
2024年、創業・設立から100年以上の業歴を持つ老舗企業の倒産件数が145件に達し、過去最多を大幅に更新したことが帝国データバンクの調査で明らかになった。前年の96件から約1.5倍の急増となり、リーマン・ショックが発生した2008年の120件をも上回る結果となった。
諸説あるが、日本には、100年以上続く企業が52,328社存在するとされ(100年経営研究機構調べ)、世界全体で見ても圧倒的に多い。その中には、地域経済を支えてきた小規模事業者が多数を占める。しかし、昨今の経営環境の激変や物価高騰、後継者難といった問題により、これらの企業の多くが経営存続の危機に直面している。
地域に根ざした老舗企業の倒産事例

「母さん、もう仕込みの材料費が払えないんだ……来月の分もどうなるか分からない。」
2024年3月、関東地方のある老舗和菓子店の小さな工房には、店主の直樹さんと母親の君江さんの声だけが響いていた。明治時代に創業したこの店は、地域で愛されるおはぎや団子を作り続けてきた。しかし、物価高騰と若者の和菓子離れ、さらにコロナ禍での観光客減少が重なり、売上は数年前の半分以下に落ち込んでいた。
「直樹、私もこの店がなくなるのはつらいけど、もう十分頑張ったんじゃない?」
君江さんは手にしていた木べらを置き、そっと息子に声をかけた。父親の代から使い続けてきた餡を練る道具が、棚の隅に埃をかぶっているのが目に入る。
この和菓子店が廃業を決めたのは、それから間もない春の日だった。最後の日、君江さんはこれまで大事に使ってきた茶釜を見つめながら、店の扉を静かに閉めた。
小売業と製造業が倒産件数の6割を占める
帝国データバンクの調査によれば、2024年に倒産した老舗企業を業種別に見ると、小売業と製造業が全体の約6割を占めた。小売業では43件が倒産しており、スーパーマーケットや呉服店、百貨店など、地域の暮らしを支えてきた業態が姿を消している。
製造業では42件が倒産しており、清酒製造や生菓子製造、水産加工、味噌など、日本の伝統的な産業が含まれている。

倒産の要因としては、「販売不振」が124件と圧倒的に多かった。また、物価高騰や後継者難といった経営リスクに対応できなかったことが背景にある。
地域に根ざした老舗企業の倒産事例
2024年に倒産した老舗企業の中には、地域に密着し長年愛されてきた企業が数多く含まれている。例えば、広島県の食品スーパー「三谷屋」は1858年創業の老舗で、地元密着型のスーパーマーケットとして親しまれてきたが、人口減少やドラッグストアなどとの競合激化により経営が悪化。物価高騰による仕入れコストや光熱費の上昇も重なり、2024年2月に事業停止、その後6月に破産開始決定となった。
また、東京都の和菓子店「青木万年堂」は1818年創業で、地元で愛された老舗和菓子店だったが、コロナ禍の影響や消費者の嗜好変化により売上が減少し、2024年3月に破産開始決定を受けた。
老舗=安泰のイメージに変化
老舗企業の倒産は、規模の小さい事業者だけにとどまらない。2023年には上場老舗企業でありながら、コンプライアンス違反を原因とした倒産事例が複数発生し、「老舗=安泰」という従来のイメージが揺らぎつつある。
こうした背景には、時代の変化に対応する経営手法を模索しきれなかったことが挙げられる。特に、地域に密着した企業ほど、急速に進むデジタル化や若者の消費傾向の変化に取り残されるケースが多い。
再起に向けた取り組みと進取の気性
老舗企業は代々受け継いできた伝統の家訓や経営理念、豊かな精神性を武器にして事業を続けてきた。しかし、現代の急速な経済変化に対応するためには、進取の気性を持った柔軟な経営が求められる。
一方で、老舗企業を支援する動きも活発化している。地域金融機関や自治体が連携して事業継承を支援したり、クラウドファンディングを通じて地域住民から資金を募る取り組みも注目を集めている。こうした新しい方法を取り入れ、老舗企業が再び地域経済の核として輝きを取り戻すことが期待される。
老舗ブランドの可能性と未来
日本の老舗企業は、単なる歴史の産物ではなく、地域文化の象徴でもある。その強みをどのように次世代につなげていくのか。変化に挑み、あらゆる荒波を乗り越えてきた「老舗」の再起が、日本経済全体の未来にもつながるはずだ。