4日、NHKは、日本IBMに対し、受信料業務のシステム開発契約を巡り約55億円の損害賠償を求める訴訟を提起したことがわかった。
システム開発の契約は2022年に締結されたが、2024年にIBM側の納期遅延が発生し、NHKは契約解除を決断。既払い金の返還を求めたが応じられず、提訴に至ったようだ。
NHK、日本IBMを提訴 システム開発遅延が発端
NHKは2025年2月4日、日本IBMを相手取り、受信料業務のシステム開発契約をめぐる損害賠償請求訴訟を東京地方裁判所に提起したと発表した。訴訟請求額は54億6992万7231円にのぼる。NHKはすでに支払った代金の返還と、開発遅延による損害賠償を求めている。
契約の概要と問題の発生
NHKは2022年12月、日本IBMと約80億円の契約を結び、受信料業務を支える営業基幹システムの刷新を進めていた。しかし、日本IBMは2024年3月に開発方式の大幅な見直しが必要とNHKに通告し、同年5月には納期を1年6カ月以上遅らせる必要があると申し入れた。NHKはこの申し入れを受け、「事業継続に甚大な支障が生じる」と判断し、2024年8月に契約を解除した。
契約の経緯(時系列)
- 2022年12月: NHKは受信料業務を支える「営業基幹システム」の刷新を目的に、日本IBMと約80億円で業務委託契約を締結
- 2024年3月: 日本IBMがNHKに対し、開発方式の大幅な見直しが必要と通告
- 2024年5月: 日本IBMが納期を1年6カ月以上遅らせる必要があると申し入れ
- 2024年8月: NHKは事業継続に甚大な支障が生じると判断し、契約を解除
NHKの財務への影響と特別損失
NHKが2025年1月8日に発表した2025年度予算によると、事業収支差金が400億円の赤字となる見通しだ。また、今回のシステム開発契約解除に伴い、NHKは2024年度の中間財務諸表に30億円の特別損失を計上した。これは、2023年10月の受信料値下げによる収入減少が響き、3年連続の赤字となる。
前年の予算では570億円の赤字が見込まれていたため、赤字幅は縮小したものの、依然として厳しい財務状況が続いている。NHKは不足分を積立金で補填する方針を示している。
日本IBMの対応と見解
日本IBMは今回の提訴について、「訴状が届いていないため、現時点では詳細なコメントは差し控える」としている。しかし、「NHKには協議を重ねて申し入れてきたが、このような形になったことを非常に残念に思う」との立場を示している。
また、日本IBMは開発の遅れについて「技術的な課題が複雑化したことが影響した」との見解も示しており、今後の対応については裁判の進展に委ねる姿勢を見せている。
今後の展開
今回の訴訟は、NHKと日本IBMの契約履行をめぐる法的問題に加え、NHKの事業運営にも大きな影響を与える可能性がある。今後、裁判の行方や和解の可能性が注目される。
また、NHKは「業務への影響がないよう必要な取り組みを行う」とコメントしており、既存システムの維持や今後の代替策についても注視されることとなる。
公共放送のシステム開発のあり方や、業務委託契約の適正な履行に関する議論が今後ますます重要となる中、本件が今後のNHKのシステム運用にどのような影響を及ぼすのかが問われることとなる。
【参照】
・システム開発中止に伴う訴訟の提起について(NHK)