2024年1月1日、マグニチュード7.6の巨大地震が能登半島を襲った。あれから1年。被災地は復興に向けて歩みを進めているものの、いまだ爪痕は深く、完全な復興にはほど遠い状況だ。特に、道路寸断により孤立した集落では、通信手段の確保が大きな課題となった。
そこで、石川県内の被災自治体は、人工衛星網による高速通信サービス「スターリンク(STARLINK)」の機器を避難所などに常時配備する計画を進めている。
スターリンクとは 災害時の通信確保に期待
スターリンクは、イーロン・マスク率いるスペースX社が提供する低軌道衛星群を活用した高速インターネットサービスだ。数千基の衛星が地球を周回しており、従来の衛星通信と比較して高速・低遅延の通信が可能となる。山間部など通信環境が整備されていない地域でも安定したインターネット接続を提供できるため、災害時の通信確保に大きな期待が寄せられている。
スターリンクの仕組みは、地上に設置した小型アンテナで衛星と通信を行うというものだ。Wi-Fiルーターを接続することで、スマートフォンやパソコンなど様々なデバイスでインターネットを利用できる。通信速度は、場所や時間帯によって変動するものの、一般的に動画視聴やWeb会議にも十分な速度が出ている。
スターリンクの有用性が広く認知されたのは、2022年のウクライナ有事の際。ウクライナのケルソン市内にWi-Fiを提供するスターリンク端末が設置され、戦火の際にも通信が使えることを喜ぶ市民の様子が紹介されたり、軍事利用にも耐える耐久性や高性能が世界中から注目を集めた。
能登半島地震でもスターリンクは緊急配備され、避難所などで有用性が実証された。
各社、能登半島地震で通信復旧に尽力
例えば、KDDIは、スペースXの日本法人と協力し、約700台のスターリンクを避難所などに無償提供したことが伝えられている。小型で持ち運びしやすいスターリンクのアンテナは、短時間での設置とWi-Fi環境構築を可能にし、被災地の通信確保に大きく貢献した。また、KDDIは基地局のバックホール回線にもスターリンクを活用し、迅速な復旧作業を支援した。
ソフトバンクも、地震発生直後から学校や避難所にスターリンク機器を100台無償で設置し、被災者の通信手段確保に努めたようだ。
NTTドコモも、KDDIが地震発生時に共同で、海底ケーブル敷設船「きずな」を利用した「船上基地局」を運用し、輪島市の一部沿岸エリアの通信復旧に尽力したことが報じられている。衛星アンテナで受信した電波を船上から発信することで、陸路が絶たれている地域でも携帯電話の通信サービスを提供したとのこと。
ただし、こうしたスターリンクの災害時の活用によって、現地運送や最適配置、現場利用といった点で課題もでたようだ。KDDIビジネス事業本部の藤井洋平氏による「能登半島地震及び管内におけるStarlink活用事例」という資料の開示内容によると、課題を受け、「平時より運用され、災害時でも意識せず皆が利用できる環境構築が望ましい」とまとめている。
自治体もスターリンク常時配備へ
こうした災害時の利用を受け、珠洲市は、2025年に市内に26カ所ある指定避難所や各地区の集会所などへスターリンクのアンテナ、発電機、ソーラーパネルを常備する計画だ。輪島市も、地震と豪雨で2度孤立した3地区の公民館にスターリンクを常時配備することを決定している。
大谷地区の丸山忠次区長会長は、時事通信の報道で「(スターリンクは)非常に助かった。安否確認のために真っ先に必要で、指定避難所には最低限置いておくべきだ」と語っている。ソフトバンクの橋詰洋樹氏は、「市民にスターリンクを開放したイベントを開くなど、普段から使えるようにしておくことが大事だ」と指摘し、平時からの活用と訓練の重要性を強調している。
スターリンクの今後の展望
スターリンクは、災害時の通信確保だけでなく、過疎地域や山間部など、通信環境が整備されていない地域でのインターネット接続手段としても期待されている。しかし、空に遮蔽物があると利用できないといった課題も残されている。今後、技術開発やサービス改善により、より安定した通信サービスの提供が期待される。
まとめ
能登半島地震から1年が経過したが、被災地の復興は依然として道半ばだ。特に、孤立集落における通信手段の確保は重要な課題であり、スターリンクの常時配備は大きな前進と言える。
災害時の通信確保は人命救助や復旧活動に不可欠であり、スターリンクのような革新的な技術の活用が、今後の防災対策において重要な役割を果たすだろう。