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政治の影響を受ける経済領域

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日中経済関係

今日ビジネス界で活躍する日本人の多くには、政治や安全保障の分野で問題が大きくなっても、それはそれで経済やビジネスへの影響は少なく、政治と政治、経済は経済という形で分離して考える傾向がある。

戦後から日本は経済復興を最大目標に、高度経済成長を押し進め、バブル経済を経験し、戦後の焼け野原から世界有数の経済大国にまで上り詰めた。それには長い年月が掛かったが、一定の期間でここまで経済的繁栄を実現させた国は他にはないかも知れない。

政治と経済を分けて考える風潮

それが今日の高い生活水準(他国と比較して)をもたらしたことは間違いないが、戦後から今日まで一般社会で強く漂ってきたのは、政治は政治、経済は経済、もしくは経済優先というような風潮だろう。

ソ連という脅威があったものの、東西冷戦時代、そして米国一極時代の中で日本は経済発展を遂げてきたわけだが、それは米国が世界の中で圧倒的な力を持っていたことと深く関係する。ソ連という相手を抱えていた米国が、仮に過去冷戦でソ連に敗北し、米国一極時代が到来していなければ、今日の日本というものはなかっただろう。

政治は政治、経済は経済という風潮が色濃く漂ってきた典型的なケースが日中関係だ。戦後の高度経済成長を経験して瞬く間に経済主要国となった日本は、政府開発援助など中国へのビジネス展開を進めていったが、当時は今日と違い中国の経済力は日本に遥か及ばず、経済発展を目指す中国としても日本が重要なパートナーだった。

20世紀の日中関係は相互依存

当時から日中の間で政治や安全保障、歴史を巡る問題はあったものの、経済発展を目指す中国としては政治的問題で日本との関係が冷え込み、経済援助が停滞するなどは避けたかった。当然、日本にとっても世界の工場化する中国が極めて魅力的な存在で、そこには一種の相互依存があったと言えよう。

1989年の天安門事件の際も、欧米が共同で制裁を実施する中、日本は中国を孤立させるべきではないと共同制裁には同調せず、新規円借款の一時的な凍結などに留めた。当時、日本は政治的に難しい立ち位置だったかも知れないが、中国との経済関係を維持したいという狙いが見え隠れする。

政治的闘争がヒートアップした21世紀の日中関係

21世紀に入って中国が国力を付け始め、日中間で政治的紛争がヒートアップし、中国が経済領域で対抗手段に出ても、日本国内には政治は政治、経済は経済という風潮は漂い続けた。2005年4月、当時の小泉首相が靖国神社を参拝したことにより、中国では反日感情が高まり各地で日本製品の不買運動が発生した。2010年9月には、尖閣諸島で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突して中国人船長が逮捕されたことがきっかけで、中国は対抗措置として日本向けのレアアースの輸出を突然停止した。

2012年9月には、当時の野田政権が尖閣諸島の国有化を宣言したことがきっかけで、中国メディアが一斉に対日批判を展開し、中国各地では反日デモが拡大し、パナソニックの工場やトヨタの販売店などが放火され、日系のスーパーや百貨店などが破壊や略奪の被害に遭った。また、中国政府は日本からの輸入品の通関を厳格化させ、遅滞させるなどした。

こういったケースが断続的に続いても、21世紀初頭に企業の脱中国という動きはほとんど見られず、中国は日本にとって最大の貿易相手というポジションを維持することになった。

上述したように、経済力に乏しかった時代の中国は、その成長過程で日本を必要としており、身に潜めていた目標や野望を強く諸外国に示すことはなかった。米国なども当時、中国は台頭してくれば徐々に自由経済や資本主義、自由や人権、民主主義といった価値観を理解していくだろうとの期待を持っていた。

政冷経熱→政冷経冷

しかし、現実はそうならなかった。国力を付け始めた中国は、一帯一路や海洋強国、中華民族の偉大な復興、中国式現代化、社会主義現代化強国など様々なビジョンを打ち出し、力による現状変更を押し進めていくようになり、諸外国と政治的紛争がヒートアップした際は、経済的手段を使って相手を攻撃することが多くなった。

近年、オーストラリアとの関係が悪化した際、オーストラリア産の牛肉やワインの輸入を一方的に停止し、同じように関係が冷え込む台湾に対して、台湾産のパイナップルや高級魚ハタなどを次々に輸入停止にしたことは、その典型例だ。

こういった近年の状況に、日本国内でもやっと政治は政治、経済は経済という風潮にも陰りが見え始めたと筆者は感じている。そして、政治は政治、経済は経済という風潮を主導してきた企業の間でも、経済安全保障の重要性への理解が広がり、これまでの中国依存から脱却しようとする企業の動きが加速化しているように思う。

今後、これまで日中間では、政治は冷え込んでも経済は熱いという「政冷経熱」が言われてきたが、トランプ政権以降の米中貿易摩擦のように、経済や貿易のドメインの紛争化が近年進んでおり、今後は日中関係でも「政冷経熱」から「政冷経冷」に変化する恐れがあり、経済領域はよりいっそう政治からの影響を受けることが予想される。

 

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ライター:

専門分野:国際安全保障論、経済安全保障・地政学リスクなど 一般社団法人 日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師、コンサルティング会社OSCアドバイザーなどを兼務。 特に、アルカイダやイスラム国、白人至上主義者などグローバルなテロネットワークの研究分析を行う。また、大学研究者として安全保障分野の研究に従事する一方、実務家として海外進出企業向けに経済安全保障・地政学リスクのコンサルティングを行う。

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