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日本企業の生産性の悪さの原因は「なまじ」頭が良くて本質を知らないエリートの多さにある

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イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ!

最近の経済現象をゆる~やかに切り、「通説」をナナメに読み説く連載の第12回!イマドキのビジネスはだいたいそんなかんじだ‼

LCCの整備マニュアルの作り直しを阻むやつら

 「そう、ずっと遅れてるのよ。年度末にまとめる予定になっているんだけど、3ヵ月経っても、予定の5分の1もできていないのよ…」

 そう話すと、冷めかけたコーヒーに目を落とし、「ふ〜」とも「はぁ〜」ともつかないため息を漏らした。

 彼女は、新興のLCCの整備部門の課長だ。前職では大手航空会社のグランドスタッフとして、カウンターサービスなどを担当してきた。仕事の限界を感じていたところに募集がかかったのがそのLCCの整備部門。彼女には工学系のバックグラウンドはないが、「ダメもと」で応募したところ「なぜだかわからないけど」(本人の弁)、合格。めでたく整備部門への配属となったという。

 ただ整備の現場で実作業ができるわけでもない。与えられたのが整備マニュアルの整理・改定。機体整備は航空会社のまさに生命線。その整備方法や手順が間違えば即事故につながる。そのLCCは大きな事故は起こしていないものの、国交省から度々調査や指導を受けるなどトラブルが続いていた。
そこで改めて整備マニュアルを作り直すプロジェクトが立ち上がった。しかるべき経験を持つ人が集められ、彼女はそこにサポート要員として採用されたようだ。しかしプロジェクトは一向に進まない。

 聞けば、実際にマニュアルを見直している担当者が、それぞれ出身母体が違う人たちで、用語1つ1つに対して「我が社(大手航空会社A)ではこうだった」「いや、私の出身の会社(大手航空会社B)」ではこう定義していた」「いやいや当社では(外資系運輸会社)こういう解釈もしていた」と用語の解釈定義づけを巡って、細かいぶつかり合いが続いているのだという。

プロジェクトチームには元国交省の技官などもいて、国の方針や条例などの基本案をつくった人もいるから、なおさら紛糾する。「俺がルールブックだ」と言い放ったかどうかは知らないが…。

用語の統一は専門に任せ、本来の業務に集中せよ

 最も激しく対立した用語が、「日本国」だそうだ。日本という国名ではなく「自国」をどう表現するかで口角泡を飛ばす、侃々諤々の言い合いが起こったらしい。すなわち「我が国」か「日本」か「本邦」か、である。

 言葉の定義や解釈は重要だ。とくに理工系の業務ではしっかり定義共有されなければならない。ただ聞いていると明らかに時間の無駄遣いをしているとしか思えないやり取りもある。

 たとえば「おこなう」を「行う」とするか「行なう」とするか、「あらわす」を「表す」か「表わす」にするのか、とかだ。

 「んなこと、どっちでもいいじゃん」と一般の人は思うかもしれないが、ここは出版に関わる人間としては言っておきたい。

 「大事だ」。

 新聞や一般書籍(小説を除く)の用語表記についてはルールがあって、「ここでは『おこなう』を『行なう』という書き方で統一する」ということを決めている。新聞社などでは「記者ハンドブック」、出版社では「用字用語辞典」という本が準拠元になる。

 問題なのは、一般企業が「じゃあ、うちでもそういうルールをしっかり決めよう」と取り組むことだ。言ってることが矛盾するが、文章というのは、元来相手に間違いなく情報が伝わればいい。だから「行なう」が「行う」となっていたとしてもそれは「どうでもいい」。

 そこはすでに新聞社や出版社が使っている「記者ハンドブック」や「用字用語辞典」に準拠すればいいのであって、何も自社で一からルールをつくる必要はない。

 彼女の口ぶりから拝察すると、そのどうでもいいことにエネルギーを使って本来の正しい整備のあり方に割く時間がどんどんなくなってしまっているようなのだ。

いったいそのお歴々は、自分の時給がいくらなのかを考えたことがあるのだろうか。元大航空会社の整備本部長とか国交省の技官ともなれば、LCCとはいえ、かなりの給料が出るはずだ。

はっきり言おうか。

「馬鹿なの?」

ディベートは議論の本質を骨抜きにしてしまう

 実はこうした問題は結構世の中の企業で起きている。彼らは「大会社にいた賢いエリート」というだけで、新しい現場を仕切りたがるので、本来業務とは違うところにエネルギーが使われがちとなる。

こうした賢いエリートたちは往々にして「万能感」を持っていたりするから、世の中を「知っているつもり」となり、出版社が表記を「用字用語辞典」で統一しているなど露ほども思わない。で、余計な鍔迫り合いとか忖度することにエネルギーを使う。

 日本企業の生産性が低いのはいまに始まったことではないが、このエリートたちの万能感とか忖度が払拭されない限り、日本企業の生産性は上がっていかない。

 日本は「おもてなし」の国だという。察するにおもてなしの淵源は、この変な万能感のあるエリートたちからお金を引き出すために生まれた忖度力にあるのではあるまいか。

 忖度力の高い人は往々にして出世する。だって忖度されるほうは気持ちがいいんだもの、見返りの1つや2つは出してもいいと思ってしまう。他の人間は別としても、だ。つまり忖度は特定の個人や小集団で働く性質のもので、広範で長期の利益や、課題の本質的な解決においてはその効果は発揮されない。

 逆説的だが、先の「我が国」「日本」「本邦」問題は、その忖度の縛りが消えたからこそ起こった現象だと言える。議論を重ねることに意味がないとは言わない。だが議論のテーマそのものがずれている。

 こうした無駄な議論が生まれる原因の1つに「ディベート」文化が定着しつつあることがあるとワタシはみている。ディベートは、本質的な課題の抽出や解決策の提案と検証ではなく、相手の論を打ち負かすことに重点が置かれているからだ。

そもそも議論というものは、「どうもおかしい」と思っているというものをあぶり出し、そのおかしい現象を課題として特定し、特定された課題の解決策を探し、組み立てていくためのテーブルである。

 AかBかで決着させるのではなく、AとBのいいとこ取りをした新たなCやC’を導くところにある。いささか難しい用語でいうと「止揚」とかいうヤツだ。

 くだらない自慢話やプライドを披露したり、一方的に相手をやり込めるための場ではない。

 「ふ〜っ」

そりゃあ、ため息も出るさ。

 イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

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ライター:

フリーランス歴30年。ビジネス雑誌、教育雑誌などを中心に取材執筆を重ねてる。小学生から90代の人生の大先輩まで取材者数約4,500人。企業トップは500人以上。最近はイラストも描いている。座右の銘「地の塩」。

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