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「退職は若者の特権じゃない」 40代・50代が退職代行を選ぶ本当の理由

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退職代行 40代・50代
DALL-Eで作成

2010年代後半から急速に拡大した退職代行サービス。LINEやWebフォームで申し込み、代行業者が会社に連絡して退職の意思を伝える。このスキームは、「辞めたいけれど言い出せない」若者を中心にニーズが急増し、SNSを通じて広く知られるようになった。

当初は「甘え」「無責任」「ゆとり世代特有の傾向」などと揶揄されることもあったが、その評価は今、明確に変わりつつある。
その象徴が、40代・50代の中高年層の利用者増加というトレンドである。

 

 

世代別利用データが示す“意外な現実”

退職代行サービス「EXIT」が公表した2023年度の利用実績によると、年代別の構成は以下のようになっている。

年代利用割合(%)
20代44.0%
30代32.8%
40代14.3%
50代6.4%
その他2.5%

たしかに若年層が多数派ではあるが、5人に1人以上は40代以上の中高年であるという事実は重い。
特に50代は、2020年時点と比べて利用者数が約2倍に伸びており、もはや「例外」とは言えない存在になっている(EXIT運営会社調べ)。

この背景には、いくつかの複雑な要素がある。

まず、終身雇用を前提に働いてきた中高年世代にとって、退職の意思を会社に伝えること自体が大きな心理的壁となっている。
加えて、「今さら辞められない」「家庭を養う責任がある」「職場で築いた人間関係が壊れる」といったしがらみが、本人の決断を鈍らせる。

しかし一方で、働き方改革や多様な生き方が社会に浸透するなか、「このままでは潰れてしまう」という限界感から、退職代行にすがるケースが確実に増えている。

 

「辞めたい」と言う体力が残っていなかった

退職代行の利用に至るまでのプロセスは、決して軽いものではない。
特に40代・50代にとっては、キャリアの積み重ね、責任、プライド、そして家庭の事情など、さまざまな重荷がのしかかっている。

東京都在住の49歳男性(元営業部長)はこう語る。

「長年働いてきた会社だった。けれど、組織の再編と数字プレッシャー、上層部との断絶に疲れきってしまった。退職を伝えることさえ怖くて、数ヶ月ずっと悩んでいた。退職代行を使って、初めて“辞める自由”を手に入れた気がした」

また、42歳の女性(一般職・事務)は、育児と両立しながら正社員として働いていたが、周囲の無理解と人間関係のストレスに耐えかねて、最終的に退職代行を選んだ。

「“辞めます”と伝える勇気もなかった。もう感情がすり減っていた。子どもがいるからこそ逃げられないと思っていたけど、これ以上壊れたら意味がないと思った」

こうした証言に共通するのは、「退職代行は最後の選択だった」という点だ。
中高年がこれを選ぶということは、その裏に“職場との対話が成立しない構造的問題”が存在していることを示している。

 

なぜ中高年が“自分で言えない”のか?

退職の意思を自分の口で伝えることが困難になっている理由は、個人の性格ではなく、むしろ日本的な雇用文化や組織の風土にある。

たとえば以下のような背景がある。

  • 年功序列・忠誠心重視の企業文化
  • 「辞める=裏切り」と捉える上司との関係性
  • 長年築いた人間関係を壊したくない心理
  • 引き継ぎや責任感に対する過剰なプレッシャー

さらに、ハラスメントや過重労働があっても声を上げづらい環境では、「辞めたい」とすら言えなくなってしまう。

退職代行は、そうした“言えなさ”を代弁するツールとして、静かにその存在感を増している。

 

社会はまだ、“辞める自由”に追いついていない

日本では、「辞める」ことに対するネガティブな認識が根強く残っている。
「石の上にも三年」「逃げ癖がつく」「辞めたら次はない」

こうした言葉が、今も多くの働く人の背中を押しとどめている。

だが実際には、退職代行を使って職場を離れた人の多くが、「心が軽くなった」「次に進めた」と話している。
これは単なる利便性ではなく、「感情労働」や「言語化できない不安」から逃れるための、現代的な防衛策なのかもしれない。

 

退職代行は「甘え」ではない。時代の鏡だ

退職代行は、決して万能でも正義でもない。
だが、それを選ばざるを得ないほど「働きづらさ」が蔓延している職場があるという事実を、私たちは直視すべきである。

そして、退職代行を使う人の姿には、現代社会の働き方、責任、沈黙、そして限界が、はっきりと映っている。

「辞めたいけれど、もう自分からは言えない」
そんな想いを代弁するこのサービスが“普通の選択肢”となる時代が来ている。
それはある意味で、「個人の尊厳」を守るための新しい出口なのかもしれない。

 

中高年にも「辞めていい」は必要だ

人生100年時代、50歳で退職してもその後に続くキャリアや人生は長い。
40代・50代が退職代行を使うという現象を、私たちは「弱さ」と見るのではなく、「生き直す決意」として受け止めるべきではないだろうか。

退職は敗北ではない。
声を上げられなかった人が、声の代わりに選んだ手段が“退職代行”なのだとすれば、それは今の社会に必要な、ひとつの救済装置なのかもしれない。

 

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ライター:

サステナブル情報を紹介するWEBメディアcokiの編集部です。主にニュースや解説記事などを担当するチームです。

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