
JR東日本の完全子会社「アトレ」が、駅ビルのテナント契約を一方的に変更し、JREポイント運営費の一部を負担させようとしたことが問題視されている。公正取引委員会(公取委)はこの行為が独占禁止法違反にあたる可能性があるとして、アトレに警告を出す方針を固めた。公取委の調査を受け、アトレはすでに契約変更を撤回しているが、今後の影響はどこまで広がるのか。本件の背景とともに詳しく解説する。
アトレの契約変更が問題視される理由
JR東日本の完全子会社である「アトレ」(東京都渋谷区)は、首都圏の駅ビル内で25の商業施設を運営している。アトレが今回問題となったのは、ポイントサービス「JREポイント」の運営費用をテナントに負担させる契約への一方的な変更である。
JREポイントは2016年に導入され、JR東日本の駅ビルなどに入るテナントで利用できるポイントサービスとして拡大してきた。2019年には鉄道利用によるポイント付与も開始され、昨年3月時点での会員数は約1,500万人に達している。
アトレは昨年夏以降、約800社のテナントに対し、今年の4月からJREポイント運営費用の一部を負担するよう求める契約変更を通知した。テナント側の意向を聞かずに行われたこの変更に対し、公取委は「優越的地位の乱用」に該当する可能性があると判断した。
独禁法違反に該当する可能性とは?
公取委は、アトレがテナントに対して圧倒的に強い立場にありながら、契約条件を協議なしに変更した点が問題だと指摘している。「優越的地位の乱用」とは、取引上の立場が強い企業が、一方的に不利益な取引条件を押し付ける行為を指し、独占禁止法により規制されている。
公取委の調査によると、以下の点から、公取委はアトレの行為が独禁法に抵触する可能性が高いと判断した。
・契約変更はアトレ側の一方的な決定であり、テナント側との協議がなかった
・費用負担が急増したことを理由に、テナント側に経済的負担を転嫁した
・駅ビルという立地上、他の商業施設へ移転することが困難なため、テナント側が不利な立場にある
アトレの対応
公取委の調査が進む中、アトレは2025年の春から予定していたテナント側の費用負担を撤回した。現在、テナントとの協議を進めているが、公取委の正式な警告が行われた場合、さらなる対応が求められる可能性がある。とはいえ、テナント側としては今後も不利な条件が提示されるのではないかという懸念の声が上がることも考えられる。
JREポイント制度の影響と今後の焦点
JREポイントは、JR東日本の顧客ロイヤルティプログラムとして成功を収めているが、その運営コストは増大し続けている。アトレがテナントに負担を求めた背景には、ポイント制度の維持にかかるコストの増加があると考えられる。
今後の焦点は、大きく以下の3点だと考えられる。
- 公取委が正式な警告を発するかどうか
- 他の商業施設運営会社が同様の問題を抱えていないか
- テナントとの契約条件の見直しが進むのか
公取委の対応次第では、他の商業施設にも影響が及ぶ可能性があり、業界全体での議論が必要になるだろう。
まとめ:企業の取引姿勢に厳しい目が向けられる時代
今回のアトレの契約変更問題は、公取委が企業の取引姿勢に厳しい目を向ける姿勢を示した事例の一つである。独禁法違反の可能性があると判断されたことにより、他の商業施設運営企業も、今後はテナントとの契約内容について慎重に対応する必要がある。
消費者にとっては、一見すると影響の少ないニュースのように思えるが、JREポイント制度が今後どのように維持されていくのか、また駅ビルの商業環境がどのように変化するのか、注視していくべきだろう。