野村證券は11月6日、元社員が強盗殺人未遂と現住建造物等放火の容疑で広島県警に逮捕されたことをコーポレートサイトで正式に発表した。顧客の自宅訪問に際する事前承認ルールの導入など、再発防止策を公表したが、顧客情報流出への懸念も浮上しており、今後の対応が注目される。
ウェルス・マネジメント部門の業績回復が期待されていた矢先の不祥事で、社内には落胆が広がっている。
事件の概要と野村證券の対応
共同通信の報道によると、逮捕された元社員は29歳の梶原優星容疑者。7月28日、広島市の80代夫婦宅で食事中に睡眠薬を混入し、意識がもうろうとしたところへ放火、現金約2600万円を奪ったとみられている。この時点では、現役の社員であった。
梶原容疑者は顧客の夫婦とは一緒に家で食事をするほど信頼関係を築いていたようだ。ただ、個人的に、為替相場の変動を予想する金融商品「バイナリーオプション」への投資を行っており、業務外で複数の顧客から現金を奪い、投資資金に充てていたということも報道されている。
野村證券によると、元社員は8月2日に顧客から金銭を奪った事実を社内で報告。同社は3日に懲戒解雇を決定し、4日に本人に伝えた。しかし、放火については申し出がなかったという。
野村證券は6日、公式ウェブサイトで謝罪文を掲載。被害者と関係者への謝罪とともに、警察の捜査に全面的に協力する姿勢を示した。
また、再発防止策として、ウェルス・マネジメント部門の社員による顧客宅訪問の事前承認ルール導入、社員行動モニタリングの強化、不正検知のための休暇制度導入、コンプライアンス評価の厳格化、職業倫理研修の強化などを実施すると発表した。さらに、広島支店への営業企画担当執行役員の派遣、新支店長就任など、現地対応の強化も明らかにした。
社員の声、SNS上の反応
今回の事件を受け、SNS上では様々な反応が見られる。「ノルマ証券とも言われる現場への過剰なプレッシャーが原因ではないか」「顧客情報が流出しているのでは」といった声が上がる一方、「安全だと信じていたのに裏切られた」「金融業界全体のイメージが悪くなる」といった顧客の不安の声も目立つ。社内でも、業績回復の兆しが見えていた矢先の不祥事に、落胆や戸惑いが広がっているという。
現役社員からは「締め付けが強化されるのは仕方ない。まずは顧客の信頼回復に努めたい。それにしても、ここまで倫理観のないやつが同じ社員にいたことが悲しい」との声も。
SNS上では、以下のようなコメントも見られた。
顧客情報流出の懸念と闇名簿の実態
今回の事件は、顧客情報の流出リスクを改めて浮き彫りにした。強盗事件や特殊詐欺では、名簿屋から個人情報を仕入れるケースが後を絶たない。名簿屋には、様々なルートから情報が持ち込まれることが報道されている。企業や官公庁の内部関係者、アルバイトで雇われた一般人などが、金銭目的で情報を提供するケースもあるという。
また、自動音声サービスを悪用した情報収集も横行しているという。正式なアンケートを装って個人情報を聞き出し、資産状況や家族構成などを把握する手口だ。こうした不正に入手された情報は、闇名簿として犯罪組織に渡り、凶悪犯罪の標的にされる危険性がある。
野村證券は現時点で情報流出については言及していないし、よもや闇名簿への転用はないと信じたいが、顧客の不安払拭のためにも、情報管理体制の徹底的な見直しと透明性の高い情報開示が求められる。
金融業界への影響と今後の課題
国内屈指の証券会社による今回の事件は金融業界全体への信頼を揺るがす可能性がある。特に、富裕層向けサービスを提供するウェルス・マネジメント部門への影響は避けられないだろう。顧客離れを防ぐためには、再発防止策の実効性を高め、顧客との信頼関係を再構築することが急務となる。
野村證券は今回の事件を深刻に受け止め、再発防止に全力を挙げるようだが、社内調査の徹底、情報管理体制の強化、コンプライアンス意識の向上など、多岐にわたる取り組みが求められる。また、金融庁など関係当局との連携も不可欠だ。
事件の全容解明と再発防止策の実効性について、社会全体が注視している。