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ESGの温故知新 近江商人編(企業価値とESG #4)

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ESG 三方よし

近江商人が守ってきた経営哲学「三方よし」は、現代のESGやSDGsにも通じる考え方です。

本稿では、三方よしを具体化した伊藤忠商事のサステナビリティ推進基本方針や、三方よしに環境・次世代への責任を加えた「六方よし」という新たな考え方についてご紹介します。

近江商人の「三方よし」とは何か? ESGやSDGsとの関係

近江商人は、江戸時代から明治時代にかけて、近江国(現在の滋賀県)に本店を置き、全国各地で商売を展開した商人の総称です。

彼らは、自分たちの利益だけでなく、社会の利益も考える「三方よし」という経営哲学を持っていました。

三方よしとは、「売り手よし、買い手よし、世間よし」ということで、商売において売り手と買い手が満足し、さらに社会貢献もできることを目指すという考え方として広く知られています。

近江商人は、この三方よしの精神に基づいて、進出した地域の人々や文化と交流し、信頼関係を築きました。

また、得た利益の一部を教育やインフラなどの公共事業に寄付したり、地域の発展に貢献したりしました。

近江商人は、自分たちの商売が社会に与える影響を常に意識し、持続可能な経済活動を行っていたといえます。

現代では、この三方よしの考え方は、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)という概念とも重なるでしょう。

ESGは、企業が経済的な利益だけでなく、環境や社会への責任や倫理的な経営を重視することを指します。

一方のSDGsは、国連が定めた2030年までに達成すべき17の目標であり、貧困や飢餓、気候変動などの世界的な課題に取り組むことを目指します。

このESGやSDGsは、企業や個人が自らの行動が社会や地球に与える影響を認識し、持続可能な未来を実現するために必要なものです。

近江商人の三方よしは、その先駆的な例といえるでしょう。現代でも、近江商人から学ぶことは多くあります。

三方よし以外にも知られている近江商人の言葉

近江八幡の水郷
近江八幡の水郷(PhotoACより)

「三方よし」は、もっとも知られている近江商人の言葉といえるでしょう。しかし他にもたくさんの言葉を後世に遺してくれています。ここで、いくつかご紹介します。

「先義後利栄 好富施其徳」
これは、「義を先にすれば、後に利は栄え、富を好とし、その徳を施せ」という意味で、人としての道理を守り、得た富に見合った善行を行うことを説いた言葉です。

「自利利他 円満の功徳」
これは、「利益が得られるのは、自分以外の人の利益を考えるからである。他人に利益を与えようとする心の行をすれば自ずと自分に利益が返ってくる」という意味で、自分の利益と他人の利益は矛盾しないという考え方です。

「利真於勤」
これは、「利は勤るに於いて真なり」という意味で、「三方よし」が近江商人の存在理由であるとするなら、その任務は物資の流通にあると定めたもので、利益はその任務に懸命に努力したことに対する、おこぼれに過ぎないという理念を言い表したものです。

「売って悔やむ」
これは、「顧客の望むときに、売り惜しみせずに販売し、売った後で、これほどの人気商品をこんなに安い値段で売るのはちょっと惜しいと後悔するような取引をせよ」という意味で、売り手が損をしたと感じるということは、買い手は儲かるということであり、それが商売を長続きさせる秘訣であることを説いたものです。

「商売は世のため、人のための奉仕にして、利益はその当然の報酬なり」
これは、「商売は社会や人々に貢献することであり、その見返りとして得られる利益は当然のものだ」という意味で、商売は単なる金儲けではなく、社会的な使命感を持つべきだという教えです。

「店の大小よりも場所の良否、場所の良否よりも品の如何」
これは、「店舗の規模や立地条件よりも、商品の品質や価値が重要だ」という意味で、商売において最も大切なことはお客様に満足してもらえる商品を提供することだという教えです。

「売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永遠の客をつくる」
これは、「商品を売る前にお世辞や甘言で客を引きつけるよりも、商品を売った後にアフターサービスやフォローアップを行うことで、客の信頼やリピートを得ることができる」という意味で、商売において長期的な関係を築くことの重要性を説いた教えです。

「資金の少なきを憂うなかれ、信用の足らざるを憂うべし」
これは、「資金が少ないことを心配するよりも、信用がないことを心配するべきだ」という意味で、商売において最も必要なものはお金ではなく信用だという教えです。

「無理に売るな、客の好むものも売るな、客のためになるものを売れ」
これは、「客に無理やり商品を押し付けたり、客の好みだけに合わせたりするのではなく、客にとって本当に必要で有益な商品を提供するべきだ」という意味で、商売において最も大切なことは客のニーズや利益を考えることだという教えです。

三方よしを経営理念に掲げる伊藤忠商事

伊藤忠商事株式会社は、日本の大手総合商社の一つです。

同社は2020年4月に創業160周年を迎えました。同社の創業者である初代伊藤忠兵衛は近江商人の出身であり、「三方よし」の精神を経営の根幹に据えてきました。

伊藤忠商事は、三方よしを具体化したサステナビリティ推進基本方針を2018年に策定しています。

同方針では、「お客様・取引先」「従業員」「株主・投資家」「地域社会・NGO/NPO」「行政・産業界」「地球環境」の6つのステークホルダーに対して、責任ある行動や価値創造を約束しています。

また同社は、ESGやSDGsにも積極的に取り組んできました。2020年12月には、総合商社として初めてMSCI ESG格付け評価で最上位のAAAを獲得。

環境保全や食料安全、教育支援などの分野でさまざまな事業やプロジェクトを展開し、社会課題の解決に貢献しています。

伊藤忠商事は、三方よしの精神を守りながら、時代の変化に対応し、持続可能な成長を目指しています。グローバルな視野と地域への貢献を両立させることで、企業価値を高めているといえるでしょう。

三方よしを超える「六方よし」という新たな経営哲学

近江商人の三方よしは、特に江戸時代から明治時代にかけて有効だった経営哲学であり、今も受け継がれていますが、現代ではそれだけでは不十分であるという声もあります。

なぜなら、現代の経済活動はよりグローバル化し、サプライチェーンが複雑化し、地球環境や次世代への影響も大きくなっているからです。

そこで提唱されているのが、「六方よし」という新たな経営哲学です。

六方よしとは、三方よしに「作り手よし」「地球よし」「未来よし」を加えたもので、「売り手よし、買い手よし、世間よし、作り手よし、地球よし、未来よし」ということです。

「作り手よし」とは、サプライチェーン上の生産者や労働者が適正な報酬や待遇を受け、人権や安全が守られること。

「地球よし」とは、自然資源や生態系を保護し、気候変動や廃棄物などの環境問題に対処すること。「未来よし」とは、今の世代だけでなく、次世代や将来の世代にも負担をかけずに済むことです。

この六方よしは、ESGやSDGsとも一致する考え方であり、持続可能な開発を目指す企業や個人にとって有用な指針といえます。

近江商人が築いた三方よしの伝統を受け継ぎつつ、六方よしで時代に合わせて進化させることが求められています。

このコラムでは、近江商人の経営哲学「三方よし」について紹介しました。三方よしは、売り手と買い手が満足し、社会貢献もできることを目指す考え方です。

伊藤忠商事は、三方よしを実践する企業の一つであり、サステナビリティ推進基本方針や事業活動を通じて、社会課題の解決に取り組んでいます。

近年では、「六方よし」という新たな経営哲学が提唱され、サプライチェーンや環境や次世代への責任も考慮します。

六方よしは、持続可能な開発を目指す企業や個人にとって有用な指針となるでしょう。近江商人から学ぶことは多くありますが、時代に合わせてさらに進化させることも大切です。

次回のコラムでは、「ESGの温故知新 渋沢栄一編」について解説します。

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ライター:

1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。 プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。 2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。 現在は、複数の企業で経営戦略チームの一員としてM&Aや企業価値向上、海外進出等に携わるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

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