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ESGの温故知新 渋沢栄一編(企業価値とESG #5)

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ESGは現代的な概念のように思われるかもしれませんが、実は日本には古くからESGに通じる思想や行動がありました。その代表的な人物が、明治時代の実業家であり、日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一です。渋沢栄一は現代のESGの考え方に先駆けて、環境や社会やガバナンスに配慮した経営や投資を実践していたと言えます。本稿では、ESGと渋沢栄一についてご紹介します。

渋沢栄一とESGの関係性

近年、企業の社会的責任や持続可能性に関する取り組みが注目されています。ESGは、企業の経営や投資において、単に利益や成長だけでなく、社会や環境への影響や貢献も考慮することを意味します。

ESGは近年生まれた概念というわけではなく、日本には古くからESGに通じる思想や行動がありました。その代表的な人物が、日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一です。

渋沢栄一は、日本初の国立銀行である第一国立銀行(現在のみずほ銀行)の創設者であり、その後も多くの企業や組織を設立しました。しかし、彼は単なる金儲けに走る人物ではありませんでした。「論語と算盤」をモットーに掲げ、経済活動と道徳を両立させることを目指したことで広く知られています。彼は自らの事業で得た利益を社会に還元することを重視し、教育や福祉などの公益事業にも積極的に関わりました。

環境(E):渋沢栄一の「自然との共生」の思想

渋沢栄一は、自然と人間は互いに依存し合っているという「自然との共生」の思想を持っていました。彼は、「自然界は人間界よりも優れており、人間界は自然界から恩恵を受けている」と考えていました。そのため、人間は自然を尊重し、破壊しないようにしなければならないと主張しています。

彼はまた、「自然界は万物が調和しており、人間界もそれに倣わなければならない」と考えていました。そのため、人間は自分だけでなく他者や社会全体の幸福も考えるべきだと説いています。

渋沢栄一は、このような思想をもとに、自然保護や環境改善に関する多くの事業や活動を行いました。例えば、以下のようなものがあります。

・日本初の公園である上野公園の整備に尽力し、植物園や動物園などの施設を設置

・日本初の水道事業である東京水道の創設に関わり、清潔な水の供給を実現

・日本初の電力事業である東京電燈(現在の東京電力)の設立に協力し、石油や石炭などの化石燃料に代わる水力発電を推進

・日本初の農業協同組合である農工銀行(現在の農林中央金庫)の設立に関与し、農民の生活向上や農業技術の発展に貢献

渋沢栄一は、自然と人間の調和を重視することで、現代の環境問題にも対応できるような先見性を持っていたと言えます。

社会(S):渋沢栄一の「合本主義」に見るステークホルダー思考

渋沢栄一は、社会においては「合本主義」という考え方を提唱しました。合本主義とは、自分だけではなく他者や社会全体の利益も考慮することで、最終的には自分の利益も高まるという考え方です。渋沢栄一は、「人間は社会的動物であり、他者と協力しなければ生きていけない」と考えていました。

渋沢栄一は、このような思想をもとに、社会貢献や公益事業に関する多くの事業や活動を行いました。例えば、以下のようなものがあります。

・日本初の私立大学である早稲田大学や日本初の女子大学である女子大学(現在の日本女子大学)など、多くの教育機関の設立に関与し、教育普及に努めた。

・日本初の保険事業である東京火災保険(現在の東京海上日動火災保険)や日本初の年金事業である日本年金基金(現在の日本年金機構)など、多くの社会保障制度を創設し、国民の安全・安心に寄与した。

・日本赤十字社や日本財団など、多くの慈善団体や公益法人を設立し、災害救助や医療支援などに関わった。

・朝鮮半島や台湾など、日本が統治していた地域においても、教育やインフラなどの近代化に尽力し、地元住民と友好的な関係を築こうとした。

渋沢栄一は、現代のステークホルダー思考に通じるような先見性を持っていたと言えるでしょう。

ガバナンス(G):渋沢栄一の「論語と算盤」に学ぶ経営倫理

渋沢栄一は、経営においては「論語と算盤」という言葉をモットーに掲げました。論語は、孔子やその弟子たちの言行録であり、儒教の基本的な教えを伝える書物。算盤は、計算や会計に用いる道具です。彼は「論語と算盤」という言葉で、道徳と利益の両立を目指すことの重要性を説いています。

渋沢栄一は、「経営者は社会のリーダーであり、道徳的な責任を持つべきだ」と考えていました。そのため、経営者は自らの行動や判断において、常に正義や公正さや誠実さを重視するべきだと主張しています。彼はまた、「経営者は利益を追求することも大切だが、それだけではなく社会に貢献することも大切だ」とも考えていました。

渋沢栄一は、このような思想をもとに、経営倫理やコーポレートガバナンスに関する多くの事業や活動を行いました。例えば、以下のようなものがあります。

・日本初の商工会議所である東京商工会議所の設立に関わり、日本の産業界の発展や協調に貢献

・日本初の企業組合である日本製紙連合会(現在の日本製紙協会)や日本初の企業連合である日本産業連合会(現在の日本経済団体連合会)など、多くの業界団体や企業団体を設立し、企業間の競争や協力を促進

・日本初の株式会社法である商法(現在の会社法)の制定に協力し、株式会社制度や株主権利などの法的枠組みを整備

・日本初の企業倫理研究所である渋沢栄一記念財団(現在の渋沢栄一記念財団総合研究所)を設立し、企業倫理や社会責任に関する研究や教育に尽力

渋沢栄一は、経営においては道徳と利益の両立を目指すことで、現代のコーポレートガバナンスにも対応できるような先見性を持っていたと言えます。

ESG投資:渋沢栄一の「いいお金の使い方」の教え

渋沢栄一は、投資においては「いいお金の使い方」という言葉を用いました。いいお金の使い方とは、自分の利益だけでなく社会の利益も考慮することで、最終的には自分の利益も高まるという考え方です。渋沢栄一は、「お金はただ持っているだけでは意味がなく、社会に役立てることが大切だ」と考えていました。そのため、投資家は自分だけではなく他者や社会全体の幸福も考えるべきだと説いています。

渋沢栄一は、このような思想をもとに、ESG投資に関する多くの事業や活動を行いました。例えば、以下のようなものがあります。

・日本初の証券取引所である東京証券取引所(現在の東京証券取引所グループ)の設立に関わり、日本の資本市場の発展や透明性に貢献

・日本初の社債である第一国立銀行社債や日本初の外債である日本政府外債など、多くの債券発行に関与し、日本の財政や国際信用に寄与

・日本初の信託事業である東京信託(現在の三菱UFJ信託銀行)や日本初の投資信託である日本投資信託(現在のニッセイ基礎研究所)など、多くの信託・投資商品を創設し、投資家の選択肢やリターンを増やした。

渋沢栄一は、現代のESG投資に通じるような先見性を持っていたと言えるでしょう。

21世紀版の「論語と算盤」を目指して

このように、渋沢栄一は環境や社会、ガバナンスに配慮した経営や投資を実践していました。しかし現代社会では、このような渋沢栄一の思想や行動が十分に実践されているとは言えないでしょう。多くの企業や投資家は、短期的な利益や成長を追求することに偏りがちです。

21世紀版の「論語と算盤」を実践するためには、以下のような取り組みが考えられます。

・ESGに関する情報や指標を積極的に収集、分析し、公開することで、自社の現状や課題を把握し、改善策を立案する。

・ESGに関するステークホルダーとの対話や協働を促進することで、社会的なニーズや期待に応えるとともに、新たなビジネスチャンスやイノベーションを創出する。

・ESGに関する教育や啓発活動を行うことで、自社の従業員や取引先、顧客などにESGの意義や価値を伝えるとともに、参加や貢献を促す。

・ESGに配慮した投資商品やサービスを提供することで、自社の資金調達や資産運用においてESGの観点を反映させるとともに、投資家や消費者にESGの選択肢を提供する。

以上のような取り組みは、渋沢栄一が説いた「論語と算盤」の精神に沿っており、21世紀の持続可能な社会の実現に向けて有効だと考えられます。

出典:論語と算盤(渋沢栄一 著、角川ソフィア文庫)

次回のコラムでは、「ESGの温故知新 三野村利左衛門編」について解説します。

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ライター:

1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。 プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。 2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。 現在は、複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや企業価値向上、海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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