえるのではないだろうか。
退職代行サービスは、時代の変化の中で一定の社会的必要性を持つ。しかし、自らの不祥事を指摘した社員に法的圧力をかける行為が許容されるなら、企業が掲げてきた「働く人を守る」という理念そのものが空洞化する。
コンプライアンス意識を再び整え、透明な説明責任を果たせるのか。アルバトロス社と「モームリ」というブランドが、社会的信頼を取り戻せるかが問われている。



