
「シーシャでリラックスしていたはずが、突然めまいと吐き気に襲われた」。水たばこ(シーシャ)が若者を中心に人気を集める一方で、急性の一酸化炭素中毒による救急搬送が増加しているようだ。炭で加熱するという特性上、紙巻きたばこよりも多くの一酸化炭素(CO)を発生させる可能性があり、その影響で意識を失う事例も報告されている。安全に楽しむために知っておくべきリスクと対策を探る。
シーシャ人気が急上昇!都市部で店舗が急増
近年、都市部を中心にシーシャ専門店の数が急増している。飲み会の後やデートで訪れる人が多く、「チル(リラックス)」を楽しむ空間として人気を博している。
シーシャとは中東発祥の水たばこで、フルーツやスイーツの香りがついたタバコ葉(フレーバー)を炭で熱し、発生した煙を水に通して吸う仕組みだ。水を通すことで害が軽減されると考える人も多いが、実際には有害物質が多く含まれる。
東京都内のシーシャ店の数はここ数年で急増している。日本最大級のシーシャ店舗検索サイト「シーシャスイタイ」を運営する株式会社BuzzHeroが調査した「全国都道府県別シーシャ店舗数ランキング」の調査によると、東京都内のシーシャ店舗数は368店舗。この店舗数は都内のスターバックス381店舗に迫り、マクドナルド353店舗を上回る数となっている。(店舗数は上記調査の2022年度時点、調査結果による数字を参照)特に、シーシャ店は渋谷、下北沢、吉祥寺など若者が集まるエリアでの出店が目立つ傾向だ。
こうした背景には、コロナ禍の影響で飲食業が苦戦する中、居酒屋に代わる新たな社交場としての需要が高まったことが挙げられる。
水たばこで救急搬送が多発!東京消防庁の調査結果
一方で、シーシャの人気拡大に伴い、一酸化炭素中毒が疑われる救急搬送が増えていることが毎日新聞の報道でわかった。東京消防庁と日赤医療センターの研究チームによる調査では、2018年1月から2023年6月までの5年半で、水たばこと関連する救急搬送が64件発生していたことが明らかになった。これは平均して月に1件以上のペースで発生していることを意味する。
患者の8割以上は20代で、女性が56%とやや多かった。主な症状としては、意識消失、めまい、嘔吐、頭痛などが報告されている。軽症で済むケースが多いものの、重症化する場合もあり、早期の酸素投与が必要となることがある。
筑波大学の村木功教授(社会健康医学)の調査では、全国約1400のシーシャ提供店にアンケートを実施。その結果、回答のあった191店のうち約6割が、客や従業員にめまいや吐き気などの急性CO中毒の症状が出た経験があると答えていた。
なぜシーシャで一酸化炭素中毒が起こるのか?
シーシャは炭でフレーバーを熱するため、紙巻きタバコと比べて一酸化炭素が多く発生しやすい。世界保健機関(WHO)によると、シーシャ1回の喫煙で吸い込む煙の量は紙巻きタバコ100本分に相当するとも言われている。
特に換気が不十分な店では、一酸化炭素の濃度が上昇しやすい。産業医科大学の姜英講師(公衆衛生学)らの調査では、シーシャ提供店2店舗のCO濃度を測定し、対面席で「2~3時間で軽い頭痛が起こる」とされるレベルのCOが検出されたという。
シーシャに関する誤解と正しい知識
シーシャの利用者の中には「水を通すから安全」と考える人が少なくない。しかし、WHOはこれを誤解であると指摘している。水が有害物質を完全に除去するわけではなく、むしろ長時間の喫煙により吸入する有害物質の量が増える可能性もある。
また、「タバコのニオイがしないから安全」と思っている人も多いが、無臭の一酸化炭素は気づかないうちに体内に蓄積し、症状が現れたときにはすでに中毒状態になっていることが多い。
シーシャを安全に楽しむために
シーシャを楽しむ場合、以下の点に注意することが重要だ。
・換気の良い店を選ぶ:狭い個室や密閉された空間では一酸化炭素が充満しやすい。
・長時間吸わない:1時間以内を目安にし、適度に休憩をとる。
・体調に異変を感じたらすぐに外の空気を吸う:めまいや頭痛を感じたら速やかに退店し、新鮮な空気を取り入れる。
・友人と一緒に行動する:一人で利用するよりも、異変があったときにすぐに対応できるようにする。
まとめ:シーシャ文化と健康リスクのバランス
シーシャはリラックスできる空間を提供する一方で、一酸化炭素中毒のリスクを伴う。特に若者を中心に利用が広がる中、安全性に対する理解が十分でないケースも多い。今後、店舗側の換気対策や警告表示の強化も必要だろう。
健康を守りながらシーシャを楽しむために、利用者自身がリスクを理解し、正しい知識を持つことが不可欠だ。
【参照】シーシャスイタイ「全国都道府県別シーシャ店舗数ランキング」を発表(PT TIMES)