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脱炭素社会の実現へ担い手を養成~対話がセクターを超えた組織・人同士の繋がりを育む【SDGs新時代を読む第2回】

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一般社団法人Green innovation理事/共同代表 坂野晶

脱炭素社会の実現には、GX(グリーントランスフォーメーション)の新しい時代を担う若い世代の力が欠かせない。温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標年次の2050年は27年後。

今の大学生たちが社会の中核となる時代だが、残された時間的な猶予は少ない。脱炭素社会の実現には、世代やセクターを超えた協働とイノベーションが必要だ――。

その実装のために始めた実践型のイノベーター育成プログラム“Green Innovator Academy”。次世代のイノベーター1000人の輩出を目標に、脱炭素社会の実現に向けた壮大な挑戦が動き出した。

(一般社団法人Green innovation理事/共同代表 坂野晶)

専門家を講師に迎え、200人の若者を育成

サステナビリティ(持続可能性)を重視する社会を求める声は強まる一方だが、現実には再生可能エネルギーの導入、ごみの堆肥化、資源回収の仕組みづくり、食品ロスの削減など地域が取り組むべき施策と実現に向けた課題は多技にわたる。

そして特に深刻なのが、それら取組の推進をするための担い手不足だ。

持続可能な社会の若手リーダーを育成するため、一般社団法人Green innovationが事務局となって推進しているのがGreen Innovator Academy(GIA)。

今治.夢スポーツ代表取締役会長で元サッカー日本代表監督の岡田武史さんが校長を務め、幅広い分野のトップリーダーによる講義や対話、フィールドワークなど、半年間にわたって受講するイノベーター育成プログラムで、現在、第2期生まで合計約200人が巣立っている。

2030年までに脱炭素社会の実現を牽引する次世代のイノベーター1,000人を輩出することを目指すことが目標だ。

GIAで大学生や大学院生、若手社会人らが対話や実践を通じてリーダーシップやビジネス開発、政策提言に関する能力を磨き、大きく成長していく姿をみると、若手の育成に手応えを感じる。

ただ、解決すべき課題は現場にある。やはり、GXをめぐる課題を抱えた地域社会の現場で経験を積んでほしいとの思いもある。

長野県小布施町でインターン、資源回収拠点などを整備

コンポスト製作のワークショップ(長野県小布施町)
コンポスト製作のワークショップ(長野県小布施町)

そこで昨年、GIAを卒業した学生を積極的に地域の現場に送り込もうと、様々な座組で試行した。結果的に、まずは3人の卒業生が長野県小布施町で活動することとなった。

小布施町は筆者が代表理事を務める一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンが協働し、事業を行う自治体のひとつだ。

町が募集した「地域おこし協力隊インターン」として2人が昨年8月から3カ月間、現場で住み込みながら活動した。

もう1人は信州大学の学生で、現地に定期的に通いながらより長期的に地域と関わっている。
具体的な活動としては、地元のスーパーと協力して、店舗の駐車場での資源回収を試験的に実施した。

これは資源回収強化のためにこれまで進めてきた施策を自治体主導で実施するものだが、インターン生は来店した地元住民の意向についてアンケート調査をし、その結果も活かしながらリユース品の交換会も企画した。

また、生ごみを堆肥にしたり、果樹農家から排出される剪定枝(せんていし)から炭をつくったりする施策にも参画した。

特に学生たちの成長を感じられたのは、生ごみを土に還すコンポストを製作するワークショップの運営。

近隣地域で活動する団体の協力を得て、廃棄されるリンゴ箱をもらいうけ、これを活用することで材料費を抑える工夫をした。

ワークショップ参加者へのプレゼンテーションも回を重ねるごとに磨きがかかり、住民の反応もよくなっていった。すべて任せても大丈夫だと思えるほどの成長ぶりだった。

島根県雲南市では2カ月で70基以上のコンポスト設置

子どもたちとごみの学習会(島根県雲南市)
子どもたちとごみの学習会(島根県雲南市)

もうひとつ、地域での取り組み事例を紹介したい。島根県雲南市には、昨年、4人のGIA卒業生を送り込んだ。

市民の寄付で発足した公益財団法人うんなんコミュニティ財団と協力して、住民へのごみ問題に対する啓発をしながら、家庭ごみの約4割を占める生ごみを土に還す装置「キエーロコンポスト」をつくり、地域に普及させるというミッションに4人は挑んだ。

市内には30の自主組織があり、各組織に紐づく交流センターがある。こうした地域内の拠点で20回以上の学習会を開き、市民に参加してもらい、たった2カ月間で70基以上のコンポストを市内に設置した。

以前からの取り組みの積み重ねもあり、雲南市は昨年6月、「雲南市脱炭素宣言」を表明、「ごみゼロ社会の実現」は政策の柱のひとつになっている。

雲南市はボトムアップ型の市民パワーが強いことから、地域の力で一気にコンポストを普及させることができた。

それでも雪ダルマ式にコンポストを増やすことができたのは、学生たちが足を動かした成果だ。

市民とのコミュニケーションを大切にしてコンポストをつくる体験の機会を増やしていくと、口コミでコンポストの設置が広がっていった。

机上の空論ではなく、学生たちは地域を理解したいと思って、現場に飛び込んでいった。

市民の話を聴かせてもらい、自分たちも勉強しながら、その一方で自分たちの活動についてもしっかりと伝えて理解してもらえた。

生ごみを焼却しない社会は脱炭素社会の実現につながる。生ごみの重量の約8~9割は水分。これを燃やすには大量の化石燃料が必要であり、結果、大量の二酸化炭素を排出してしまう。

こうした現実を変えていくために、学生たちが地域社会の中で具体的なアクションをして成果を残したことに手応えを感じている。

企業経営者は若者と対話し、イノベーターが活躍する機会創出を

キエーロコンポストで環境保護(島根県雲南市)
キエーロコンポストで環境保護(島根県雲南市)

筆者自身が地域の現場にこだわるのは、徳島県上勝町でNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー理事長として5年間、ゼロ・ウェイストの地域づくりを実践してきた背景に由来する。

ごみを45種類に分別し、生ごみは土に還す。消費者が容器を持参し、食材を必要な量だけ小分けする「量り売り」の普及も図るなど、様々な取り組みの積み重ねで町のリサイクル率は80%超に達した。

GIAから巣立つ若者が地域の中で困難に直面しつつも地域の人々とのコミュニケーションを大切にしながら前に進もうとする姿をみると、そんな時代の自分を振り返っているような気持ちにもなる。

企業経営者の中には、サステイナビリティについての感度が高い若い世代とどう向き合い、積極的に採用していくにはどうすればいいのかと苦慮する人もいるが、まずは対話を勧めたい。

例えば、ユーグレナは10代の若者をCFO(最高未来責任者)にして、持続可能な会社の姿について意見を聞いている。

いきなりCFOは無理だとしても、インターンシップなどの機会を活用して若者を社内に迎え入れ、現状はどうなっていて、何が課題なのか、次のステップにもっと早く進めないのか、そんな対話ができる機会を増やしてもらいたいと考えている。

そのためにも若者自身も視座を上げ、対話ができる耐性と知見、そして自らの意見を醸成するサポートが必要だ。それをサポートするのがGIAの使命でもある。

地域の現場だけでなく、企業の現場においても未来のイノベーターたちがもっと活躍できる機会を増やしていけば、産業界のGXも大きく動き出し、脱炭素社会の実現につながると期待している。

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ライター:

sakano akira

坂野 晶 (一般社団法人Green innovation 理事/共同代表)

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一般社団法人Green innovation 理事/共同代表。 1989年生まれ、兵庫県出身。日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った徳島県上勝町の廃棄物削減、循環型社会のモデル形成に貢献。2019年、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)共同議長に選出。2020年より一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表。2021年、脱炭素イノベーションのための人材育成プログラム「Green Innovator Academy」を共同設立。2023年より株式会社ECOMMIT取締役CSOに就任。

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