市場は期待と不安入り混じる
ソニーグループがカドカワの買収に向けて協議していることが明らかになり、市場は大きく反応した。19日の東京株式市場でカドカワ株はストップ高水準の前日比23%高の3745円で取引を終えた一方、カドカワと協業関係にあったバンダイナムコホールディングスの株価は3,167円と前日比126円下げて引けた。
これは、カドカワ買収が成立した場合、バンダイナムコが今後フロム・ソフトウェアのゲーム出版権を失う可能性があるという懸念から売りが広がったものとみられる。今回の買収劇は、ゲーム業界、ひいてはエンターテインメント業界全体に大きな影響を与える可能性がある。
買収の真の狙いはフロム・ソフトウェア?
ソニーはすでにカドカワ株の2.1%を保有し、カドカワ子会社であるフロム・ソフトウェアにも出資している。市場関係者の間では、ソニーの真の狙いはフロム・ソフトウェアの獲得にあるとの見方が強い。ロイターやブルームバーグの報道によると、識者もこの見方を支持している。
フロム・ソフトウェアは『DARK SOULS』シリーズや『Bloodborne』、『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』といった高難易度アクションゲーム、いわゆる“フロムゲー”で知られる。これらの作品は世界的な人気を誇り、熱狂的なファン層を築いている。
フロム・ソフトウェアの魅力:エルデンリングの大ヒット
特に2022年に発売された『ELDEN RING』は、全世界で2500万本以上を出荷する大ヒットを記録。ゲームアワードでGOTYを受賞するなど、批評家からも高い評価を得た。この成功は、フロム・ソフトウェアの高い開発力と、独自のゲーム性を持つ“フロムゲー”の魅力を改めて世界に示すこととなった。
バンダイナムコは「ELDEN RING」の販売元であったが、2023年3月に商標権をフロム・ソフトウェアに譲渡している。今回の買収報道を受け、バンダイナムコホールディングスの株価が下落した背景には、カドカワとの関係悪化への懸念があるとの指摘もある。
市場関係者、ユーザーの反応:期待と不安
ソニーによるカドカワ買収は、ゲーム業界の勢力図を塗り替える可能性を秘めている。市場関係者からは、ソニーのエンターテインメント事業拡大への期待が高まっている一方、ユーザーからは不安の声も上がっている。
SNS上では、「フロム・ソフトウェアがソニーの傘下に入ることで、ゲームの方向性が変わってしまうのではないか」といった懸念や、「ソニーの近作にはポリコレ臭が強いものが多い」といった批判も見られる。実際、ソニー・インタラクティブエンタテインメントが発売した新作ゲーム『CONCORD(コンコード)』では、発売からわずか2週間で販売停止となるなど、課題も抱えている。
一方で、カドカワが中国企業テンセントの子会社から出資を受けていた経緯もあり、「中国資本に買収されるよりはまし」という意見も出ている。
今後の展望:ソニーのエンタメ戦略とカドカワの行方
ソニーは近年、エレクトロニクス事業からエンターテインメント事業へのシフトを加速させている。今回の買収協議は、その戦略をさらに推し進めるものと言えるだろう。カドカワ傘下のフロム・ソフトウェアを獲得することで、強力なゲーム開発力を手に入れ、PlayStationプラットフォームの優位性をさらに高める狙いがあるとみられる。
カドカワは、6月にサイバー攻撃を受け個人情報が漏洩する事件や、2022年には東京五輪汚職事件で元会長が逮捕されるなど、近年は苦難が続いている。今回の買収がカドカワにとってどのような転機となるのか、今後の動向が注目される。