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Climate Fresk(クライメート・フレスク)体験記 | #混ぜなきゃ危険

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北半球の観測史上最も暑い夏もようやく終わり、世界中で気候変動に対する具体的な対策実施を求める声が高まり続けている。今、すでに50カ国以上で開催され、100万人以上が体験している気候変動教育ワークショップ「Climate Fresk(クライメート・フレスク)」。ここ日本でも日に日に注目が高まっているのも当然と言えるだろう。

先日、筆者はこのワークショップを体験した。今回はClimate Freskの魅力を、個人的な感想や視点も交えて紹介する。

■ Climate Freskの基本情報

ワークショップの中身について紹介する前に、Climate Freskの成り立ちを簡単に紹介しておこう。
Climate Freskとは、通常は4-8名のグループで行う、フランス発祥の気候変動についての学習手法だ。気候変動の複雑な因果関係について、世界で最も信頼性が高いとされる気候変動レポート「IPCC評価報告書」を基に作成された42枚のカードを並べながら、ファシリテーターと共に最新の気候科学についての理解を深めていく体験講座で、どんなに短くても3時間ほどはかかるという。

一部ではオンラインでの実施も行われているようだが、筆者は「これをオンラインでやるのは相当難しいだろう」という感想を持った。また、筆者が参加したのは3時間を少々越えるものだったが、これくらいの時間は必要だろうと感じた。

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ファシリテーターのノリちゃ〜ん♪ ことヤナギノリコ氏。フランス系企業に勤務する傍ら、NGO/NPOの国際ボランティア団体でも精力的に活動中。Climate Freskの他にも生物多様性やSDGsワークショップなどのファシリテーションも行っている。

■ 楽しいけど脳みそはフラフラに!?

「『ゲームを通じて楽しく学べる』という説明をしているオンラインサイトやファシリテーターもいますが、私は『楽しくと言っても、笑い声が響き渡りみんなが笑顔になるタイプの楽しさではないですからね』とあらかじめお伝えしているんです。だって、扱っているテーマが全人類にとっての深刻な危機ですから。

ただし、思い込みが刷新されたり、新しい視点を得る喜びはたくさんあるので、そういう楽しさにはあふれていると思います。でも、終わったときには脳みそが疲れてフラフラかも(笑)。」——日本有数のClimate Freskファシリテーターのヤナギ ノリコさんは、ワークのオープニングでにこやかにそう話した。

さて、ここからはワーク本編の流れを追っていこう。

■ ワーク本編の流れ | 解説文を理解し42枚を並べる

基本情報のところで42枚のカードと書いたが、最初に参加者に渡されるのはそのうちの7枚。「化石燃料」や「CO2排出量」、「海氷の融解」など、多くの人が基本的なメカニズムが頭に浮かびやすい言葉と写真、グラフや絵が描かれている。
まずは肩慣らし。参加者みんなでそれぞれのカードの関係性を確認しながら、横長のボード(台紙)に並べていく。おそらくほとんどのチームが、ここまではさほどの問題を感じないだろう。

2回目に渡されるカード群は、最初のものよりも複雑な言葉や関係性を持ったものとなる。そしてここからは、カードの裏側に書かれている解説文を参加者が手分けして皆に読み上げ、内容を理解した上で8枚が並んだボードに加えていく。カードは必ずしも左から右へと1枚ずつ横に並ぶわけでもなく、縦横斜めの関係となっていくこともある。
問題なく順調にカードが並び終わることもあるだろうが、一部のカードに書かれた解説文の理解や置き場所について、グループ内で意見が割れることも少なからずあるだろう。そうした場合、ファシリテーターが、適切な追加解説やアドバイスをしてくれるので、グループでのディスカッションを深めていける。

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「森林伐採」「水循環の変動」「海洋酸性化」といった写真や絵、グラフが描かれたカードを並べてそれぞれのつながりを考えているところ。

その後3回目、4回目…と同様にワークを繰り返していき、42枚すべてを並べよう。完了したら、ボードに矢印を書き入れてカードの関係性を明確にし、さらに自分たちの感じたポイントなどをイラストや言葉で自由に書き加えていこう。
「皆さんの作品が美術館に並べられることを想像して、タイトルも書き入れてくださいね!」ヤナギさんの指示に応えたところで、ワークそのものは終了だ。なお、この作品が教会や修道院の壁に描かれたカラフルな壁画(フレスク画)のように見えることが、「クライメート・フレスク」という名前の由来だそうだ。

■ ワークの間に起こること

「これまで多数ワークショップをリードしてきましたけど、気候知識レベルと好奇心レベルがこれほど高いメンバーが揃っていたグループは初めてです!」ワーク中にそんな嬉しい褒め言葉を何度も伝えてくれたヤナギさん。
だが実際、今回の参加者7名はほぼ全員が株式会社メンバーズの「脱炭素DX研究所」の研究員であることを考えれば、興味分野や活動レベルにはバラツキがあるとはいえ、筆者を含め全員が「個人的興味と仕事上での関係」を気候変動に対して持つ者たちであり、実際そうだったのかもしれない。
しかしその一方で、知識量の多さは、ときに思い込みや勘違いを発生しやすくさせることもあるのだ。ワークの中で、参加者は随時それぞれのカードとそのつながり方を自分の言葉でみんなに説明していく。するとそこで、他の参加者から「いや、そこは少し違うのでは?」と疑問や提案が出てくるシーンが何度となく見られた。

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達成感。なかなか決めきれなかったタイトルは「la la la……」に。

ここで、今回のワークのおかげで修正された、筆者の長年の思い違いを2つほど紹介しよう。

まず1つ目、海氷の融解は海面上昇の原因ではないということ。コップの中の氷が溶けても水はあふれないことを考えれば理解しやすいだろう。
もう1つは、オゾンホールについてだ。1980年頃、フロンガスが大気圏のオゾン層を破壊していた。筆者は、これが地球温暖化にも関係していると思い込んでいたのだが、実際には有害な紫外線が入ってきてはしまうものの、地球温暖化への影響はほとんどないとされているようだ。

どちらも、科学的な思考を苦手としていた筆者ゆえに起きたことかもしれない。だが、同様の誤解や疑問の解消は他のメンバーにも起きていたようで、何度となく「そういうことだったのか…」とか「長年の疑問がいま解決しました!」という声が上がっていた。
そしてそれこそがこのワークの肝なのであろう。「コレクティブ・インテリジェンス(集合知・集団的知性)を大切にして、自分の知識をみんなに伝え、みんなの知識を自分のものにしていきましょう!」とヤナギさんがオープニングで語っていた意味が改めて理解できた気がした。
いまだ誤解や見ないフリ、あるいは懐疑的なスタンスがはびこる気候科学界隈。身近でありながら複雑で科学的な問題だからこそ、こうした人手を介した知識と知性のアップデートが重要なのではないかと感じた。

■ ワークの後に起きること

「本編以外は必ずしも決まったやり方というのがあるわけではないんです。企業向けに行うときは、自社のミッションや事業の在り方を気候変動と併せてどう変えていくかというセッションにつなげる時もありますし、気候変動対策のために社員一人ひとりがどう行動を変化させるかについてのグループワークを行うこともあります。

ただ、私が大事にしているのは、必ず自分自身の感情に向き合ってもらう時間を作ること。それから、そこで聞こえてくる内からの声を、声に出してグループに共有する時間を持つこと。この時間をしっかり持ちたいから、私は少なくともワークと併せて3時間は確保してもらうようにしています。」

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自分の感情を表す言葉を2つ見つけ、なぜその言葉なのかどんな背景があるのかを伝え合う参加者たち

ヤナギさんのこの意見に筆者は大賛成だ。毎回必ず起こることではないと思う。だが、私たちのグループでは、ヤナギさんが用意した感情マップと仲間の声に導かれるように、感情の共有が熱を帯びていった。筆者を含め、7人の気持ちはそれぞれ異なっていたものの、そこには、同じ事実を受け止めて、これから共に同じ時代を過ごしていくという仲間意識が目覚めていたと思う。

より主観的に説明すれば、筆者は、今回のワークを一緒に行った6人のメンバーが、これまでよりもすっかり好きになった。気候変動という人類の大問題の歴史を、一緒に駆け抜けてきた仲間のような…。そんな気分になった。これは筆者だけではないだろう。

「笑い声が響き渡りみんなが笑顔になるタイプの楽しさではない。」最初に聞いた言葉を思い出した。たしかにその通りだったし、単なるチームビルディングのためのワークショップではなかった。

だが結果的には、気候科学に対する知識が深まったのと同じくらい、メンバーの相互理解も深まったのではないだろうか。
そしてもう1つ思い出した。終了後はたしかに脳みそが疲れて、少しジンジンしていた。

なお、より詳細な情報を確認したい方は、適宜最新情報が更新されているClimate Freskのオフィシャルサイトにてご確認ください: https://climatefresk.org/
また、開催相談などのお問い合わせは、こちらで受け付けています:  groves-tricks-03@icloud.com (ヤナギ ノリコ)

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ライター:

バンド活動、海外生活、フリーターを経て36歳で初めて就職。2008年日本IBMに入社し、社内コミュニティー・マネージャー、およびソーシャル・ビジネス/コラボレーション・ツールの展開・推進を担当。持続可能な未来の実現に取り組む組織や人たちと社内外でさまざまなコラボ活動を実践し、記者として取材、発信している。脱炭素DX研究所 客員研究員。 合い言葉は #混ぜなきゃ危険 #民主主義は雑談から #幸福中心設計

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