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フランス・ドイツがCSRDの大幅見直しを要求 EUのESG規制と日本企業への影響とは?

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フランスとドイツがESGから逃げる構図のイメージ
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フランス政府が、EUのESG関連規則を抜本的に見直すよう求めている。ブルームバーグの報道によると、CSRD(企業サステナビリティー報告指令)の報告要件が「国際競争の新たな局面に適合していない」として、大幅な緩和を訴えていることがわかった。

1月20日付の22ページにわたる同文書は、米トランプ政権が環境規制の撤廃を進めるなかで、欧州企業の競争力を回復させるために必要な措置だと主張する。ドイツも自国経済の低迷を理由にCSRDの再検討を提起しており、欧州主要国による共同歩調がESG規制の「揺り戻し」を招く可能性が高まっている。

EPPの規制簡素化要求が鮮明に

こうした動きを勢いづけたのが、1月18日にドイツ・ベルリンで開かれた欧州人民党(EPP)の会合だ。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長や欧州議会のロベルタ・メツォラ議長、ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相ら、EPPに所属する要人が多数出席し、域内産業の競争力を強化するため規制の簡素化を求める文書を採択した。EPPは昨年の欧州議会選挙で勝利し、同年12月に再任されたフォン・デア・ライエン委員長も「企業の負担軽減」を掲げている。

EPPは、CSRDやタクソノミー規則、CSDDD(企業持続可能性デューディリジェンス指令)などの重複する報告義務を一括して整理する「オムニバス法案」を歓迎する意向を示しながらも、報告対象企業を従業員数1,000人以上に限定し、義務項目を半減させることを強く要求した。

さらに、CSRDやCSDDD、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の適用を少なくとも2年間保留するよう提案している。再生可能エネルギーの導入加速を目指すEUの方針に対しても「技術中立を推進すべきだ」と主張し、2040年目標の設定にも反対するなど、大胆な規制修正を求める姿勢が鮮明になっている。

日本企業が対象となる具体的条件

EU域内で事業を行う日本企業にも、CSRDは影響を及ぼす。とりわけ、EUに上場子会社を保有する企業や、EU内に大規模な子会社(売上高5,000万ユーロ超、総資産2,500万ユーロ超、従業員数250名超のうち2項目以上を満たすなど)のある日本企業は、2025年以降、段階的にサステナビリティ開示を義務づけられると言われてきた。

適用形態としては、EU子会社が単体または連結でレポートするほか、日本の親会社が連結ベースで一括開示を行う方法も認められる。いずれの形であれ、事業年度の開始時期に応じて、順次報告が必要となってくる。

欧州企業の負担と日本企業への影響

CSRDへの対応には、温室効果ガス(GHG)排出量のスコープ3まで含めた算定や、人権デューディリジェンスの実施状況を含めた詳細なレポーティングなど、企業にとって相当の工数がかかる。すでに欧州の一部企業では、本格対応に向けた体制づくりやマテリアリティ分析を終え、実際のデータ収集を開始したケースも少なくない。日本企業でも、EU子会社を通じたESRS準拠の報告が必要になるところは少なくないため、すでに準備を進めている企業がある。

しかし、フランスやドイツ、EPPなどから相次いで規制の簡素化や適用範囲縮小を求める声が上がったことで、CSRDの適用スケジュールや対象範囲、開示要件がどこまで見直されるかは流動的な状況になりつつある。EUの環境重視派と経済成長を最優先する勢力とのせめぎ合いが、今後さらに激しくなるという見方が強い。

適用対象となり得る日本企業への影響

CSRDによるサステナビリティ報告義務は、EUに上場子会社を持つ日本企業のみならず、EU域内で一定規模(売上高や総資産など)の子会社を保有する企業にも波及するとみられ、2025年以降の本格適用に向けて既に対応を進めているところが多い。

ESRSに基づく開示は投資家以外の幅広いステークホルダーを念頭に置き、企業が社会や環境に与える外部インパクトも重視するため、データ収集や組織体制の整備など実務的な負担は小さくないとされる。

日本企業のなかにはこのESRS用のダブルマテリアリティ分析をほぼ仕上げ、バリューチェーン全体の温室効果ガス排出量や人権デューディリジェンスの実施状況など、欧州子会社を軸とする情報開示体制を整えつつある例も出始めるころだろう。

しかしEPPが大幅な適用範囲の見直しや2年間の保留を主張していることで、EU全体としての規制内容とタイミングが流動化する可能性が否定できなくなった。

“揺れ戻し”とSSBJへの波及

企業の負担が大きすぎるという不満は欧州産業界に広く存在し、ESG規制全般の過剰化を警戒する声が高まった結果、CSRDやCSDDDなど多くの制度で「揺れ戻し」が起きる可能性がある。EUでの法整備の進行は、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が策定する基準との相互運用を意識してきたが、大幅な見直しが行われた場合、日本におけるSSBJ(サステナビリティ基準委員会)による国内基準づくりにも影響が及ぶ恐れがある。

ISSBや米SECの動向を含め、グローバルスタンダードの確立に向けた調整が難航することが予想されるが、すでに実務対応を始めた企業は安易に後退できないというジレンマを抱えている。

欧州では2月26日に提出予定のオムニバス法案を機に、関連規制の大幅修正がどこまで認められるのかが注目される。CSRDの適用時期や報告要件が変わる可能性はあるものの、グリーン・ディールを掲げるEUの環境目標そのものが後退するとは限らないという見方も根強い。また、ある日本企業は、「トランプ大統領の反ESGの流れがあれど、大勢としてのサステナビリティ経営への潮流は不可逆的。そうした前提のなかで、企業が情報開示を先送りするリスクは決して小さくない」と語っている。

ESG規制をめぐる欧州の揺れが、海外企業を含めた全体の報告基準にどのような影響をもたらすか、今後の成り行きが注目されている。

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寒天 かんたろう

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ライター歴25年。月刊誌記者を経て独立。伝統的な日本型企業の経営や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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