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コラム

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ステークホルダー主義は三方よしと本質的に同じ|役員一年目の教科書で読む近江商人の普遍なる哲学

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近年よくその名を聞く「ステークホルダー主義」。株主第一主義からの脱却、新しい経営手法として捉えられがちだが、日本にはかつてから「三方よし」という言葉がある。書籍『新版 役員1年目の教科書』(ロギガ書房)によれば、「ステークホルダー主義は本質的に三方よしと同じである」という。三方よしとは何なのか、そして日本のステークホルダー主義とは今後どうあるべきかを考察していく。

  1. 近江商人の「三方よし」とは?

「買い手よし」「売り手よし」「世間よし」。これが近江商人の活動理念であった「三方よし」である。現在の滋賀県である近江出身の商人たちは、織田信長や豊臣秀吉の元で商業を発展させた。彼らは日本全国に出かけていき、呉服や油、木綿などを販売。活躍の範囲は広く、北海道から関東、大阪、九州にまで渡る。その中には、伊藤忠商事の創業者である初代伊藤忠兵衛の姿もあった。

全国の需要や価格差といった情報を仕入れ、商売を展開していった近江商人。自分たちの儲けだけでなく利益を使い、無償で各地に橋や学校を建てたという。地域の発展に貢献し地域に信頼されてこそ、商売は成り立つ。いち早くそれに気づいていたからこそ、近江商人は日本経済の発展に大きく貢献することになったのだろう。

  1. 三方よしとステークホルダー主義

星野雄滋 公認会計士事務所の星野雄滋氏、有限責任監査法人トーマツの矢澤浩氏・松林和彦氏・三村健司氏、デロイト トーマツ税理士法人の髙橋勲氏が経営者の基本をまとめた『新版 役員1年目の教科書』(ロギガ書房)でも、新版発売にあたって「ステークホルダー主義」というキーワードが追加された。しかし彼らはこうも述べている。

「なお、我が国には、もともと、近江商人由来の『三方よし』(売り手よし・買い手よし・世間よし)の哲学が連綿と受け継がれてきており、ステークホルダー主義が新たな概念として入ってきたという認識にはならないでしょう」

『新版 役員1年目の教科書』(ロギガ書房)

ステークホルダー主義とは、顧客・従業員・取引先・地域社会そして株主にとって価値を提供することだ。つまり、顧客は買い手、従業員と取引先は売り手、地域社会は世間にあたる。日本の経営者にとっては、株式市場の発展により忘れかけていた「三方よし」を再認識することで、ステークホルダー主義の追求に自然と繋がるはずなのである。

  1. ジョンソン・エンド・ジョンソンの「我が信条」

実際にステークホルダー主義を実現している事例として、『新版 役員1年目の教科書』の著者らはジョンソン・エンド・ジョンソンを挙げている。コロナワクチンの話題も記憶に新しいジョンソン・エンド・ジョンソンには、コア・バリューとして「我が信条」がある。

企業理念であり倫理規定として定められている「我が信条」には4つの責任が登場し、「第一の責任」は「サービスを使用してくれる患者、医者、看護師、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客」。「第二の責任」は「世界中で共に働く全社員」、「第三の責任」は「地域社会」であり「全世界の共同社会」。「第四の、そして最後の責任」は「会社の株主」となっている。(https://www.jnj.co.jp/about-jnj/our-credo

我が信条は1943年に発表されたものであり、こちらも「三方よし」と同様に長年受け継がれてきている人類の知恵であろう。この信条を発表したロバート・ウッド・ジョンソンJrは、株主が最後であることに対する不満の声に対して、「顧客第一で考え行動し、残りの責任をこの順序通り果たしてゆけば、株主への責任は自ずと果たせるというのが、正しいビジネス論理なのだ」と切り返したという。

  1. 商人としての本質を突き詰める

ステークホルダー主義はそこまで難解なものには思えなくなってきたのではないだろうか。結局のところ、1人の経営者として、そして1人の商人として円滑な事業運営を考えれば自然と「三方よし」の考えに至るはずだ。

テレワークやDXが進む近年において地域社会への貢献は一番縁遠く感じるかもしれない。しかし自社の顧客は地域社会に属している1人である。近江商人のように橋や学校を建てることは難しくとも、SDGsな取り組みなどすぐに始められる施策も多い。『新版 役員1年目の教科書』では、SDGsとESG、ステークホルダー主義について「3つの経営テーマは同質であり、相互に密接に関連」していると述べている。また地域社会への貢献は自社の認知度・イメージアップにも効果的だ。

ジョンソン・エンド・ジョンソンでは地域社会への責任として、災害看護研修プログラムやキッザニアでの「病院」パビリオン出展など多岐に渡る社会貢献活動を実行している。近年増えている地球温暖化や災害に対する施策、未来の子供に対する施策などと自社事業とのシナジーを考えてみてはいかがだろうか。

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