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映画『国宝』124億円突破 邦画実写歴代2位の快挙と歌舞伎界の未来

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映画『国宝』
『国宝』映画公式Instagramより

映画『国宝』が空前の大ヒットを記録している。8月末時点で興行収入124億円に達し、邦画実写作品として歴代2位に浮上した。歌舞伎界で才能を磨き、人間国宝へと至る主人公の半生を描いた約3時間の大作は、伝統芸能を扱いながらも若い観客を含め幅広い層に支持を広げている。なぜ『国宝』はここまで人々の心をとらえたのか――。

 

興行収入124億円の背景にある「商業演劇」の現実

『国宝』は公開から77日間で観客動員数782万人を突破し、興行収入は110.1億円に到達。その後も勢いは止まらず、8月末には124億円に達した。公開から3カ月が経過しても週末の映画館は満席に近い。

題材は一見すると若い層にはなじみにくい歌舞伎。しかし作品の成功は、伝統芸能が新たな観客層を獲得できる可能性を示した。歌舞伎は松竹が担う「商業演劇」であり、採算や観客動員に大きく左右される。今回の大ヒットは、興行そのものの未来を明るく照らす契機となった。

 

12億円投じた製作費と豪華布陣が生んだ124億円のリターン

日本映画の制作費は一般的に3〜4億円、大作でも10億円程度とされる。しかし『国宝』には異例の12億円が投じられた。配給は東宝、製作幹事はアニプレックス傘下のミリアゴンスタジオ。東宝配給だからこそ、吉沢亮や横浜流星といった映画スターを主演に迎えることができた。

豪華キャスト陣は観客を強く惹きつける。花井半二郎を渡辺謙、主人公・喜久雄を吉沢亮、ライバル俊介を横浜流星が演じ、寺島しのぶ、高畑充希、田中泯らが脇を固めた。

吉沢と横浜は1年以上の稽古で所作を身につけ、李相日監督がその成果を映像に収めた。臨場感あふれる舞台シーンは、スクリーンでありながら歌舞伎座を超える迫力を感じさせる。

筆者である歌舞伎ファン・細川幸一氏(日本女子大学名誉教授)も「4回観ても飽きない。料金も手ごろで、歌舞伎を知らない層にとって最高の入口だ」と評価する。

 

映像美が124億円の観客を魅了 舞台と舞台裏のリアリティ

映画には実在の劇場や精緻なセットが数多く登場する。晩年の喜久雄が立つ「日乃本座」は、戦前の歌舞伎座をモデルに再現。外観は「びわ湖大津館」、内部は東映京都撮影所での大規模セットを用いた。

冒頭の長崎料亭「花丸」のシーンは、任侠一家の宴会から始まり、襲撃によって父を失う喜久雄の運命を描く。任侠映画さながらの迫力が観客を引き込み、以後の3時間を飽きさせない。舞台上の演目だけでなく、裏方や俳優の日常を描く点も高く評価され、観客は舞台裏のリアルを初めて目にすることができた。

 

世襲制度と才能の葛藤――124億円ヒットが浮き彫りにした矛盾

映画の最大のテーマは、御曹司・俊介と部屋子出身の喜久雄、どちらが芸を継ぐのかという葛藤だ。これは現実の歌舞伎界にも通じる問題である。

評論家・中川右介氏は著書で「門閥主義こそが歌舞伎を支えている」と述べ、御曹司以外が主役に抜擢されるのはごく例外だと指摘。

寺島しのぶもインタビューで「実子がいながら部屋子を後継に選ぶことは考えにくい」としつつ、「でもあってもいい」と語った。

現実では国立劇場養成所の卒業生も増えているが、多くは脇役や黒衣止まり。観客の前で主役を務めるのは依然として名家の子弟に限られている。『国宝』は、世襲と才能のせめぎ合いという普遍的なテーマを突きつけた点で、多くの観客の心に響いた。

 

124億円の快挙が投げかける「伝統と革新」の未来

歌舞伎は世界でも稀有な、私企業が主導する伝統芸能である。早稲田大学の児玉竜一教授は「伝統を守りつつ現代にアピールするスターを生み続けることが宿命」と語り、映画『国宝』はまさにその命題を描いた作品だと分析する。

世襲制度が観客の贔屓文化を支える一方で、それだけでは裾野は広がらない。映画は才能によって芸を継ぐ未来像を提示し、観客に問いを投げかけた。124億円という数字は単なる興行成績ではなく、伝統芸能のあり方に世間が注目している証左でもある。

『国宝』は歌舞伎の未来を考えるきっかけを社会全体に提供した。伝統を守ることと革新に挑むこと。その両立こそが、次の時代の観客をつなぎ止める鍵になるだろう。

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ライター:

千葉県生まれ。青果卸売の現場で働いたのち、フリーライターへ。 野菜や果物のようにみずみずしい旬な話題を届けたいと思っています。 料理と漫画・アニメが大好きです。

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