フランスで2025年から、生活保護(RSA)受給者に対して週15時間の就労活動が義務付けられることが決まった。すべての受給者はFrance Travail(雇用支援を強化し、失業者の社会復帰を支援する組織)に自動的に登録され、雇用契約への署名が必要となる。
フランスの生活保護新制度の詳細
新制度では、受給者は週15時間の研修、インターンシップ、職業体験などの統合活動への参加が必須となる。これに従わない場合は給付停止などの罰則が設けられるようだ。
すでに一部地域での実験では、42%が仕事に復帰できているという成果が報告されている。政府は「RSAによって引き起こされた排除現象に終止符を打つ」としており、完全雇用の実現を目指している。
SNSでの反響
この制度改革に対してSNS上では賛否両論が巻き起こっている。
賛成意見として「社会から孤立してお金だけもらう現行の日本の生活保護制度は良くない」「社会の一員である自覚の促しになる」「働こうとする気持ちに動くはず」といった声が上がっている。
一方で反対意見としては「受け入れて仕事させる側も大変」「雇用市場が崩れる可能性がある」「そもそも事情があり働けない人への配慮が必要」といった懸念も示されている。
日本では生活保護の不正受給や外国人まで受給対象となっていることで、制度を悪用する不届きモノに対する批判があがるが、ところでフランス以外の国では生活保護はどういった実態になっているのだあろうか。
アメリカの生活保護制度、SSI
アメリカの生活保護制度「SSI(Supplemental Security Income)」は、受給条件が極めて厳格なようだ。65歳以上、失明者、または1年以上労働できない医療状況にある者に限定されている。2022年度の基本支給額は単身で月額841ドル(約9.7万円)で州による上乗せが行われることもあるとのこと。これには、「働ける健康な体を持った人は働いて稼げ」という考えが根底にあり、日本と比べても厳しい制度となっている。
しかし、近年の物価高騰のあおりを受けて、物価の高い州や都市部では、この額では生活が成り立たないことが度々指摘されている。例えば、カリフォルニア州の支給額は平均943ドル(約10万8,500円)だが、家賃や生活必需品の価格が高騰しており、SSIだけで生活するのは厳しい状況だ。
また、アメリカでは地域による運用の違いが大きく、申請者が十分な支援を受けられないケースも多い。特に、ホームレス支援に関しては「善意によるサポート」が収入と見なされ、支給額が削減されることもあり、厳しい一面が浮き彫りとなっている。
同じような制度に「TANF(Temporary Assistance for Needy Families)」というものもあるようだが、こちらは、一時的な経済的援助と就労支援を提供することで、低所得家庭が自立できるようにすることを目的としている。対象者は、主に未成年の子どもを持つ低所得家庭。特に、親や保護者が経済的困難に直面している場合に支援が決まるようだ。TANFは、受給期間は60か月(5年)という制限があり、受給者には就労や職業訓練への参加が義務付けられている。
日本の生活保護の現状
一方、日本の生活保護制度は1946年に制定された生活保護法を基盤としており、全国で統一された基準が適用されている。対象者は収入や資産が最低生活費を下回る世帯で、年齢や家族構成に関わらず申請可能だ。世帯収入が最低生活費を下回り、働けない状況にあり、資産や援助してくれる親族がいないことなどが受給条件となっている。
近年は生活保護に対するネガティブなイメージが根強く、受給資格がある人の約2割しか利用できていないという現状がある。表にでている不正受給の割合は全体の0.29パーセント(2021年の生活保護費負担金の総額約3.8兆円のなか不正は約110億円。全国厚生労働関係部局長会議資料、生活保護制度の現状について)とわずかだが、制度への誤解や偏見は依然として存在している。
基準額は地域によって異なるが、単身者の場合、東京都では月額12~13万円が最低生活費とされている。この額には生活費や住宅扶助が含まれる。また、日本の制度は医療扶助や介護扶助も手厚く、申請者は必要に応じてこれらのサービスを受けられる。
ただし、日本の生活保護には社会的スティグマ(汚名)が根強く存在する。特に、2012年に起きた著名人の母親の生活保護利用に関する報道は、不正受給という誤解を招き、利用者全体に対する偏見を強める要因となった。また、窓口対応の問題や扶養義務の厳格な適用が、利用可能な人々を排除する要因として指摘されている。
アメリカと日本の生活保護制度は、制度設計や運用面で違いがあるものの、共通する課題も多い。特に、社会的スティグマの解消や捕捉率(制度対象者の利用率)の向上は両国に共通する課題だ。アメリカでは申請条件の厳格さが問題視されており、日本では申請主義の壁が利用を妨げている。
本当に生活保護が必要な社会的弱者が安心して利用できる環境を整えることが求められる。生活保護は、単なる福祉政策ではなく、社会全体の安定を支える基盤である。正しい理解と運用の改善を通じて、より公平で包摂的な社会の実現を目指す必要がある。
ドイツやイギリスの生活保護
日本の生活保護受給者は、国民の1.6%と先進諸国の中で最低水準にとどまる。ドイツ(9.7%)、フランス(5.7%)、イギリス(9.27%)、スウェーデン(4.5%)と比較しても顕著に低い(日本弁護士連合会「今、日本の生活保護制度はどうなっているの?」より)。
一方、生活保護が必要とされる人々のうち、実際に支給を受けている割合(補足率)も、ドイツの64.6%やフランスの91.6%に比べて、日本はわずか15~20%に過ぎない。これにより、本来支援が必要な人々が見捨てられている現状が浮き彫りとなっている。
不正受給の割合は全体の0.29%にとどまり、厳しい監視体制のもと例外的なケースに過ぎない。それにもかかわらず、生活保護費はGDP比でOECD諸国平均の7分の1という低さだ。ただ、この不正受給の割合は表にでているもののみであり、例えば、海外などの場合は日本より生活保護受給者の定点観測がされているケースも考えられる。
今後の課題
フランスの改革は、社会保障制度の新しいアプローチとして注目される。一方で、各国の文化的背景や既存の社会保障制度との整合性を考慮する必要がある。
日本においても、非正規雇用の増加や生涯年収の減少により、生活保護制度はより身近なものとなることが予想される。フランスのように、生活保護になった者が円滑に社会復帰するための仕組みが必要でないだろうか。
実際に、日本の生活保護受給者の中で「働きによる収入の増加・取得・働き手の転入」が理由で生活保護を脱却した割合は14.5%と少ない(厚生労働省「令和3年度被保護者調査 月次調査(確定値) 結果の概要」)。
日本の生活保護の捕捉率は海外に比べて低いとはいえ、不正受給者の存在を許していては、真面目に働く人の勤労意欲を損なうことにもつながる。厳しく取り締まる仕組みは必要だろう。
制度の在り方について、国際的な動向も踏まえつつ、議論を深めていくことが望まれる。