
世界の金融市場で「安全資産」として重視されてきた金が、いま大きく揺れている。米トランプ政権が打ち出した相互関税政策を受け、景気後退への懸念が高まる中、金先物価格は急落。ニューヨーク市場では3営業日連続で下落し、節目とされてきた1トロイオンス=3000ドルを割り込んだ。価格の変動は、長年にわたり信認されてきた金の「本質的価値」に再び注目を集めている。
NY金先物が3営業日連続で下落 関税政策とドル高が価格を直撃
【ソウル=聯合ニュース/編集部追記】
米トランプ政権が発表した相互関税政策により、世界経済の減速懸念が強まる中、安全資産とされてきた金の価格が急落している。ニューヨーク商品取引所の金先物6月限は3営業日連続で値を下げ、心理的節目とされる1トロイオンス=3000ドル(約44万円)をついに下回った。
金価格は先月14日、一時3000ドルを突破し、過去最高値を更新していたが、米国が主要貿易相手国に対して相互関税政策を公表したことを機に、金融市場では「リスク回避資産」としての金への資金流入が鈍化。投資家は利回りの高い資産へのシフトを強めており、金の需給環境に変化が生じている。
ドル高の進行も金価格にとって逆風となっている。金はドル建てで取引されるため、ドルが上昇すると相対的に割高感が生まれ、投資妙味が薄れる。加えて、長期金利の上昇により、金利を生まない金は相対的に魅力を失いやすい構造的な不利も抱えている。
韓国金取引所(ソウル)でも8日、現物市場において売り注文が相次ぎ、一部の小売価格は前週比で5%以上値下がりしたと聯合ニュースは報じている。
金が世界で選ばれ続ける理由 安全資産の「本質」とは何か
今回の金急落を受けて、改めて金がなぜ長年にわたり人々に信頼されてきたのか、その根本に立ち返る声もある。金が「安全資産」として選ばれる理由は、以下の複合的な要素に裏打ちされている。
- インフレや通貨安への防衛策
金は実物資産であり、紙幣や債券のような発行体の信用に依存しない。インフレや通貨安が進行する際に購買力の低下を防ぐ手段として、金が買われる傾向が強い。 - 政治・経済の不安定時に強い
戦争や金融危機、パンデミックなど、不確実性が高まる局面ではリスク回避のための「避難先」として金が注目される。株式や不動産が下落する中でも、金は相対的に価値を保ちやすい。 - 世界共通の価値を持つ
古代から貨幣や貴金属として価値を認められてきた金は、国家や通貨を超えて流通可能であり、経済制裁や金融封鎖下においても実質的な「通用通貨」として機能し得る。 - 供給量に限りがある
地中に存在する金の埋蔵量には限界があり、採掘・精錬には高いコストと時間がかかる。希少性がそのまま価値の裏付けとなっている。 - 長期投資に適している
金は利息や配当を生まないが、長期的には購買力の維持に貢献するとされる。特に各国の中央銀行が金融緩和や低金利政策を実施する際には、紙幣の価値に対する不安が金の需要を後押しする。 - 中央銀行による保有
アメリカ連邦準備制度、日本銀行、中国人民銀行など、各国の中央銀行が外貨準備の一部として金を保有している。これは金が「最終的な価値の担保」として信認されている証左ともいえる。 - 宝飾品・産業用途の需要
インドや中東では金が婚礼や祝事の贈答品として広く利用されているほか、電子部品や医療用途など産業分野でも安定した需要が存在する。 - ビットコインとの比較で再評価される価値
仮想通貨が注目される中でも、金はネットワークやインフラに依存しない実物資産としての強みを維持している。数千年の歴史に裏打ちされた信頼性、そして災害や金融封鎖の際でも物理的に価値を保持できる点が評価されている。
揺れる投資心理と今後の焦点
聯合ニュースの報道によると、ある投資家は「金は安全資産と言われてきたが、いまや過熱しすぎた市場の調整が始まっただけではないか」と語り、他のコモディティや債券への分散投資も検討しているという。
市場関係者の間では、今後の金価格の行方についても意見が割れている。中央銀行の動向やドル相場、さらには世界的な景気の先行きに応じて、金の需要は変動し得る。相場の調整局面が一時的なものか、構造的な転換点に差しかかっているのかを見極めるには、引き続き経済指標と地政学リスクの双方に注視が必要となる。
金価格の推移(主な年次の高値)
- 2020年8月:約2070ドル(新型コロナ禍)
- 2022年3月:約2050ドル(ウクライナ侵攻後)
- 2023年11月:約2150ドル(中東情勢不安)
- 2024年4月:約3000ドル(過去最高)
- 2025年4月:3000ドルを下回る(相互関税発表後)